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Blood Red  作者: 井村六郎
Episode11
21/40

前編

「ん……」


 真子は目を覚まし、起き上がろうとする。しかし、それは出来なかった。


「!?」


 気付くと、真子は椅子に座らされており、両手を鎖で、椅子に縛り付けられていたのだ。足も、同じような状態である。


「な、何よこれ!?」


 暴れる真子。しかし鎖は頑丈で、普通の女子高生でしかない真子の力では、とても抜け出せそうにない。


「おや、起きたかね」


 それでもどうにか逃げ出そうとして、鎖をガチャガチャと鳴らして暴れていると、背後からドアが開く音が聞こえて、それから老人の声が聞こえた。


「えっ!?」


「ああ、そのままそのまま」


 老人は振り向こうとする真子を言葉で制し、指を鳴らす。


「きゃっ!!」


 すると、ただの椅子だったはずの椅子が、車椅子に変形した。驚く真子に全く構う事なく、老人は車椅子のグリップを手に取り、その場で反転し、真子を連れて部屋を出た。


 車椅子を押して、廊下を進む老人。真子は周囲を見回し、ここはどこかのオフィスビルのような場所であると感じた。


「ここどこ? 私をどこに連れていくつもり?」


 自分は学院にいた。そこで体調を崩し、瑠阿に保険室に連れていってもらって、そこから先の記憶がない。


 何が起きたのかはわからないが、自分は今こんな所にいて、自分をどこかに連れて行こうとする怪しげな人物がいる。そこから考えて、この老人に誘拐されたのは明らかだった。


 これ以上どこに連れて行くつもりなのか、真子は老人に訊ねる。


「詳しい説明は、わしの主がして下さる。今は黙っておれ」


「主?」


 老人は質問に答えない。だが、今この老人の主人のいる所に連れて行ってくれているようなので、そこで答えるそうだ。どのみち逃げ出せそうにないので、真子は大人しく従った。



 エレベーターに乗り、最上階へ。そこの社長室と書かれている部屋の前で、老人は止まる。


「お連れしました」


「入れ」


 老人がドアをノックすると、ドアの向こうから男の声が返ってきた。それを待ってから、老人はドアを開けて、車椅子を押して部屋に入る。


 中では男が待っていた。右目の瞳が紫色の、不気味な男性だ。


「まずはお詫びを。手荒い真似をして申し訳ない」


 男性は真子を誘拐してきた事を詫びた。意外な対応だったが、真子は目的を忘れない。


「あんた、誰? ここはどこなの? 何でこんな事したのよ!?」


 すごい剣幕で質問攻めにしたが、男性は全く怯まず、真子の質問に答えた。


「私はエルクロス・リーゼカイン。表向きには、ルイ・アグファと名乗っているがね。ここは上海。そして、私が経営する株式会社、紫龍(ズロン)カンパニーの本社ビルだ。今は用があって、私の直属の部下以外には退避してもらっているがね。もうじきここは戦場になる」


「戦場、ですって?」


「そうだ。君のそばにいたお友達と、そのそばにいた奇跡の姉妹の妹が、ここに来る」


 友達とは瑠阿の事。そして奇跡の姉妹の妹とは、メアリーの事だ。メアリーが奇跡の姉妹と呼ばれるダンピールの妹だという事は、瑠阿から聞いた。


「君は彼女らをおびき寄せる為の、餌の役割を果たしてもらう。何の力も持たない一般人でありながら、彼女らと交流を持つ君の存在は、人質として実に都合の良い存在なのでね」


「何の為に瑠阿達を狙うの? 何が目的なのよ!?」


 聞きたい事だらけ、わからない事だらけだ。しかし、相応の理由があるという事だけは、おぼろげながらもわかる。


「それを話す前に、君に教えておきたい事がある。私は、不老不死だ」


「……は?」


 突然、自分が不老不死である事をカミングアウトしたエルクロス。しかし、そんな事を言われてもわかるわけがなく、真子は信じなかった。


「面白いものを見せてやろう」


 と、エルクロスは上着を脱いで、壁に立て掛けてある剣を一本、取る。


 その剣で、自分の左腕を斬り落とした。


「!!!」


 衝撃を受ける真子。左の肘から先がなくなり、鮮血がドバドバと溢れ出ている、おぞましい光景。耐性がある真子でなければ、失神していてもおかしくない。


 だが、その左腕が、瞬く間に再生してしまった。


「素晴らしいだろう? ジャスティスクルセイダーズのバイオパラディンでも、こうはいかない」


 再生した左腕を、真子に見せつけるエルクロス。


「特別禁止級禁呪、コッペリオンハート。使った者に不老不死の肉体を与える、素晴らしい魔法だ。こんな素晴らしい魔法を、ジャスティスクルセイダーズでは禁止していたのだから、全く信じられない話だよ」


「……あんた、ジャスティスクルセイダーズにいたの?」


「ああ。私は元々あの組織で、白服の座についていた者だ。だが、気付いたのだよ。今のやり方では手ぬるい! 確固たる力を持つ者が不老不死となり、世界を治め、魔族を完全に駆逐するべきだとね」


 エルクロスは、自分が元ジャスティスクルセイダーズである事を隠さない。隠す必要がないからだ。正確に言えば、隠しても隠さなくてもどちらでもいい。これから先、自分がこの世界の王となり、魔族を殲滅する事を考えれば、ジャスティスクルセイダーズは有象無象の取るに足らない集団と同じだ。


「だが、そんな私にとって唯一、天敵と呼べる存在がいる。魔族と関わりの深い君なら、わかるね?」


「……ダンピール」


 なぜ自分を人質に取ったのか、真子はその理由を、だんだんと掴みかけてきていた。目的は、不死身の存在を殺害出来るダンピールのメアリーを、殺す事だ。


「あんたは、メアリーさんを殺すつもりね?」


「……殺すかどうかは彼女の態度次第だ。何せ彼女は、ただのダンピールではない。メルアーデ・ブラッドレッド。あのマリアージュ・ブラッドレッドと対を成す、最強のダンピールの一人だ。ぜひとも手元に置いておきたい」


「マリアージュ……」


 聞き覚えのない名前が出てきた。しかし、簡単な推測は出来る。性がブラッドレッド。という事は、そのマリアージュというダンピールが、瑠阿の言っていた、メアリーの姉なのだろう。


「マリアージュは非情な女性だと聞いているが、私が聞く限りメルアーデの方は情に厚い人物らしいからね、こちらを引き入れる事にしたのだ」


 どうもマリアージュを手に入れる事は、かなり難しいらしい。しかし、メアリーは人当たりが良く、友人を作ってしまった。エルクロスはそこにつけ込み、真子を人質に取って自分の軍門に下るよう、揺さぶりを掛けるつもりでいるのだ。


「彼女は必ず来る。そして、まずは交渉しよう。私の配下になるなら、君を返すとね。私は彼女を手に入れる目的で君を拉致したから、それさえ済めば君は返してあげるよ」


「メアリーさんはここに……来るでしょうね。あの人優しいから」


「そうだろう?」


「でも、あんたとの取引になんて絶対に応じないわ。それに、来るなら一人で来るわよ。瑠阿までは絶対に連れてこない」


「くくく……ところが、そうでもないのだよ」


 エルクロスは真子に近付く。


「玉宮瑠阿、だったね? 彼女は幼少期に自分の父親を、異端狩りに殺された」


 真子は驚く。その情報は、真子と青羅、そしてメアリーしか知らない情報のはずだ。


 エルクロスは真子に顔を近付けて、教えてやった。


「何で知っているんだ、という顔をしているね? 知っているさ。その異端狩りは、私だ」


「!!!」


 再び衝撃を受ける真子。エルクロスは一度離れ、さらに教える。


「コッペリオンハートの発動に必要な物は、魔女、もしくは魔道士の心臓だ」


 そしてエルクロスは、両手に魔力を込めると、貫手の要領で自分の身体に差し入れ、胸を開いた。


「これが彼女の父、玉宮劉生を殺して奪った、その心臓だよ」


 そこには、小さく圧縮された、紫色に光る心臓が、どくん、どくんと、鼓動を刻んでいる。


「ひどい……自分が不老不死になる為に、瑠阿のお父さんを……!!」


 真子は震える。どうしてこんな、ひどい事が出来るのかと。エルクロスは同じ人間のはずなのに、真子の目には人間の姿をしているだけの、恐ろしい怪物に見えた。


「仕方ない事だったんだ。大義を果たす為の、致し方ない犠牲さ」


 エルクロスが胸を閉じ、両手を引き抜くと、胸の穴は塞がった。


「それにあの男は魔族で、異端狩りに駆除されても文句を言えない存在だった。それを、私が王になる為に使ってやったのだ。むしろ魔族にはもったいない栄誉だと思うよ」


「このクソ野郎!!」


 真子は汚い言葉を吐いて飛び掛かろうとしたが、自身を縛る鎖に阻まれる。エルクロスは上着を着ながら、悠々と語った。


「奴の娘に別の異端狩りが接触している事は調査済みだ。そして、その異端狩りは私が父の仇である事を教え、玉宮瑠阿は必ず私を殺しに現れる」


 ティルアとジンが葵町に派遣されている事を、エルクロスは知っていた。そして、瑠阿やメアリーとともにここに来る事も。


「だが私は死なん。そして私は、メルアーデ以外を生かしておくつもりはない。そうそう、今君の後ろにいる異端狩り、モルドッグというんだがね、彼は実によくやってくれた」


「恐縮でございます」


 モルドッグと呼ばれた老人は、頭を下げる。


「そこで私は、彼にコッペリオンハートを施して不老不死にしようと思う。コッペリオンハートには使った者を若返らせる力もあるらしいから、バイオパラディンの改造手術は必要ないだろう。そしてコッペリオンハートの発動には、玉宮瑠阿の心臓を使う」


「何ですって!?」


 エルクロスは、瑠阿を殺すつもりだ。そして瑠阿の心臓を、部下の為に使おうとしている。劉生にやった事と同じように。


「親子揃って私の役に立てるとは、何とも、名誉な一族だねぇ……」


「うあああああああああああああああああああああ!!!!」


 瑠阿を殺す。しかもその事に対して身勝手な持論を述べるエルクロスに、真子の怒りは爆発した。縛られている事も忘れて、エルクロスに飛び掛かろうと大暴れする。


「瑠阿に手を出したら絶対に許さない!! そんな事したら殺してやる!! このクソやろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「口の利き方に気を付けろ」


 怒り狂う真子の頭に片手を当てたモルドッグは、電流のような魔法を使い、真子を気絶させた。


「お騒がせして申し訳ありません」


「いや、彼女をここに連れて来るようお前に命じたのは、私だ」


 予想以上に真子を騒がせてしまった事を、モルドッグは詫びる。しかしエルクロスからすれば、どうという事はない。少なくとも、これからこのビルで始まる惨劇に比べれば。


「友人を殺され、心臓をえぐり出されるというおぞましい光景を、目と鼻の先で見せられるのは辛かろう。途中で起きられては気の毒だ。念入りに催眠を掛けておけ」


「かしこまりました」


 言われてモルドッグは、真子に催眠魔法を掛けようとする。


「……おや」


 掛けようとして、その作業は中断された。


「来たか」


「はい。どうやら、我々と取引する決心は着いたようです」


 エルクロスは、モルドッグが中断した理由に気付いている。来たのだ、メアリー達が。


 もしかしたらすぐ来るかと思って用意した上で、モルドッグを真子の拉致に向かわせたのだが、来なかった。だからといって、別に臆病者などと罵るつもりはない。むしろ、よく憎悪や焦燥感に負けなかった。よく慎重になったと、評価しているくらいだ。


 親の仇が現れた。友人が攫われた。今すぐ取り返しに行かないと。そんな状態では、まともな取引など出来ない。一度腰を落として、準備をする時間を設ける必要があるのだ。どんな準備でも。


「では、手はず通りに頼むぞ」


「お任せ下さい」


 エルクロスから任されたモルドッグは、交渉に入った。



 ☆




 上海に来たメアリー達。


「すごい……本当に上海に来たんだ……」


 瑠阿は感嘆している。中国に来たのは、何気に初めてなのだ。


「ここのどこかに真子が……瑠阿、上海のどこに向かえばいいか、聞いていませんでしたか?」


「ううん。聞いてない」


 ティルアは瑠阿に訊くが、瑠阿もモルドッグから、上海に来いと指定されただけで、正確な場所は何も伝えられていない。


 早くも手詰まりに陥った、そんな時だった。


(要求通りにメルアーデ・ブラッドレッドを連れてきてくれたようじゃな、玉宮瑠阿)


 一同の頭の中に、声が響いたのだ。


「この声……あの時真子を攫った異端狩り!」


「やはりモルドッグでしたか」


 瑠阿とティルアは、声で正体を察した。


(少し余計な連中を一緒に連れてきてしまったようじゃが、このまま取引に移らせてもらうぞ。メルアーデよ、わしはモルドッグ・ガノン。エルクロス様の右腕じゃ)


(初めましてモルドッグ。で、取引というのは?)


 モルドッグは思念通話の魔法を用いて語りかけてきている。相手が語りかけてきている場合は、こちらが思念通話を使えなくても、念じるだけで会話出来るのだが、メアリーはわざわざ自分も思念通話を発動し、モルドッグからの通信に応対した。


 ちなみに、この思念通話には応用が利き、メアリーは自分の考えが伝わるよう、全員に意識を繋げていた。そしてそれは、モルドッグも同様だ。


(既に察しておると思うが、エルクロス様はお前の力を欲しておられる。そこで、我らはお前の身柄と人質を交換するつもりじゃ。取引に応じるならば、お前一人で紫龍カンパニービルへ来るがいい)


 モルドッグがそう言うと、一同は突然強大な魔力を察知した。この魔力の源が、紫龍カンパニーのビルなのだろう。


(はぁ? それで取引のつもりかい? そんな一方的な取引に応じてもらえるなんて思ったら、大間違いだよ)


(ほう?)


 しかし、メアリーは取引には応じず、挑発的な態度で返事をした。


「ちょっとメアリー!」


 瑠阿は思念通話が使えないので、直接口でメアリーを止めようとした。真子の命はエルクロス達が握っており、こちらの対応次第ではすぐにでも殺されかねない。会話にも行動にも慎重になるべきだというのに、メアリーにはそんな気配が一切見えないのだ。


 しかし、そんな瑠阿に対して、メアリーは軽く一瞥しただけだった。だが、瑠阿にはそれだけでわかる。


 アイコンタクト。メアリーの視線には、『大丈夫。僕に任せて』という強い意志が込められていた。瑠阿はその意志を汲み取り、黙った。


(ずいぶんと強気な態度だな。こちらには人質がいると言ったばかりだぞ?)


 メアリーの態度を、モルドッグも指摘する。


(今ここには、お前達にかけがえのない家族を奪われた、二人の戦士が来ている。その二人の意思を無視して、お前達の仲間になんてなれないわけさ。例え罪のない友人が、人質に取られているとしてもね)


 不死身のエルクロスを倒す手段を用意している。それだけでは、依然としてメアリー達の方が不利だ。それを悟らせないよう、メアリーはわざと強気で話している。


 それに、言っている事自体は間違いではない。真子は大切な友人だが、家族の仇を討ちたいと願っている瑠阿と青羅の意思を、無視する事など、とても出来ないのだ。


(僕だって自分の両親を、お前達の仲間に殺されてるんだよ? そんな連中の仲間になれだなんて、まっぴらごめんだね)


(ではお前が連れている二人の異端狩りは何だ? それはお前がジャスティスクルセイダーズの仲間になった事の、証明ではないのか?)


(利害が一致しただけだよ。本当は僕だけでやるつもりだったけど、自分の組織の不祥事も拭えないんじゃ、ちょっと哀れすぎるし)


 メアリーの言い草にジンが殴り掛けたが、ティルアが止める。


(お前達が何と言おうと、僕は取引には応じない。僕はお前達の仲間になりに来たんじゃなくて、玉宮家の仇討ちに協力しに来たんだから)


 ジンとティルアに協力しに、とは間違っても言わない、ティルアが他の異端狩りと違う事は認めるが、ジャスティスクルセイダーズが自分の敵である事は間違いないし、今回だって彼女らに協力しているわけではないからだ。


(でも素直に真子を返せば、苦しまないよう一瞬で殺してあげる。もし真子を殺せば、地獄の苦しみを味わってから死んでもらうけどね)


 どちらにせよ、殺す事は変わらない。苦しんで死ぬか、そうでないかの違いだ。


(交渉決裂、か。だがな、メルアーデよ。貴様に拒否権など、最初から存在しない。拒否された場合は、痛めつけてから力尽くで従わせよとの、エルクロス様からの御命令なのでな)


 しかし、それはモルドッグとしても同じ事だった。彼らにとってメアリーは、どうあっても絶対に手に入れたい存在だ。つまり、大人しく軍門に下るか、痛めつけられてから従わされるかの違いでしかなかった。


(そんな事だろうと思ったよ。それで? どんな余興を見せてくれるのかな?)


 メアリーは余裕を崩さない。ここに来た時点で、何かしら罠が用意されている事は織り込み済みだし、覚悟はしてきた。


(そうさな……こんな出し物はどうだ?)


 ビルの中で、モルドッグは手を叩いた。その様子を見て、エルクロスは微笑んだ。



 モルドッグが手を叩いたのと、ほぼ同じ時刻。メアリー達の前を歩いていた人々、後ろを歩いていた人々、あちこちにいた人々が全員、雷に打たれたかのように、ビクッ! と震えた後、立ち止まった。車や自転車などの乗り物も、全て止まる。


 そして、全ての人々が、一斉にメアリー達の方を向いた。誰も彼もが、白目を剥いており、ふらふらしながら、こちらに向かってくる。乗り物に乗っていた者は、乗り物から降りて。建物の中にいた者は、建物から出てきて。全員が、メアリー達に向かってきた。


「なるほど、これは予想してなかった」


 メアリーは少し怯んだ。


(この街は既にわしの領域よ。さて、無事にここまで辿り着ければいいな。ふふふふ……)


 不気味な笑い声が聞こえて、それっきりモルドッグの声が聞こえなくなる。


 上海は、長い間エルクロス一味が潜伏していた街だ。敵対勢力が侵入してきた時の備えは、当然してある。それが、モルドッグの特殊術式、イモータルサンクチュアリだ。広範囲に渡って魔法陣を刻み、その中で起きた様々な出来事を知る事が出来る。さらに、その領域にいる魔力を持たない人間を操る事が出来るのだ。


「この街そのものが、私達の敵というわけね……」


 青羅も少したじろぐ。彼女もそれなりに荒事は切り抜けてきたが、こんな戦いは初めてだ。


「う……」


 瑠阿も怯んでしまっていた。エルクロスとその仲間。簡単に勝てる相手だとは思っていなかったが、ここまでとてつもない相手だとは思っていなかった。


「ごめんね」


「えっ?」


 と、メアリーは瑠阿に謝った。


「やっぱり君は連れてくるべきじゃなかったかもしれない」


 メアリーとしても、エルクロス一味がここまでなりふり構わない連中だとは、予想出来なかったのだ。ここはまだ敵の本拠地から遠く、本格的戦いは始まっていない。だというのにこの始末。もしかしたら、瑠阿はこの戦いで命を落とすかもしれない。そう考えると、後悔せずにはいられなかった。


「心配ならしないで」


 しかし、瑠阿はメアリーの心配を振り払った。


「もう決めたの。ここから先、どんな事が起こったとしても、絶対にエルクロスを倒すって! こんな操られてるだけの人間なんて、あたしを阻む障害にはならないわ!」


 恐怖を感じていないと言えば、嘘になる。しかし、真子を救う事と父の仇を討つ事を思えば、闘志を燃やす事が出来た。


「いずれにせよ、やるしかありません。ジン、先に言っておきますが、彼らは操られているだけです。やりすぎてはいけませんよ」


「わかってんだよそんな事は!」


 ティルアからの忠告に、苛立ったように答えるジン。ティルアが言わなければ、絶対にやっていた。


「じゃあ、やろうか!」


 突撃するメアリー。それに合わせるように、瑠阿が、青羅が、ジンとティルアの異端狩りコンビが、駆け出していた。


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