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Flowers

ココヤシ

作者: 神楽慈雨

今朝、わたしが起きたら家に小さな小包が届いていた。


両手にちょうど乗っかるくらいの大きさの、赤いリボンが巻かれた白い箱。メッセージカードが付いていて、そこには


「ココへ」


とだけ綺麗な文字で書かれていた。


ココとはわたしの名前。


開けてもいいのかな、と思いスルスルとリボンを解いていく。赤いリボンを隣に置き白い箱の上蓋を押し開ける。


そこには一通の手紙が入っていた。


開いてみると、箱に付いていたメッセージカードと同じ綺麗な文字で書かれていた。


「ココへ

おはよう。起きたばかりで悪いが早速謎解きをしてもらう。答えが分かったら、その場所へ来てくれ」


ーー謎解き?


そもそも誰からの手紙なのか。

怪しすぎる手紙だが続きが気になって仕方ない。取り敢えず二枚目の手紙に目を通す。


「太陽に向かって吠えるライオンがたくさん居る場所。そこの正面にある甘い蜜が飲める場所。」


ーーなんだ、簡単じゃない。


ココはすぐに出かける支度をしようとした。


手紙をテーブルに置いたとき、かさりと紙がずれてもう一枚手紙があることに気付く。


はやる気持ちを抑え、ココは三枚目の手紙に目を通す。


「テレビの前に赤いリボンのついた白い箱がある。その箱に入っている服を着て来るように」


ココはソファーで隠れたテレビの前を見る。そこには小包と同じ大きな箱が置いてあった。


本当にある、とココはもはや笑えてくる。


小包を開けたように、その箱を開ける。

中には白いワンピースと赤いリボンの形のベルトと白いパンプス。

サイズはココにぴったりだった。ココはそれに着替えると、近くに置きっ放しだった麦わら帽子を被り家を出た。


熱い日差しがコンクリートに反射して、日向にいると上からも下からも熱せられているみたいだ。

その中を潮風を浴びながら確かな足取りで歩く。


何を考えているのかは分からないが、誰があの手紙を書いたのかは分かった。そしてどこに行かせようとしているのかも。


初めて見たときは何故ここにあるのかと驚いたけど、あの人が関係しているのなら話は別だ。これでバレないようにやっているつもりだとしたら笑えてくる。


ココは少し頬を緩めながら歩いて行く。家から答えの場所まで歩いても数分の距離。あまり出歩かないココにとってこの真夏日の澄んだ空の下は長い時間歩けない。きっとそれも計算の内だ。


これだからタチが悪い。


こんなことをされても怒れないではないか。


そんなことを考えているうちに目的地に着いた。


正面には海、背後に向日葵畑が広がる小さなカフェ。


ドアを開けるとドアベルがカロンと可愛い音を立てた。いつもなら賑やかでそんな音も聞こえない位なのに、今日はやけにその音が響く。


薄暗い店内を見回していると、ぱっといきなり明かりがついた。


「誕生日おめでとう、ココちゃん!」


ぱあんと響くクラッカーの音と誕生日を祝う声が店内のあちこちから上がる。


ココは驚いて、手紙を書いたであろう人物に駆け寄った。


「ああ、ココ。走っちゃダメじゃないか」


ココを気遣う彼の声はさらりと流して、ぎゅっと彼に抱きつく。


「わ、こ、ココ?」


「…ありがとう。レオ」


レオは初めて抱きついてくれたココを、嬉しさのあまりその手で抱き上げる。


「れ、レオ!」


自分のしたことに気づき顔を赤くするココの顔を覗き込み、レオはそのまま告げる。


「十七歳おめでとう、ココ。ちゃんと謎を解いて来てくれたんだな」


「あ、当たり前でしょ。あんなの簡単だったもの。それより、これどういうことなの?」


「ん?まだわからないか?ココの誕生日パーティーだよ」


貸切にしてくれたんだ、とにこやかに告げるレオにココは困惑する。


「でも、わたしこんなことしてもらう資格ない…」


レオの腕の中でココは俯く。が、背の高いレオに抱き上げられているせいで、その表情は全員に見えていた。


レオはココを落とさないように片手でこつんとココの額を叩く。


そうするとそこに手を当ててココが上を見るのが分かっているから。


「こら、そんなこと言うんじゃない。ここにいるみんなはココが好きだから、ココの誕生日を祝ってあげたくて集まってくれたんだぞ。そんなこと、言わないで」


「でも…」


「でもじゃない。それ以上言うと、ちゅーするよ?」


「なっ…。も、もう。レオのバカっ」


はいはいと真っ赤な顔のココを宥め、レオはカフェの中央へ進む。そこにセットされたイスにココを座らせると、レオは集まったみんなに声をかける。


「さ、主役のココも到着したことだし、パーティーを始めようか!」


その声を合図に一斉に騒ぎ始める。ココが今まで聞いたことがないくらい煩くなって、やっと自覚してきたココは唖然とする。


きっとレオに出会わなかったらこんなことには出会えなかった。


ココはレオの腕をそっと引き、耳元に唇を寄せる。


「ありがとう、レオ。最高の誕生日だよ。それから……」


一度躊躇い、口を結ぶ。

けれど周りの空気に背中を押されそっと口を開く。


「大好き」


思いがけない言葉にレオは体勢を崩し見事に素っ転んだ。この騒ぎの中でも一際大きな音に一瞬場が静まり返る。しかしそれはすぐに笑いに変わり、ココは高いイスの上からレオを見下ろす。


「レオ、大丈夫?」


「いいんだよ、ココちゃん。こいつ意外と初心なんだから」


「そうそう。まさかココちゃんの一言でこうなるとはなぁ」


「うっさいっ。余計なことをココに吹き込むな、おっさんたち!」


レオは反論しながら立ち上がろうとするが、そこにおっさん呼ばわりされた人たちからの蹴りが見事に入る。


「おっさんじゃねぇ!」


「お前と変わんねぇだろ!」


「やめろってっ。…って、あぁもう、謝るよ! だから……やめろって…」


そんな声を遠くに聞きつつもらったジュースに口をつける。

みんな遊んでいることはとうに分かっている。もちろん、レオも。


甘いココナッツミルクを手にココは自然と笑みが浮かぶ。


レオに出会うまではこんな楽しい時間があるなんて知らなかった。


誕生日がこんなに楽しいということも。


人混みの中に両親を見つけ、目が合う。彼らはおずおずとココの元に来て俯きがちに告げる。


「ココ。…誕生日おめでとう。それから…」


「ううん。いいの。お父さん、お母さん」


ココはミルクを置き二人の手に自分の手を重ねる。


そしてレオを思い浮かべると自然に浮かんでくる笑顔で言う。


「わたし、今幸せだから。初めてなの、誕生日がこんなに楽しいの。だから…、二人も笑って?」


二人は涙を浮かべながら笑ってくれた。


二人の後ろからはレオが歩いて来るのが見える。


こんなに嬉しいことはない。


去年までのわたしに教えてあげたい。


来年の誕生日はこんなに楽しいんだって。


あの頃のわたしから考えたら、パーティー(こんなの)なんて、思いがけない贈り物ね…。



「ココっ…」


遠くにわたしを呼ぶ声が聞こえる。


わたしを呼ぶのは誰?


レオかな、お母さん?お父さんかも。




あぁ、幸せだなあ。



こんにちは。

作者の神楽風雅といいます。


<作品について>

テーマは「ココヤシ」です。ココヤシとはココナッツのことだそうで、ちゃんと花が咲くそうです(←初めて知りました)

その花言葉は「思いがけない贈り物」です。そこから思いついた話です。読んだ方は気づいたと思いますが、ココヤシなのでココちゃんです(・・;)


<作者について>

最近のマイブームが花言葉でして、それでこの短編は花言葉をテーマにしているのです。

ココヤシにしたのは今日の誕生花らしいので…。安易な選び方です(笑


Thank you for reading !!


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