能力を盗める力を手にしたが、もう後悔した。
我が一族には秘密がある。
実証されていない、禁術の継承者。魔法使いの一族。
「吉雄。お主には才覚がある。私も含め、多くの者が具現にまで到らんかったが、お主は成し遂げた。さぁ、これで世界中にある能力を盗み、最強に成り上がるのだ」
日常生活と併用しながら、俺は今日。
能力を盗み、世界の頂点を目指す。
◇ ◇
「能力を盗む能力?流行してるの?」
とある喫茶店。ここには様々な強者達がやってくる、不思議なところであった。
その1人である山本灯は、喫茶店のマスターであるアシズムに今回の依頼を聞いた。
「そう言うな。なんか書きたかっただけなんだ」
「ふーん」
こんな小ネタを挟んでおきながら、また1人。この喫茶店に入ってくる少女が来た。
「あら、灯もいらっしゃるの?これはどーゆう事かしら?」
「それはこっちが聞きたいわ。なんで?」
「他人の能力を盗む人間が今回のターゲットだ。万が一、能力を奪われたら大変だろう?2人一組で戦った方が良い」
ミムラちゃんや、のんちゃんの能力が盗まれたら一大事だし。間違いなく、地球が滅ぶ。
藤砂くんや、広嶋くんに落ち度はないだろうけど。万が一は2人にもあり得る。灯ちゃんや裏切ちゃんの能力ならば、今回の相手には都合が良いし。最悪の結果となっても、対処はできる。
「なんか人選に不快感があるんだけど?」
「そうですわね。報酬は分割ではなく、お互い対等にお願いしますわ」
「ああ、するよ。とにかく、気をつけてね」
◇ ◇
男の名は、梨山吉雄。
人の能力を盗むことができる能力を持っている。
梨山吉雄
スタイル:魔術
スタイル名:万引財布
スタイル詳細:
人の能力を盗むことができる。盗める数は最大1万種類。盗む条件は3つ。
1.相手の能力を確認する。
2.相手と接触する。あるいは、相手の能力を浴びる。
3.相手と接触した後、相手から1キロ以上離れる。
条件を満たすと、梨山が使う財布の中に相手の能力名が刻まれたコインができる。コインが生成された瞬間に、相手は能力を梨山に盗まれる。
盗んだ能力の使用方法、
生成されたコインを体内に飲み込むことによって、盗んだ能力を使用できる。ただし、使用できる時間は5分間だけであり、時間が切れると同じ能力を使うには1日経たなければコインが再発行されない。とはいえ、一度盗んだ能力はこの時間切れの間は相手に戻ることもない。
盗んだ能力を複数同時に扱うことはできない。
「ふふふ、能力を盗んでしまえばどーという事は無い」
そんな彼の現在の状況であるが、不良達にからまれて、凹られて、財布の中から現金を多く引き出された状態であった。
夢のような能力を手にしたとはいえ、
「俺の周りには平凡しかいねぇんだ!」
何が能力を盗む能力だ!?
まだ、家族以外の能力者なんて出会った事ないし!その家族だって、能力なのか良く分からないものだし!しまいには、俺だってこの能力をハッキリと自覚できてねぇ!だって、一回も成功してないもん!一度も、能力と認知できる瞬間にいないんだもん!
「それなら、金を盗める能力が欲しいよ。それか、女のパンツを盗める能力とか、実用的にいきたかったよ。何が一族の長年の夢だ。時代遅れなんだよ」
泣きながら、家に帰る。能力を盗める力があっても、何も能力がない不良を懲らしめることができるわけじゃない。
その帰路で出会ったのが、自分以外の初めての能力者だった。
「おい、梨山吉雄とかいうガキを知らない?」
「じ、じっ、べばぶ」
「あ?何言ってるか聴こえないわ」
1人は狐の目にも似た細い目をして、金髪の女性。先ほど、自分を虐めていた不良達をなぜだか知らないけれど、素手でボコボコにしていた。
「尋問なんて可哀想。それに殴りすぎですわ」
「なによ、裏切。私にはこれが手っ取り早いの」
「野蛮だと言っていますの」
もう1人は自分と同じような学生の雰囲気。セーラー服を着ていて、黒髪のサイドポニーが拳銃を不良に突きつけながら、怪しげな呪文を唱えた。
「正直者な牧師」
喋れないの、裏は喋れるということ。それがどんな外傷を浴びていても、どんなに抵抗しようと抱いていでも、それだけの強さで喋る。如何なる秘密であろうとも。
「梨山吉雄は俺のクラスメイトで、俺の金づるで、虐めの対象者で、気持ち悪くて、チビで、童貞で、頭悪くて、運動ができなくて、友達いなくて、つーか、そこにいます。そこ、そこ、そこ、そこ、そこ!」
「はい、分かった!死んで黙れ!」
凡人には見えないほどの拳の突き。自分を虐めていた不良が女性2人に凹られている気分には、良くなった思いたかったが、彼等が金髪の女性に一撃で空高く打ち上げられて、まったく落ちて来ないことに戦慄すら感じた。
そして、2人の同時がこちらに振り向いた。
「で、あそこの子が今回の標的ってわけですわ」
「ふーん。私が貰って良い?たまには、こんなバトルも好きなのよ」
「ひっ。ひぃぃっ」
不良、使えねぇ!どうすればいい。どうすれば……
◇ ◇
「いらっしゃいませ~」
そして、俺は無一文だけれど、2人の女性に連れられてマクドナルドに来ていた。
「で、さっき言ったのはホント?」
灯さんはとても不満そうに、もう一度確認した。
「あんた、盗める能力を手にしておいて、まだ何も盗んだ事がないの?」
「は、はい。実は、僕にとっても2人が初めて出会った能力者です」
「まぁ、そうなの。世界は広いと思っておりましたが、狭いところもあるのですわね」
「アシズムのバカが報告するから、良い標的だと思ったのに……はぁ~」
コカコーラを一気飲みし、コップをグシャグシャに握り潰して、消滅までさせてしまう灯の身体能力に怯えながら、質問にはちゃんと自分の気持ちで答える。
何か間違えたら、殺される。実際……
「せっかく、楽しみにしていた殺し合いが台無しよ」
「まったくですわね。これでは広嶋様に褒めてもらえない」
なんか、僕が悪いみたいな雰囲気。ファーストフードでやや収まるのが奇跡なくらいだ。
そんな時、灯が気になったので尋ねる。
「あんた次第だけどさ。試しに能力を使ってよ」
「はい?」
「私の”拳女王”を盗んで、使ってみなさいよ」
能力を盗む条件は、確認する、接触する、相手から離れる。
灯は即座にそれが成されるよう、
バギイイィッ
「1キロほど吹っ飛ばすわ」
梨山を1キロほど遠くまで殴り飛ばした。問答無用過ぎる一発であり、店も破壊する始末。
「じゃ、追うわよ」
「ええ」
食い逃げだーーー!!
◇ ◇
「いててて」
激しい痛みと共に得た、財布の中で生まれたコイン。”拳女王”と刻まれたコインは確かに誕生していた。
「無事に生きてたみたいね」
「良かったですわね」
「良くない!」
「ともかく、やってみなさいよ。本当に盗まれたっぽくて、私もさっきから能力が安定しないの」
灯には能力を盗まれたという自覚がある模様。このコインを飲み込めば、梨山が”拳女王”を使うことができる。意を決して飲み込む。
「ううっっ」
うわぁ、不味い。能力を得るために、こんなリスクを負わなきゃいけないのか。
そんな感想を思いながら、身体にある実感が湧き出る。弱々しかった肉体が漲り始める。その力をもう理解することができる。一発殴られたから、その腹いせも込めて。
「や、やってやる」
「いいんじゃない?」
”拳女王”
凄まじいパンチ力を生み出すことが出来る能力であり、パワーだけでなく、テクニック面も向上する”超人”の能力。
灯の必殺技である、”終わった拳”は殴る構えを対象者が見た時には回避不能の、神速かつ強力な一撃を生み出す。梨山はその必殺技ですら、すぐにでも使える全能感を得て、繰り出した。
「!!」
構えから、打ち込みまでの最先端のルートを通り、何億とも積み重ねて続けた拳は、単調な一連動作を極限に超えて刹那よりも短いものとする。時の流れがずれ込むほどの、超越した力に昇華。
つまり、これを見た者はすでに殴られている!
ブンッ
「普通に避けられたーー!?」
「能力を盗まれても、私という鍛えられた肉体があって成立してるもんだし」
「そうですわね」
「だからって避けるの!?」
そう。いかに能力を盗んで喜んだとしても、扱ったり本体ほどの力はまず生み出されない。
確かに能力だけは授けられても、肉体が対応していなければ完全な物にはならない。そして、
「!ぎゃああぁっ!?腕が!?無茶苦茶痛い!折れた!?」
「関節が今ので外れたようね」
「肉体が弱いから、突きの反動に耐え切れないとは……」
危険な能力を持つとは聞いたが、能力者がこれでは……
2人は溜め息をもらして、ちょっとだけ梨山を手伝ってあげた。
◇ ◇
そんなことから2週間後。
梨山は自分の一族に言いたい事があって、顔を出した。
「もうチープな事は止めよう!」
「なに?」
「能力を盗むなんて、きっとそれは俺達一族が卑怯だからこそ、辿り着いた答えなんだよ!」
初めて、能力を盗めた嬉しさはあまりなかった。それより、この答えまで辿り着いた事がある。
「俺は能力なんて要らない!強くなる!ただそれだけでいい!!」
「なんと……」
「盗むことに囚われず!ただ強くなることが目的ならそれが良い!何より盗んだ能力を使うとなったら、自分自身も凄く鍛えなきゃいけないと良く知れた!」
なんと逞しい声。それがしっかりと本音となって伝わる。
「セコイことは、強さとは違う!俺の求めている力は盗むことじゃない!!」
断言できる。そうして、一族の掟を断ち切った。
一族達は、吉雄の言葉だけでなく。今までの研究が青褪めるほど、ミイラのように全身を巻かれた吉雄の包帯姿に心が折れて、改心していた。
「というわけで、俺は体力作りに励む。基礎修行に勤しむ。能力のための、修行なんてしない」
やっぱり、何事も基本がなければどんなこともできないもんだ。