過ぐる日の縁切り 後編
ーーー昨日、私が出かけたところに西洋の神とやらがまた訪ねてきた。その時、知や富や力が欲しくはないか、こちら側に来ないか、と言われた。私を招く理由が分からない。何か必ず裏があるはずだ。この事はあの子に黙っておこう、巻き込んでしまわない為にも。ーーー
縁の神の神社にて…
あの少年は昨日の参拝のときから、同じ様な願い事を何度かしている。私はあの少年の事が少しだけ気になるが、人の姿では見られないようにしている。
「キリコ様~」
「どうしたの?」
「最近あまり屋根に登らなくなりましたね。」
「あぁ~、もう飽きたのよ。」
「そうですか。」
「ハク。ちょっと来なさい。」
私が本当に聞きたかったのはこんな事じゃなかった。最近、キリコ様の様子が少しだけおかしい。
「ちょっとここに座りなさい。」
そう言いながらキリコ様は膝をとんとん、と叩いた。
「キリコ様の膝の上ですか?」
「そうよ。ほら早く。」
私は言われるがままにキリコ様の膝の上に座った。それはとても懐かしい感覚だった。
私がキリコ様に仕えるようになって間もない頃、こうやって私を膝の上に乗せては頭を優しく撫でてくれた。
「ハク。もし、私がいなくなる事があっても…。もうあなたは私の力を使うことが出来るはずよ。その時は…」
私はキリコ様の話を、途中で切って訪ねた。
「なんで、そんな事を言うんですか?」
もしもよ、と言いながら微笑み、キリコ様は話を進めた。
「その時は、あの少年に仕えるようにしなさい。あの子なら、あなたの事を分かってくれるわ。」
「そんな時なんて、ないですよね!」
私はいつの間にかキリコ様に抱きついていた。恥ずかしさなんてなかった。ただ、何処にも行って欲しくないと言う気持ちがそうさせた。
「そうならないといいわね。」
キリコ様は、泣きながら私の頭を撫で続けた。
その後だ。私はなぜか少年のカバンの中にいた。そして、そこで私は彌生と言う少年と過ごすようになった。
ーーー今日、あの子にもしもの時の事を伝えておいた。西洋の神と言うやつから、来なければあの子を連れて行くと言われた。それだけは何とかして避けなければならない。その為に、私はこれまでの私との縁を切る事にした。あの子の記憶から、私の存在が消えるかもしれない、それでも、守りたいから。ーーー
「これくらいですかね~。」
「それくらいなのか?」
「はい、何故か記憶が途切れていたりするのですが…多分、忘れてしまったんだと思います。」
「ま、キリコがそこまで悪いやつって訳じゃ無かったのは分かったからいっか。」
ハクの遠い記憶には途切れている部分があったりもしたが、彌生は気にかける事はなかった。
彌生とハクは約束の日が近づいている事を気にしながら、それぞれ休みを取る為に分かれた。
過ぐる日の縁切り 後編