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食べたからにはしっかりと働かなくてはいけない。
でないとお金が尽きる。
実は、今私に余り余裕はない。
確かにこの貴重な宝石ども24個となけなしの金、金貨3枚と銀貨2枚銅貨3枚はある。普通に暮らすなら十分な金だ。主に宝石を売れば。
しかし、それはバックに私の安全を保証してくれるものがある場合だ。
宝石は持ってる事を知られたくないし、もしもの時ようにとっておきたい。まず、魔石などは貴重な攻撃手段だし売るつもりもない。残るは金貨3枚だが、そんなん1ヵ月だってもつはずがない。
よって、来ました。冒険者ギルド!
私の旅はここから始まる!
ターニャに教えてもらったところ以前と場所も変わっておらず簡単にギルドに辿り着き今日中に登録と簡単な仕事くらい終わらせられそうだ。
意気揚々と扉を開ける。
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思えば…苦節ウン十年、世の憧れのギルド。寂れた外観にあまり良くない感じのおっさん達、どいつもこいつも昼から飲んだくれている。ギルドの職員の疲れた顔。
まんまギルドだ!
私はとても感動している。以前は気にしていなかったが、今世日本に生まれこうしてギルドをギルドとして見ると付加価値がプラスされギルドが典型的なゲームや漫画の中のギルドに見える。
以前は何故こんなに寂れている事に気づかなかったのか、この呑んだくれ達が目に入らなかったのか、何故ギルドのお姉さんをお姉さんだと思ってしまったのか。実際はこんな厳ついおっさん(右手無しバージョン)だと言うのに…
見ろ私の足は感動でぶるぶる振るえているではないか!
なんて頭の中でふざけていたがそろそろ現実に目を向けた方がいいだろう。何故ならドアを開けたまま動かない私に注目が集まってきたからだ。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい………
なんだよここ!本当にギルドかよ!いやある意味本当にギルドだけどさ、私の知ってるギルドはもっとこう…規律があった。間違ってもこんな無法地帯みたいな感じではなかった。ターニャが嘘をついたのか!?いや、ここはギルドだ外の看板にそう書いてあったし、ならば行くしかない。大丈夫。いざとなればこの場所ごと吹っ飛ばせばいいのだ。そのくらいの力はあるのだし。大丈夫と自分に言い聞かせ、ビクビクとギルドのお姉さん(今は厳ついおっさんだけど)のところに足を進める。
「ここはギルドで合ってますか?以前来た時とだいぶ様子が変わっているみたいですけど。登録しにきたのですが」
「ん?なんだ他所からわざわざここまで来たのか?まぁ、なんだ落ち目の国だからな。どんどん冒険者がよそへ移っていくからギルドなんかは大分変わっただろうな。安心しな、人が足りないせいで嬢ちゃんでも出来そうな仕事はいっぱいあるぞ。それで、初めての登録か?それとも他所からの移動か?紹介状とか持ってるか?ないなら始めからで登録に銀貨1枚かかるぞ」
厳ついおっさんは思ったよりも優しそうな感じでニカッと笑って歓迎するぞと言ってくれた。それでも凶悪顔だが。笑おうがなんだろうが人の顔は変わらないのだ。親近感や安心感などわかない。が、急にキレる事はなさそうだ。話も通じるしなんとかここで仕事が出来そうだ。ここより他にお金が稼げそうなとこにあてはないし。
「初めての登録、紹介状はなしです。」
「そうか、じやあ銀貨1枚な。名前と他書けるとこまで書いてくれ。書けないところはとばしていい。」
おっさんはぴらっと3枚ほど紙を渡してきた。
「後、3枚目は名前だけで大丈夫だ」
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【名前】 結崎奈耶
【年齢】17
【出身】日本(神奈川)
【種族】人間
【タイプ】魔術師
【得意武器】杖
【得意魔法】転移
【属性】主に黒と白。他にもちょっと
【加護】多分セレスティ(になる予定)残っていれば魔王のも
【流派・所属】未定
【犯罪歴】なし(一応)
【経歴】居酒屋
【身元保証人】ハルト(女神様んとこの部下)
【称号】JK
【能力】神妙な顔して頷く
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「はい、書けたよ」
紙に目を通したおっさんは微妙な顔をした。
「おい、嬢ちゃん書けないところは書かなくても大丈夫だから嘘は駄目だ。嘘や適当な事は書いても承認されないからバレるんだ。真面目に書け。空欄でいいから」
引き出しから新しい紙を出し渡してくるおっさん。
「いやいや、嘘じゃないって」
と言い紙を拒否する。
せっかく真面目に考えて書いたのだ。○じゃなくても△くらいはもらえる。何も書かなきゃ✕になる。変な答えでも先生が気に入ればオマケ点がもらえるのだから空欄は損だ。
おっさんはそこが分かっていない。きっとテストで分からない所はとばして分かる問題に集中して取り組むタイプでそう教わってきたのだろう。そうじゃない。そうじゃないのだ!テストなんて分からないものだらけじゃないか……!!時間まで諦めて寝ろと言うのか?こんなに普段以上に真剣に授業に取り組む機会を与えられたのに。私は諦めない。諦めてはいけない。
いいか、テストがだめだったとしてもこの諦めない私の情熱は先生に伝わるのだ。ただ単に悪い点数に注目されるのではなく、答えに注目される。私の答え(情熱)にな…!!
おっさんはため息をついて水晶とモニター画面がついている機械に紙とカードをセットする。
「いいか、1回やってみるから駄目だったらもう1回今度はきちんと真面目に書けよ」
まったく、私の事を信じていない失礼なおっさんである。
「はいはい、大丈夫だから。」
「…じゃあこれに血を垂らして水晶持ってその魔法陣の上に乗って」
おっさんは新しい機械と水晶を机の上に置く。
その間もモニターを操作して魔法陣が書かれた台座と上に丸い機械が出てくる。
私は言われた通り血を垂らす。スポンジの様に私の血は吸い込まれていく。手に持った水晶がどくんと稼働し、台座の上に立つと魔法陣がひかり展開される。下から順に上へ円を描くようにグルグルと機械がまわり自分の身体がスキャンされる。
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一分もかからずそれは終わった。残ったのは頭の中を見られた不快感。痛さなどはないが、違和感。身体をあけられた感覚がある。自分の把握していないものまであの機械に読み取られた気がする。
(なるほど確かに嘘はつけないな。)
「おっさん出来たー?」
「あぁ、…おかしいな。エラーが出るはずなのに…。ほら、これがギルドカードだ。で、こっちがあの機械で分かった嬢ちゃんの情報。これはギルドで管理するから見終わったらこっちに渡せ。っと、そうだカードの前にギルドの規約書にサインしてくれ。」
おっさんは私に紙を渡した後、どっか壊れたかとぼそぼそ言いながらモニター画面を操作している。
本当に失礼なおっさんである。私の情熱がこの機械に理解されただけだと言うのに!
ギルドの規約はどこにでもあるありふれたものだった。
読みたい場合は次のページを読もう。
私はさらさらっと読んでサインした。
要約すると、
仕事に当たる際の費用は自己負担、怪我しても死んでも自己負担。いけない事したらギルドは庇いません。除籍します。依頼を受けたら期日は守りましょう。じゃないと罰金です。ランク事に受けられる仕事が変わります。身分相応の仕事をしましょう。ギルド員にいちゃもんつけるのはやめましょう。ぶっ飛ばします。余りにムカつくと除籍します。
ってな感じになる。
そんな事より私の情報だ。いったいなにが書かれているのかドキドキしながら紙をめくる。