百の頭を持つ竜 前編
西洋には、神々に創られし様々な獣がいる。
彼らは、この世に生を受けたその時から、神に重役を与えられる。
ある者は冥界の門番を、またある者は黄金に輝く林檎を守る者として…。
神々から授かる重役、それは名誉な事である。
しかし、その重役は鎖として彼らを縛っているもの。
その鎖がなくなった時、神々が創りし獣は、いったい何者になるのだろうか。
濃い霧のかかった湖にて…
そこには、珍しくレミリアが日傘を持たずに歩いていた。もちろん、咲夜も一緒に。
「咲夜、少しお話しでもしましょうか。」
「はあ、お話…ですか。」
「そう、お話よ。咲夜、あなた、西洋の神話はどれくらい知っているの?」
「申し訳ありません、西洋の神話等に関する知識はそこまで多くありません。」
咲夜は申し訳なさそうに、でも少しだけ笑顔をまぜて答えた。
「いいのよ、いいのよ。知らなくても、そこまで関係のない事だから。」
レミリアは笑って答えた。
咲夜は、そうですか、と少し安堵の息を吐きながら答えた。
「でもお嬢様、なぜ今西洋の神話の話を…。」
「今から話すところよ。よく聞いておきなさい。」
「はい、分かりました。」
咲夜はレミリアの真意が分かっているのか、分かっていないのか、わからない様な間の抜けて返事をした。
百の頭を持つ竜 前編 完