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Blood Red  作者: 井村六郎
Episode10
19/40

前編

「おはよう真子」


「おはよっ、瑠阿っ!」


 朝、学院の教室で会い、いつものように挨拶する、瑠阿と真子。


「おはようございます」


 そこに、ティルアが交じる。


「あ、ティルアさん……」


「……」


 瑠阿は無言で警戒した。真子の声が、少し小さくなる。瑠阿ほどではないが、異端狩りに殺されかけた身として、やはり警戒してしまう。


「……いい加減馴れて下さいませんか?」


 ティルアは、少し呆れているようだ。彼女自身、何度も自分は穏健派の異端狩りであると説明した身なので、流石にこうも警戒されると、くどく感じるのだろう。


「……そうだよね。ティルアさん、この前助けてくれたし」


 真子は警戒を解く。まがりなりにも助けてもらった身なのだから、あまり警戒すると、失礼だ。


「腕は大丈夫?」


 瑠阿は、この前ティルアがメアリーに許してもらう為、自ら斬り落とした左腕を指摘した。その事は、真子も知っている。


「ええ。バイオパラディンとしての回復力もありますが、彼女が優秀な魔女だったおかげで、痕も後遺症も残っていません」


 腕の事を気に掛けてもらえたのが嬉しかったのか、ティルアは少し笑顔を浮かべて答えながら、袖を捲って左腕の、ちょうど斬り落とした箇所を見せた。ティルアが言った通り、傷痕一つ残ってはいない。


「メアリーもびっくりしてたわ。ジンを逃がす為に破れかぶれの特攻くらいはしてくるだろうと思ってたけど、自分の腕を差し出すとは思わなかったって」


「そんな事はしませんよ。怒りを買ったなら、それを鎮める誠意を御見せする必要があると思いまして」


 本当に、どこまでも誠実な異端狩りだと、瑠阿は思った。


「どうしてあなたは穏健派なの? あなた以外に穏健派な異端狩りって、いないんじゃない?」


「一応、メタイト先生が穏健派です」


 興味本位で質問した瑠阿だったが、これは驚いた。ティルア以外にも、穏健派な異端狩りがいるらしい。


「メタイト、先生?」


「白服の一人、メタイト・バルバーノン。私とジンは、オルベイソルの孤児院の出身の幼馴染みで、あの人はそこの先生の一人です」


「なるほど、それで先生ね」


 真子はティルアが、メタイトの事を先生と呼んでいる理由を理解した。瑠阿は、白服が教師の一人を務める孤児院の存在を知って、何だか洗脳されそうな孤児院だと思った。


「それにしても、白服が穏健派か……これって結構、重要な事じゃない?」


 白服はジャスティスクルセイダーズの最高権力者。その一人が、魔族に対して理解を持っているというのなら、魔族の未来はそれほど暗闇に閉ざされている訳でもないかもしれないと、真子は思う。


 しかし、ティルアはそれを否定した。


「いいえ。ジャスティスクルセイダーズの白服は、全部で十人。その中で穏健派は、先生一人だけです。そしてジャスティスクルセイダーズ全体で見れば、穏健派は私と先生の二人だけです」


「あ、そりゃ駄目だわ」


 穏健派の人数が少なすぎる。これではいくら最高権力者といっても、多数決で過激派が勝ってしまう。


「加えて、他ならない私達の首領閣下が過激派ですから、このままだと魔族の未来は暗いままです」


 もはや絶望的としか言えない。そんな孤立無援の状態で、よく今まで生きてこれたものである。


「それでも私達は貴重な戦力ですし、危険な魔族はきっちり倒していますから、左遷や冷遇などはされていません」


 青服や白服は数が少ないし、仕事さえ出来るなら、穏健派であっても問題はないらしい。


「私が穏健派である理由は、申し訳ありませんが、今は話せません。ですが、時がくれば必ずお話しすると約束します」


「……わかったわ。こっちだって無駄に詮索するつもりはないし」


 瑠阿はこの話を打ち切った。メアリーに伝えるべき、重要な情報が入手出来たのだから、今回はこれでいい。


(白服は全部で十人……つまりこの十人全員を倒せば……!!)


 首領は丸裸になる。この情報を、メアリーに伝えなければならない。




 ☆




 魔女とはいえ、瑠阿は高校生だ。授業は、普通に受けなければならない。先生の講義を聞きながら、ノートを取る。


「……っ」


 と、真子は突然目が霞み出した。それから、頭痛が始まる。


「痛ぅ……」


 それに、何だかだんだん気分が悪くなってきた。


「真子? どうしたの?」


 真子の異変に気付いた瑠阿が、彼女の体調を気遣う。


「なんか、気分が悪い……」


「……先生! 真子が気分が悪いそうです!」


 瑠阿は挙手をして、先生に真子の体調不良を訴えた。


「あら、顔が真っ青。保健室に行ってらっしゃい」


 先生は真子の顔色を見て、ただならぬものを感じ、保健室に行くよう勧める。


「すいません……」


 真子は席を立ち、保健室に行こうとした。しかし、体調は悪くなり続けており、足腰に力が入らず、倒れてしまう。


「真子! 先生、あたし真子を保健室に連れて行ってきます!」


「そうね、お願い」


 真子を助け起こした瑠阿は、真子一人ではとても保健室まで辿り着けそうにないと感じ、付き添いに行く事を決意する。先生は快く承諾し、瑠阿は真子に肩を貸して教室から出て行った。


(……今、何か感じたような……)


 ティルアは何か違和感を感じながら、二人の背中を見送った。


「ごめん、瑠阿……」


 瑠阿に運ばれながら、真子は瑠阿に謝る。


「いいって。それにしてもどうしたのよ?」


「わかんない……突然、目眩がして、気付いたら、こんな感じ……」


 体調は、まだ悪くなり続けている。何か病気にでもなったのかもしれないと思い、瑠阿は保健室に急いだ。



 保健室。


「失礼します。急患です」


 瑠阿はドアを開けて入るが、保険医はトイレにでも行っているのか、いない。仕方なく、瑠阿は三台あるベッドの内の、一番近いベッドの上に、真子を寝かせた。


「ありがとう、ね……」


 真子の顔は真っ赤になっており、本当につらそうだった。瑠阿はどうするべきか考え、とりあえず熱を計る事にして、教卓の上にある体温計を取る。


「真子。これ、脇の下に……」


 瑠阿は体温計を真子に渡そうとしたが、真子は疲れたのか、眠っていた。


「真子……」


 瑠阿はベッドの隣の椅子に腰掛け、真子の額に手を当てる。熱い。まるで熱した金属にでも触ったかのような気分だ。


「待ってて。今救急車呼ぶから」


 保険医は、まだ戻らない。いや、もう待っている余裕はない。瑠阿は再び教卓に向かい、その上に設置されている電話に手を伸ばした。



「その必要はないぞ」



 その時だった。突然、しわがれた老人の声が聞こえたのだ。


「誰!?」


 驚いて見てみると、閉まっていたはずの窓が開いており、その縁に背の低い老人が立っていた。


「ふん!」


「あっ!」


 老人は片手を瑠阿に向けると、手から衝撃波が飛び出し、瑠阿は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。さらに、眠っている真子の身体が飛んでいき、老人の片手に収まったのだ。


「ま、真子!」


 瑠阿はすぐに立ち上がって真子を救出しようとするが、老人が瑠阿を睨み付けると、瑠阿は金縛りに掛かった。


「か、身体が、動かない……!!」


「心配するな。この娘はわしのかけた呪いで、一時的に体調不良を起こしておるだけだ。アジトに連れ帰りさえすれば、すぐにでも元に戻してやる」


 老人から強い魔力を感じる。真子はこの老人から呪いを掛けられ、突然の体調不良に見舞われていたのだ。


「真子を……どうするつもり……!?」


「わしはエルクロス様からの使い。貴様のそばにいる、奇跡の姉妹に伝えろ。この娘を返して欲しければ、上海に来いとな」


 老人はそう言い残し、姿を消した。


「瑠阿!」


 そのすぐ後に、保健室にティルアが飛び込んでくる。


「ティル、ア……」


 瑠阿は依然、金縛りに掛かったままだ。ティルアは瑠阿の状態を察知すると、瑠阿の背中に片手を当てて、魔力を込める。


「はっ!」


「うっ……」


 やっと身体が自由になって、瑠阿は崩れ落ちる。ティルアは瑠阿を助け起こした。


「到着が遅れてごめんなさい。一体何があったのですか?」


 瑠阿はティルアに、今ここで起こった事を全て伝える。


「……その男は、本当にエルクロスの使いと名乗ったのですか?」


 ティルアはとても険しい顔で、瑠阿に確認した。瑠阿は頷く。


「……」


 それから、険しい顔のままで、何事か思案し始めた。


「瑠阿。今すぐここに、メアリーを呼んで下さい」


「メアリーを?」


「はい。私もジンを呼びます」


 どうやら、ティルアはエルクロスという人物に、心当たりがあるらしい。


「わかったわ」


 瑠阿は隷従の指輪に呼び掛けた。




 ☆




 一方、メアリーは、あの更地でジンと戦っていた。


「いい加減しつこいよ」


 あの戦いから既に四日。ジンは、毎日のようにメアリーに挑んでいる。いつもメアリーが勝っているのだが、メアリーからの指摘が効いたようで、とどめを刺す前に逃げてしまうのだ。


「そりゃこっちの台詞だぜ。てめぇいつになったら俺に勝ちを譲りやがるんだ?」


「あいにくだけど、僕は異端狩りには絶対に勝ちを譲らない。それが例え、遊び半分の戦いだとしてもね」


「俺は遊び半分じゃねぇ!!」


 自分が遊び半分で戦っていると言われて、ジンは激怒し、デストロイカスタムを撃ってきた。メアリーはそれをかわす。


「俺は異端を狩る事においてだけはいつも本気だ!! それなのにいつまで経ってもお前が狩られてくれねぇから、余計ムカつくんだよ!!」


「うるさいやつだな!! 毎日毎日見たくもない顔を見せられるこっちの身にもなりなよ!!」


 互いに撃ちながらかわすのを繰り返す、ジンとメアリー。ジンも怒っているのだが、メアリーだって怒っているのだ。


「お前が僕のマイティーチェンジに絶対に勝てないって事はもうわかってる。だからさっさと片付けてやるよ!!」


 そのままの戦いでは、メアリーはジンに勝てない。しかし、マイティーチェンジさえ発動すれば、立場は逆転する。


「マイティー……!!」


 身構えるジンと、切り札を切ろうとするメアリー。


「メアリー!! メアリー、来て!!」


 だがそれは、指輪から聞こえる瑠阿の声によって中断させられた。


「ジン。今すぐ私のところに来て下さい」


 それをチャンスと見て仕掛けようとしたジンだったが、まるで見計らったかのようにジンの右手の甲から聞こえてきたティルアの声に、不意打ちは止められる。


 ジンの右手の甲には、ジャスティスクルセイダーズの通信紋という刺青が刻まれている。これはその名の通り、異端狩り同士で通信を行う為のものだ。


「何の用だティルア!! 今こっちは緊急事態なんだよ!!」


「こちらも緊急事態が発生しています。エルクロスの使いが現れました」


「何だと!?」


 エルクロスという名前は、ジンも知っている。


「……今回はこれで引いてやる。緊急事態発生だ」


 メアリーとの戦いを、切り上げなければならないほどに。


「奇遇だね。こっちも緊急事態なんだ」


 メアリーは早々に、瑠阿の居る場所を目指す。


 ジンも走り出した。通信紋には、通信相手の居場所を、直接脳に送る機能もある。


「おい、何でお前こっち来るんだよ!?」


「それはこっちの台詞だよ」


 その居場所には瑠阿もいて、必然的にジンとメアリーは同じ場所に向かう事になるのだが。




 ☆




「聞かせろ。何があった?」


 場所は屋上。辿り着くや否や、ジンは二人に今までに起きた事を訊く。ちなみに、瑠阿達の教室はティルアが全員を眠らせた為、話し込んでも問題ない。


 瑠阿とティルアは、これまでの経緯を全て話す。


「メアリーに伝えろって言った辺り、そいつは本当にエルクロスの野郎の仲間で、間違いなさそうだな。お前でも直前まで探知出来なかったところからして、相手はたぶん、モルドッグか」


「老人と言っていましたので、そうでしょう」


 どうやらジンとティルアは、エルクロスという人物と、真子を誘拐した老人について、いろいろ知っているらしい。


「ねぇティルア。自分の幼馴染みと二人だけでわかる話ばっかりしてないで、何が起こってるのか教えなさいよ。エルクロスって誰なの?」


 痺れを切らした瑠阿は、状況の詳細について催促した。


「……エルクロスは、元白服の異端狩りです。禁忌を犯して、ジャスティスクルセイダーズから離反しました」


「おいティルア」


「詳細を話して、お二人の協力を仰ぐようにとの先生からの御命令です」


 何やらとても重要な話を始めたので、ジンは諫めたが、恩師メタイトからの指示であるそうなので、舌打ちして従った。


「元白服? 禁忌を犯しただって?」


 メアリーは興味があったようで、話に食い付く。


「はい。彼はコッペリオンハートを使い、ジャスティスクルセイダーズから離反したのです」


「コッペリオンハート!? 特級禁呪じゃないか!! そんなものを使わせるなんて、監督不行き届きとかそんなレベルじゃないぞ!!」


 ティルアはエルクロスが犯した禁忌について話し、メアリーは目を見開いて驚いた。瑠阿は、何の話をしているかよくわからないので、メアリーに訊く。コッペリオンハートなんて、初めて聞く言葉だ。


「メアリー。コッペリオンハートって何?」


「……本当はあんまり話しちゃいけない事なんだけど、使用者が現れた以上、そうも言っていられないね。わかった、教えてあげる。でも話す前に、少し確認しておきたいんだ。瑠阿、君は禁呪というものに対して、どの程度知識を持ってる?」


「禁呪……言葉自体は何度か聞いた事があるけど、どういうものかは知らないわ」


 瑠阿は禁呪について詳細を知らないらしい。しかし、今回の問題は禁呪について詳しく知っておかないと話にならないので、まず禁呪とは何なのかについて話す事にした。


「禁呪とは読んで字の如し、使用を禁じられている魔法や呪法の事だ。そして禁呪には、危険度に応じて三段階のランクが設定されている」


 有事の際は使用しても良いという、低位禁止級。これがとりあえず一番危険度の低い禁呪だが、それでも使わずに済むならそれに越した事はない。


 次が、世界が滅亡するような巨大な危機が訪れた時のみ使用を許可される、上位禁止級。


 最後が、何があっても絶対に使ってはならない、特別禁止級。別名、特級禁呪とも呼ばれている、最高ランクの禁呪だ。最悪と言った方がいいかもしれないが。


「特級禁呪は使用どころか、使用法を伝える事すらしちゃいけない禁呪だ。本当なら、名前だってみだりに口にしちゃいけないんだよ」


「エルクロスっていう異端狩りは、そんな危ない禁呪を使ったの!?」


 信じられない蛮行を実行したエルクロス。瑠阿はティルアに詰め寄った。


「返す言葉もありません。ですが、こうなった以上我々は、メアリーの力をお借りする他ないのです」


「どういう事? 何でエルクロスを倒すのに、メアリーの力が必要なの? あなた達の不手際なんだから、あなた達だけでやればいいじゃない! メアリーを巻き込まないでよ!」


「うるせぇな! 奴が使った禁呪がコッペリオンハートでさえなけりゃ、こっちで始末着けてんだよ!」


 瑠阿が怒ると、ジンがそれ以上に激怒して黙らせる。そういえば、瑠阿はまだ、コッペリオンハートとやらがどのような力を持った禁呪なのかを聞いていない。


「禁呪の使用は、ジャスティスクルセイダーズ内でも禁止されています。破った者は、即処刑。しかしコッペリオンハートは、使用した者に永遠の命を授け、不老不死の存在に変えるという禁呪なのです」


「不老、不死……!?」


 そう。これこそが、ジャスティスクルセイダーズがメアリーに協力を依頼する理由である。流石のジャスティスクルセイダーズも、不死身の存在を滅ぼす手段は持ち合わせていない。しかし、不死殺しの霊力を持つダンピールのメアリーなら、エルクロスを殺す事が出来るのだ。


 しかし、ここで瑠阿の中に疑問が生まれた。


「でも、それで特級……?」


 確かに凄まじい魔法だ。禁呪に認定されるのも、頷ける。しかし、だからといって特級禁呪に認定されるほどだろうかと、疑問に思った。瑠阿の中で、絶対に使ってはいけない魔法といったら、国を滅ぼすだとか、世界を塵に変えるだとか、そういう認識だからだ。


「実はね、瑠阿。コッペリオンハートは、ある材料を持っていれば、誰にでも使える魔法なんだよ」


 確かにそういった魔法も、禁呪には認定される。しかしそれらの大半は特級ではなく、上級禁呪に認定されるのだ。メアリーは、コッペリオンハートが特級禁呪に認定された理由を語った。


 強力な魔法を使うには、強大な魔力と、場合によっては材料やしかるべき手順が必要になる。しかしコッペリオンハートは、必要な材料と手順さえ間違えなければ、魔力を持たない一般人でも、発動出来る魔法なのだ。


 誰でも簡単に不老不死が手に入る魔法。そんなものが広がれば、世界のバランスはあっという間に崩れ、混沌とした世界が出来上がる。


「例えば、過激な政治家やテロリストがこの魔法を使って不老不死になったら、ダンピール以外には誰にも止められなくなる」


 それを防ぐ為に、コッペリオンハートは特級禁呪に認定され、使用法すら隠されてきたのだ。知っているのはコッペリオンハートの発動に立ち会った者と、危険性を知り、広めていない者のみである。それらも、ごく少数だ。


 これで瑠阿は、単に破壊力の高い魔法のみが、特級禁呪に認定されるわけではないという事を理解した。


「理由はわかったわ。でも、エルクロスは何でこんな事をしたの?」


「エルクロスはどういうわけか、コッペリオンハートの使い方を知っていました。そして、不老不死となった自分の力で、この世界を支配すると言ったのです。自分が支配すれば、人々はもう魔族の脅威に怯えなくて済むと」


 世界から魔族の脅威をなくしたいと考えているのは、ジャスティスクルセイダーズも同じである。しかし、魔族の脅威が完全に取り除かれた世界で、自分が王になりたいと考えたのがエルクロスなのだ。


 そしてジャスティスクルセイダーズ内には、それに賛同する者がいた。エルクロスの部下達である。エルクロスが離反する際、彼の部下である青服二人、赤服四人、黒服六人が同行した。真子を拉致しに現れたのも、その一人である。


「今や彼の唯一の弱点は、自分を殺す力を持つダンピールのみ。だから、その中でも特に強い力を持つメアリーを、自分の手元の置く事で、弱点を克服しようと考えたのでしょう」


 だからこの町のメアリーについて調べ上げ、瑠阿の存在を知った。そして瑠阿の友人である真子の存在を知り、真子を誘拐する事で、メアリーが要求を無視出来ない状況を作り上げたのだ。


「君らの言いたい事はわかったよ。今回だけ協力してあげる」


 本当は嫌だったが、メアリーは協力する事にした。白服級の力を持つ不死身の異端狩りなど、脅威でしかない。居場所がわかっているなら、早急に退治するべきだ。


「でも、瑠阿にまで協力して欲しいというのは聞けないな。理由を聞かせてもらおうか」


 しかし、エルクロスを倒すだけなら、瑠阿を連れて行く必要はない。白服級の実力を持つエルクロスの討伐に、なぜこちらの弱点となり得る瑠阿にまで協力を依頼するのか、納得のいく理由が欲しかった。


「可哀想だけど、この戦いに瑠阿がついていけるとはとても思えない。それなのに、何でかな?」


「……その質問に答える前に、瑠阿に訊いておきたい事があります」


「えっ? あたしに?」


 ティルアは少し考えてから、瑠阿に訊いた。


「瑠阿。あなたは自分のお父様を、異端狩りに殺されたと言っていましたね。その時あなたを襲った異端狩りは、何人でしたか?」


「……三人よ」


「ではその中に、右目の瞳が紫色だった男性はいませんでしたか?」


「瞳の色……」


 瑠阿は思い出す。思い出して、両手で自分の肩を抱いた。


 いたのだ。右目の瞳が、紫色だった男性が。自分に襲い掛かってきた、三人の異端狩り。その真ん中にいた男性の右目だけ、瞳が紫色だった。


 あの瞳が恐ろしくて、一週間ほど頭の奥から離れなかった。そして、忘れようと試みた。だから、今まで思い出せなかった。


「い、いたわ。間違いなく。でもそれが……まさか……!!」


 瑠阿は、ティルアが何を言おうとしているのかわかった。わかってしまった。


 ティルアは頷いて告げる。



「あなたのお父様を殺したのは、エルクロスです」





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