表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/43

過ぐる日の縁切り 前章

彌生の知らない過去の話。

それは、ハクの記憶に残る過去の物語。



ーーーもし、私が人に問う事ができるのら、一つだけ、聞いてみたい事がある。

「何故に君はこの世界との縁を切りたがるのか。」と。ーーー




あの方は《縁の神様》として、この神社に祀られている。けれど、元々は縁切りの神だ。縁切りと言っても、悪い事をするわけでは無い。その人にとって悪い縁を切る事をしている。悪い縁が無くなれば、新しい縁を結ぶことができる。その新しい縁が、良いものになるかならないかは、その人間の所業次第だ。

そんな事をしているうちに、人々の信仰の形が変わり、縁を切る事も、結ぶ事もできるようになったらしい。

縁切りと縁結びができるようになったのも、今では結構な昔話なのだが…。


「キリコ様ぁ!」

私は屋根の上に寝転がっている主人に声をかけた。春風に吹かれとても気持ち良さそうだ。

「どうしたのハク?そんなに叫べなくても聞こえていますよ。」

「じゃあ早く降りてきて下さい!」

「誰も見えないでしょうに。」

「見える人がいたりしたらどうするんですか!」

「その時はその時その時よ。」

本当に自由な方だ。

あの方は神社の屋根の上に寝るのが、今のちょっとした日課になっているらしく、瓦のゴツゴツとした感触も悪く無いものだとか言っていた。

その度に注意をしているのだが、全く気にしていないようだ。


渋々と屋根から降りてきたキリコ様に尋ねられた。

「これまでに見えるような人間がいましたか?」

「いましたよ。」

「いつにどのような?」

「最近ですよ。赤ん坊が屋根の上を見ながら笑っていたじゃないですか。」

「ふふっ、ただの勘違いですよ。」

「だとイイですね~。」

私は少しだけ不満気に答えた。

私は、あの赤ん坊は確かに、キリコ様の姿を捉えていたと思っている。だから心配だと言うのに…。見られる事だけならまだ仕方が無いのだが、さすがに屋根の上で寝ている姿を見られてしまっては、何かと問題がある。

それに、あの赤ん坊がこの神社に来たのは十五年ほど前になる。

「あ…。」

私が考え事をしているうちにキリコ様はもう神社の奥に戻ってしまったようだ。

「ハ~ク~」

主様がお呼びのようなので。

「何ですか?」

「あなたが今さっき話していた赤ん坊。最近、神社に来ていたわよ。」

「そうですか~。でも、もう赤ん坊ではなかったのでは?」

「ええ。とても立派になっていたわね。それに…少し…な物があるみたいだし…。」

「何か言われました?」

キリコ様の返事はたまにだが聞き取りにくい時がある。

「ん?立派になっていたわね~って。」

「あ~。ですよね~、人は大きくなるのが早いですからね~。」

それからしばらくして、この神社にはある少年が通う様になり、その度にキリコ様は姿を隠していた。季節は夏の終わりになっていた。

「キリコ様?何故隠れるのですか?」

「多分、彼は見えるからですよ、私達が。」

その時から、キリコ様は何かの準備のようなものをする様になった。

私にはキリコ様の考えている事は知る由もなかった。だが、キリコ様が何処か遠いところに行ってしまいそうな気がしていた。


そして冬が訪れた。

いつものように少年が神社にきた。

その少年は今日、こんな願い事をした。

「僕はこの世界から違う世界に行きたい。神様なら連れて行ってくれ…。」と。

彼の心からは、何か大切な物が無くなってしまっている様にも見えた。




ーーー私は知りたかった。君の願いの誠の意味を、理由を、そして、その心を。ーーー





過ぐる日の縁切り 前章





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ