紫の問題
進むべき道に迷った時。その背中を推してくれるのは同情や励ましの言葉では無い。
博麗神社…境内にて…
神社の鳥居をくぐる人は今日もいないようだ。ここ最近、あの異変が起きてから、更に参拝者は減っていた。おそらく慧音があまり里の外に出る事を勧めないのであろう。
「はぁ。今日も参拝者は無し、かぁ。」
もう、夏も終わりに近づいてきたこの頃。境内には少しずつ落ち葉が増えていた。
「一応、掃除だけはしとかないとね。」
そう言うと、霊夢は箒を手に取り、境内の掃除を始めた。掃除だけしていれば、とても立派な巫女だと、誰が見ても思うだろう。
適当に掃除を済ませると、霊夢は箒を近くの木に掛けて、本殿の方に行ってしまった。こういう所があるから、何処かしらの仙人に説教を受けるのだろう。
霊夢は縁側に座り、そのまま仰向けに寝転がってしまった。何とも平和な光景だ。
「今日も静かに過ごせそうね。でも、あの異変はまだ続いてるのよね。こんなに長引くなんて…なんか、静かでも落ち着かないわね。」
霊夢は秋晴れに近くなった空を見上げながら一人、呟いた。
「そうね~。静かでも落ち着かないわよね~。」
霊夢の一人言に、返答する声が一つ。
霊夢は声の主が誰なのか、目で確認する事無く、気だるそうに言った。
「紫。何であんたが居るのよ。」
紫はスキマから出てきて、霊夢の隣に腰掛けて言った。
「あら、参拝者に向かってそんな言い方はないでしょう?」
「参拝者はいきなり後ろから出てきたりしないわよ。あと、ちゃんと鳥居をくぐって来るわよ。」
「ふふっ。それもそうね。」
「で、何のようなの?」
霊夢は寝転んだまま紫に問いた。
「少し、あなたの意見を聞いておきたい事があってね。」
「あんたが相談なんてね。ま、いいけど。」
「西洋の戦神についてなんだけど、いいかしら?」
霊夢はいきなり体を起こしながら言った。
「それなら私も聞きたいわ。お茶持って来るから少し待ってて。あ、妖怪ってお茶とか飲むの?」
「ふふっ、私は飲んだりするわよ。他の妖怪はお酒ばっかりだけどね。」
「そう。」
霊夢は紫を母屋の方に通して、居間で待っているように伝えると、お茶の準備をしに行ってしまった。
「こういう所が人からも妖怪からも好かれるのかしらね。」
少女準備中…
「待たせたわね。はい。」
「ありがたく頂くわ。それじゃ、話に移りましょうか。」
「そうしてちょうだい。」
紫は彌生達が紅魔館でちょっとした騒動を起こした事を霊夢に話した。
「彌生達もおもしろい事するじゃない。それにあの吸血鬼の妹がね〜、でも、それの何が問題なのよ。」
「問題は彌生くん達と一緒にいる西洋の戦神のアテナって神様よ。彼女はあそこのメイドと戦う時、スペルカードルールとは全く関係の無い、本当の殺し合いをしていたのよ。それに、彼女の創った空間には私のスキマも入り込めなかったわ。つまり、あの空間では能力が使えなくなっている。それによって、スペルカードも使えなくなってしまう。」
「能力が使えなくなってしまう事が問題なの?」
「それは問題ではないわ。能力が使えなくなるのは多分あのアテナの能力のようなものだからそこまでの問題ではないわ。問題なのは、本気で殺しあっていた事よ。この事から考えられるのは…。」
「西洋の神にはスペルカードのようなものがない。と言う事ね。」
「その通り。私達はスペルカードがある以上、相手を殺す事はできないわ。ここで私が感じた問題はこの幻想郷に生きるものが死ぬと言う犠牲を払わずに済むか。と言う事よ。」
この問題は紫だからこその問題だ。幻想郷の事を一番に思う紫の気持ちを霊夢はしっかり受け止めた。
「私だって、そんな犠牲を払うつもりなんてないわ。」
霊夢はそう言いながら一枚のスペルカードを取り出した。
「このスペルカードは私と魔理沙の二人で発動させるものよ。私達のスペルカードは相手を瀕死の状態にする事なら出来るでしょ。それに、誰も死なさず、死ななければいい。これが私の覚悟よ。」
「ごめんね、つまらない事で時間を貰って。私も私なりの覚悟を決めて、この異変に向き合うわ。」
そう言いと紫はスキマを開いて何処かに行ってしまった。
スキマが閉じる時、一枚の紙が落ちた。そこには、紫の字で、ありがとう、と書かれていた。
魔法の森…魔理沙の家にて…
「あの特大のマスパをいつでも出せるようにしないとな。私にだって、それなりの覚悟はあるさ。」
白黒の魔法使いは残り半月を有効にすごすようだ。
紫の問題 完