誰ガ為ニ剣ヲ抜ク
白い壁に包まれた空間で向かい合うメイドとギリシャの戦神。
紅魔館のメイドは主の事を思って。
ギリシャの戦神は共に闘う仲間の事を思って。自ら闘う事を決意した。
互いに誰かの事を思い、誰かの助けになる為にと…。
アン•アリーナ•コロッセオ内部にて…
ナイフと剣の金属音が鳴り響く中、咲夜とアテナはまだ余裕の顔つきでいる。
アテナが突けばそれを咲夜がナイフで避けながら、間合いを詰める。遠い間合いでは、剣を使うアテナの方が有利だが、近い間合いではナイフの方が有利になる。二人共、自分の武器の特性や弱点を良く知っている。だからこそ、弱点に対する対処法もある程度知っている。アテナは近い間合いから何とか距離を取り、構え直した。
「逃がしましたか。さすが、西洋の戦神ですね。」
「ありがとうございます。咲夜さん。一つだけ聞きたい事が…。」
そう言うと、アテナは剣の切っ先を咲夜から外した。すると、咲夜も少しだけ、構えを解いた。
「いいですよ。それで、何の用でしょうか?」
「では、遠慮なく。あなたのそのナイフ…と言うより、短剣に近いでしょうか。その作りからして、相当古いモノだと思うのですが。それと咲夜さん。あなた、人間ですか?」
咲夜は後ろに手を回した。
「私が普段使うのはこのナイフです。」
そう言いながら後ろに回した手を前に出した。その手には三本のナイフが握られていた。
「今使っていた短剣は、私が私の能力を使えるようになる前まで使用していた大切なモノです。それと、私は人間です。老いがくれば死にます。ただ、普通の人とは違う時間を生きている。と、言っておけば宜しいでしょうか?」
アテナは納得した表情だ。
「違う時間を生きている、ですか。長話、すみませんでした。」
アテナはまた、剣を構え直した。
「では、勝者を決めましょうか。」
咲夜は短剣をメイド服の腰のあたりにしまい、右手左手にいつも通りのナイフを3本ずつ構えた。
二人の距離は約9歩。どちらも相手に届かない距離だ。
二人の動きが止まる…。
先に仕掛けたのは咲夜だ。アテナとの距離を一気に詰めながら、右手のナイフを起用に投げる。と、同時にそのまま右手で腰のあたりから、短剣をとりだした。
アテナはナイフを避けながら咲夜の左胸を目がけて突いた。
咲夜は右足を軸に半回転し、左手にある三本のナイフをアテナの左肩に突き刺そうとする。
アテナは左からくるナイフに気づくと一瞬の判断で、出来るだけ低い態勢になりナイフを避けた。
咲夜はそのまま攻撃を続ける事はせず、また距離をとった。
咲夜の行動は正しかった。もし、そのまま攻撃を続けていたら、軸足として体重のかかっている右足をアテナに狙われていたかもしれない。
二人の間に、また緊張の糸が張り詰める。
紅魔館…大広間にて…
「彌生。この半球、あなたの能力でどうにかならないのかしら?」
レミリアの突然の提案に彌生は苦笑いで答えた。
「レミリア。僕の能力は、今言ったとおり、そんなに万能じゃないんだよ。」
「それじゃあ、アテナさんがあなたの事を思って闘っていたら?」
「それなら問題ないけど。だけど。」「だけど、なんて関係ないわ。やらないより、やった方がいいでしょ、彌生。」「…はい。やってみます。」
彌生はレミリアの言うままに動いた。白い半球に近づき壁の様なモノに両手をついた。
壁は徐々に色がなくなり、白から透明になっていった。アテナと咲夜が見える。アテナは驚きの表情でこちらを見ている。透明なモノはまるで布のようにユラユラと揺れる。それは最後に彌生の左手に集まり、彌生が見た事のある盾の形に戻った。
「彌生さん!?」
「お嬢様!?」
二人は手を握り合ったままの状態で動こうとしない。
「あなた達…。」
「何でそうなった。」
アテナの右手には剣が。咲夜の右手には短剣が。二人とも、動こうとしないのではなく、動けないのだ。どちらかの力が弱まれば、そのまま首を掻っ切ってしまう様な状態だ。
「咲夜!それにアテナさん!そこまでよ!」
レミリアの一喝に二人は顔を見合わせると互いにゆっくりと手をおろした。
「二人ともこっちで話をしたいのだけれど、いいかしら?」
アテナと咲夜を交えて彌生の能力についてもう一度話をした。アテナは咲夜に頭を下げたり、レミリアに頭を下げたりと、本当に律儀な戦神だと彌生は思った。
騒がしかった紅魔館にやっと静かな時間が戻ってきた。
無数の目のようなモノが浮かぶ暗闇の中。彼女は頭を抱えていた。
「はぁ。あのアテナとか言う西洋神の戦いを見た限りだと…。まだ西洋の神様達は殺し合いをしているようね。少し考えモノだわ。スペルカードが有る限り、こっちは相手を殺す事は出来ないし…。何か考えなきゃいけないわね。」
そう言うと彼女は何処かに続くスキマを開き、また何処かに行ってしまった。
誰ガ為ニ剣ヲ抜ク 完
更新がばらついているこの作品を読んで下さった方、読んで下さっている方、本当にありがとうございます。
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では、次回で会える縁を信じて。