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異能ストア

あぁ〜……緊張するなぁ……。

スーツとかいつぶりだろ……。

店の前まで来てしまったが、情けないことに帰りたい衝動に駆られている。

「いや、俺はここで働くんだ!覚悟決めろ、俺!」

俺花粉症あるんだよな……くしゃみしないようにしな。

「くしゅんっ」

……いや俺じゃない。

俺はこんな可愛いくしゃみじゃない。

……となると……。

「あっ」

どうやら向こうもこちらに気付いたらしい。

人前でくしゃみをしたことが恥ずかしいのだろう、耳まで赤く染まっている。

別に悪いことじゃないんだけどねぇ……なんだろ、生理的に?恥ずかしがっちゃうんだよね。よくわかるよ。

「あ、あの……その、い、いらっしゃいませ?」

いらっしゃいませに?は付けちゃダメだろう。

まぁ……スーツで店の前に突っ立ってる俺も俺なんだが。

「すいません、アルバイトの面接に来たんですけど」

「あ、えっ!?バイト!?またあの店長勝手に!あっ、どうぞ。ATMの方にドアがありますのでノックしていただければ」

「ありがとうございます」

店長、勝手にとか言われてるよ……。

嫌われてたりするのかなー?

ま、まぁ……職場の事情だよな。

コンコン。

言われたとおりドアをノックする。

………………………………………………。

あ、あれ?

何もないんだけど?

でも二度もノックするのも……失礼だろうし。

ど、どどどどうしよう。

ここに立ってればその時間だけ変人度が上昇するし。

かと言って待つこともできない奴と思われて落ちる可能性あげるのも……あれだし。

うわぁぁぁ!どうしたらいいんだぁぁ!

「店長!面接の方ですよ!!」

さ、さっきの人!ありがとう。本当にありがとう。

「はーい。すいませんね、気付けなくて」

「いえ、全然」

全然大丈夫ですよ。俺じゃない他人の力で解決していただけたんですから。

にしても……店長若すぎじゃないか!?

俺より下に見えるんだが……。

本当に下だったらどうしよ、泣こう。うん、泣こう。

「どうぞ、座っていただいて」

「失礼します」

心臓がぁぁ……。破裂寸前。

「それではまず、履歴書を見せていただいてもよろしいですか?」

「あっ、はい。これです」

「少しお借りしますね」

「「………………」」

ち、沈黙が痛い。

誤字とかなかったよな。変なとこなかったよな。顔写真貼ったよな。大丈夫。なはず。

「高校は……中退ですね。理由を聞かせてもらってもいいですか?」

そこからかぁ……まぁ、そうだよな。

そこ一番大事だよな。

「はい、自分は理系だったのですが……大学受験に失敗してしまい、留年してもう一度受けるほど、うちは裕福じゃなかったので」

「無職を養えるのに?」

うっ……。この人結構来る人だ。

苦手なタイプ。

「冗談です。じゃあ次にアルバイトをしようとしたきっかけは?」

「はい……先日二十歳になりまして」

「それはそれは、おめでとうございます」

「ど、どうも。それでこれ以上家族に迷惑はかけられないと思いまして、まずはアルバイトから……と」

「やっと!やっとそこに辿りついたのですか!」

この人の言葉、棘がやばいんだが。

無知なJK並に棘があるんだが。

「えぇ、まぁ……そうなりますね」

「では、次。この店を選んだ理由は?」

「あ、はい。家がすぐ近くにあって通いやすいと思ったからです」

「それだけ?」

「え?はい、だけです」

「はぁ〜……」

た、ため息ですか。

結構痛いです。

「では面接は終わりです」

え?これだけ?

「今これだけ?とか思ったでしょう。これだけなんですよ」

「は、はぁ……」

何この人怖い。

「合格」

「…………はい?」

「だから合格」

「合格?」

「何回言わせるんですか。ご、う、か、く!」

ご、合否って普通電話とかじゃないの?

この場で言っちゃうの?

「あ、ありがとうございます」

「じゃあこれから店の事について説明していきますから。聞き逃しのないように」

「は、はい」

店の事って……普通にコンビニくらいわかるけどな。

まぁ客側にはわからないものもあるんだろ。

「まず初めに、ここに来る人の八割が能力を持っています。残りの二割は一般人です」

「……………………?」

「では続いて」

「ちょちょ、ちょっと待ってください!?」

「なんですか」

「なんですかじゃないですよ!の、能力者?初めて聞きましたよ!」

「…………でしょうね」

「でしょうね!?そう思ったら先に説明してくださいよ!」

なんだこの人。

ホントに何がしたいのかわからない。

しかも能力者って……厨二病かよ。

「これは厨二病でもなんでもありませんよ」

……またか。

「実際に見たほうが早いでしょう。……あー、堀串、ちょっと事務所まで来て。あ?レジが混んでる?じゃあそれ終わったらでいいや」

電話……使ってないよな。

トランシーバー……持ってないし。

独り言?

「まぁ……今のもなんですが、わかりにくいでしょう?俺の〝思考伝達ネットワーク〟じゃ」

「ネット……ワーク」

「そうです。他人の思考を読み取ること、他人に思考を伝えること。大きな使い方はこの二つ」

だからさっき俺の思ったこと当てたりできたわけか。

「その通り。しかしまぁ、万能ではない。自分の決定範囲テリトリーでしか使用できない。この店から一歩でも出れば俺はただの一般人と同じ」

万能ではない。か。

「失礼しまーす」

あ、さっきの人。感謝してます。

「それで、店長。いきなり呼び出してなんですか?」

「お前の力を披露してほしい」

「……はぁ……私まだ使うところあるんですよ?今だって使ってるんですから」

「そこをなんとか」

「いつもどおりの体勢でそこをなんとかって言われても……」

「まぁ減るもんじゃないだろ?」

「減りますよ!主に私の体力と精神が!」

激しい人だなぁ……。

能力?については俺はついていけないや。

「アルバイトの方……合格ですか?」

「……あっ、はい!みたいです」

「またここで合否言っちゃったんですか?毎度毎度、見込みがあっても一度は帰してくださいって言ってますよね!?」

「あはは、大丈夫ですよ。自分も少し驚いただけですから」

「本当にすいません。このバカ店長がご迷惑を」

「いえいえ、全然」

なんだこの雰囲気。バイトの面接の空気じゃないだろ。

「はいはい、そんなのいいから。バイト君の為に能力見せてよ」

「はぁ……わかりましたよ」

「さっすがぁ!」

「その代わり。ボーナスお願いしますからね」

「……ま、しょうがないよね」

「じゃあいきますよ」

彼女は右手を肩くらいまであげ、少し力を入れたように見えた。

パチッ!

「痛ッ!?」

なんだ?静電気?でも俺鉄には触ってないし。

シュルシュルと彼女の腕に巻き付く何かに目がいった。

蛇だろうか。その滑らかな動きと発光。俺でも察しがついた。

電気。

さっき静電気のような電流が走ったのも関係があるだろう。

「……ふぅ〜」

「お疲れ様」

「ホントですよ。これ使いすぎるとおなか下すんですからね」

……万能ではない。

デメリットが下痢って……可哀想だ。

「これが彼女、堀串聖乃ほりくしきよのの能力だよ。ヴォルテージ」

「ダサいですよね!もう嫌なんですけど、それ連呼しないでくださいね」

ヴォルテージ……なぜ電圧。

ま、まぁ俺の気にすることじゃないか。

「さ、大体わかりましたかね」

「まぁ認めざる負えないですよ」

「じゃあ次。あ、堀串戻っていいよ」

「チッ、失礼しました」

舌打ち聞こえたよ。

結構怖い人かも。

「認めざる負えないと言っても……非現実的すぎます」

「それはそうでしょう、今まで能力なんてもの聞いたことも、ましてや見たことなんて普通ないですから」

超能力なんてのは聞いたことあるけどアレは信じ難いし、マジックは全部種がある。

となれば、聞くも見るも不可能な話なのである。

「いきなり信じろとは言いません。ここでまず働いてみて、近くで見てみてください。ま、そのうち……」

「そのうち……?」

「いえ、何も。じゃあ今日はこれくらいで」

「店の事ってそれだけ?」

「えぇ、うちには方針やらなんやらという面倒くさいのはありませんから。元ニートにはありがたいんじゃないですかね?」

「ま、まぁ」

堅いのは……あまり得意じゃないからな。

ありがたいにはありがたいかもしれない。

「最後に一つ」

「?」

「能力のことは禁句ですよ」

「在り来たりですか。ま、それくらいは」

当たり前と言ったところか。

話しても信じてもらえないだろうしな。

実際、見た俺ですらまだ信じきれてはいないのだから。

「申し遅れました。霧馬きりま瞳菜ひとなと申します。この店の店長兼、オーナーです」

瞳菜……。

「なんです?名前に何かありましたか?」

そういう訳ではないけど。

「俺と同じで女みたいな名前ですね」

「ほっとけ、クソニート!」

従業員もまだ二人しか知らず、接客経験もなく、昨日までニートだった人間が。

初めて始めた、異能バイト。

工を奏すことを願ったニートの最高で最悪なバイトのお話。




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