路地裏の出会い
どうも、作者のレイナです。
たまにグロ注意的部分がありますので、気分を害されそうになる方は、読む事を勧めは致しません。
大丈夫だと感じる方は、最後までこの駄作に付き合って頂けると嬉しく思います。
__やめ…、……れ!
「…嫌よ」
__何で、もするからっ!だか、らやめ……
「嫌だ、って…言ってるじゃない。何回目よ、これ」
__ひっ、やめろ!?近づ……ゥワアアアアアッ!?
「…すぐには殺してあげない。ゆっくり、じっくり、たっぷり、殺してあげる。……後悔すると良いわ、私に声を掛けた事」
____ッグァ!……ゴフッ……!
私は男の腹目掛けてナイフを突き刺した。
ゆっくり刺して、じっくり掻き乱して、たっぷり、刺して……
いつから私は、こんなにも狂ってしまったのだろうか。
いつから私は、この男を殺していたのだろうか。
そんな事を考えていると、雨が降ってきた。薄暗い雲から落ちてくる透明な滴は、人を殺しているという恐怖に、もう泣けない私の変わりに泣いてくれた。
これが自己満足でも良い……
だって、今私は、少し救われたのだから。
泣けない私は、本当に人間なのかとずっと思っていたから。
けど、私は泣いた。今、泣いた。それでいい…
「帰ろう、かな…」
「どこに?」
そろそろ良いだろうと、下げていた腰を上げようとしていた時だった。声が聞こえたのは……
…誰………?
今私の足元に転がっている男は、もう死んでいるはずだ。第一、声からして違う。
とりあえず警戒を怠らず、声の主の方へゆっくり振り向いた。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ、君に危害を加えようなんて考えてないから」
そこには、雨に濡れ、月の光に反射している綺麗な白髪の青年が居た。
優しい微笑みをたたえている青年は、美しい顔立ちをしていた。白髪は勿論、ルビーの様な紅い瞳は見ているだけで、何もかも見透かされている気分になる。
(……気のせい、よね。見透かされるなんて…あるわけないもの)
私は慌てて我に返る。
「……信用出来ないわ」
「それじゃあ困るんだけど……」
「殺人現場見られてその上いつの間にか居たんだもの…、当たり前じゃない?」
少し強めに言い放ったつもりが、青年は気にせず「それもそうだね」と言った。それどころか、どうしようか。と腕を組み悩んでいた。
(……変な人、バカなのかしら)
「…ん?今、何か思った………?」
「お、思ってないわ」
「…ふーん?」
嘘です思いましたごめんなさい
バカとか思いましたごめんなさい
ってか、さっきまでのシリアス感どこいったよ。
あと、青年よ。怖いから、その目で私を探るな。探りたいのは私の方だ。
「まぁ良いか」
おぉ、良いのか青年よ。ありがたい、非常にありがたいがまず私の右手を離してくれるか。
ナイフ握ってるから刺さるぞ、というか私をどこ連れていく気だ
「無死」
「え、無視?ひどいなぁ、というか何で分かったの」
「声に出てたよ?後、無視じゃない。無死だから」
「いやいや、無視って言われても発音が一緒だから分からん」
いや、ごめんホントに分かんない。
無視?無死?無私?
正解どれだよオイ…
「……無死は、君達人間が言う死神が住んでいる世界の事。そこに行って君には、女死になってもらう」
「飯……?」
って言ったら殺気が…
お約束じゃん……良いじゃん……
「女死は……人間の女性が死神と契約する事でその人も死神になれる。こうして誕生した死神は女死って呼ばれるんだ。女の死と書いて女死」
「…で、白髪青年は私を無死に連れていって、女死にする、と?」
「呑み込み早くて助かるよ、っていうか白髪青年はやめてよ。キーリルって呼んで?」
「じゃ、キーリル。……現実を受け入れろ、今時中二病は流行らないから。それじゃ」
………………
ヤバイ。
うん、ヤバイ。
とてつもなくヤバイ。
始めて会ったよ、中二病君に!
これ、レア?今すぐ中二病、会ったなう。って呟けば良いの?何なのこれ。とりあえず逃げるなう。
こうしてる間にも背後でキーリルがぶつぶつ言って追い掛けてくる。
ひいぃっ!?怖っ!
…くわばら、くわばら。
私が心の中で手を合わせながら逃げていると、キーリルは気になる言葉を呟いた。
『無』
瞬間、私は縛られた。
キーリルじゃない、『何か』に縛られた。
「………………ぇ」
感触も無い。色も無い。形も無い。何も無い。
にもかかわらず、何故私は動けない?
「逃げないでよ…あと、念のため暴れないでね。……死んじゃうよ?」
…死ぬ……?暴れたら……?
この人は私の敵……?
そう思ったら頭が急に冷えてきた。
「…キーリル、貴方は…私の敵?」
敵ならば排除、殺すまで
そんな意味を籠めて睨み付ける、が当の本人はまったく動じず、優しく微笑んだ。
「君は戦闘モードに入ると性格が変わるのかい?不思議だねぇ~…ますます気に入ったよ。あぁ、そんな睨まないでよ。……勿論敵じゃないよ?」
「敵じゃないなら、私を縛ってる『何か』を外して」
私が『何か』と言うとキーリルは少し目を見開いた。でもすぐに戻った。
「『何か』か……。驚いたよ、君がこれの名前を知っているかと思ったよ」
ふふ、と上品に笑う彼にイラついた。
「そんな事はどうでも良い!早く外して!」
「…………外したら君、逃げるでしょ?」
「…ッ!」
絶対零度の声が聞こえた。
彼の、キーリルの顔からは先程の笑みはなく、変わりに無表情になった。
(っ、…震えるな、目を逸らしたら負け。落ち着け!)
必死で自分を保とうとしたけど、やっぱり身体の震えを抑える事は出来なかった。
そんな私を冷たい瞳で見つめるキーリルは、ゆっくり私の元へ歩いてくる。
そして、私の耳元で囁いた。
「家族と、…愛していた人をストーカーに殺されたんでしょう?悔しいんでしょう?辛いんでしょう?だから、……強くなりたいんでしょう…?」
…どくん、と…心臓が跳ねた気がした。
見透かされていた。ずっと、周りに隠していた気持ちを、こいつに……
やっぱり、こいつの瞳を見ていたらダメだ。
何もかも見透かされる…
「……っ…、何で、そんな事、」
「安心してよ、僕の目を見ても大丈夫だからさ。」
「……安心……?嘘よ!でないと、何で、この事を、…知っているの…!?」
これは、悪魔…いや、死神の囁き……
聞いてはいけない、瞳を見てはいけない
「それは、調べたからね。……ねぇ、僕の目を見てよ……」
「嫌よ」
「連れないなぁ、大丈夫だって、言ってるじゃん?」
やめて、触らないで…!
そう言いたかったけど、恐怖に支配されて、言えなかった。
彼は両手で、伏いている私の顔を優しく持ち上げ、己の顔を近付けた。
そうなると、当然見てしまう
……死神の真っ赤な瞳を…………
…………綺麗
ホントにそう思った。
死神の瞳は、禍々しくて、普通ならば怖いと思うこの色を、私は綺麗だと感じた。
そして、同時に安心した
恐怖で可笑しくなったんじゃないかと思ったけどそうじゃない、だって、あんなに凄かった身体の震えが一瞬で、消えたのだから。
放心している私をよそに、彼は優しい微笑みで囁く。
「辛かったでしょう?悔しいんでしょう?…でも……僕と契約すれば、君がずっと欲しかった力が手に入る。家だってある。一人じゃない。」
……あぁ、キーリルの提案は怖いくらいに魅力的……
でも、断らなくちゃ……これは、死神の囁きなんだから
……でも、キーリルの囁きはなんだか居心地が良いの…
力が手に入って、家があって、キーリルがいる……
それはとても……、
「…いいわね……」
想像して、思わず泣いてしまうぐらいに。
止めどなく涙が溢れてくるぐらいに…
「……じゃあ、無死に行こうか……」
キーリルはそのまま私を抱き締め、聞いたことの無い言葉を呟き、路地裏に居た私達の姿は……淡い光と共に消えた。
一応……。
・無死
死神だけが住む世界。
・女死
死神と人間の女性が契約すると、女性も死神になる。こうして誕生した女の死神は、女の死と書いて女死と呼ぶ。