紅の館の侵入者 前編
紅の館には優しく、静かな時間が流れていた。
ゆうゆうと紅茶を飲む吸血鬼。そのお世話をするメイド。山のように積まれた本を読む魔女。その片付けを手伝う小悪魔。紅の館の門番を務めながら昼寝をする者。それぞれがそれぞれの大切な時間を過ごしていた。
紅魔館で…
レミリアは紅茶を飲みながら庭に咲いた真紅の薔薇を見ている。
「今日も綺麗ね。それに今日もあなたの淹れてくれるお茶は美味しいわ。」
レミリアは咲夜の方を向いた。
「ありがとうございます。お嬢様。今日も綺麗ですね。」
咲夜は本当に嬉しそうだ。
咲夜は薔薇が綺麗だと言っているのか、それともレミリアの事を綺麗だと言っているのか。それは咲夜本人にしか分からない。そこで二人の会話が途切れそうになった時だった。
激しい爆発音が館の門の方から聞こえた。それと同時に美鈴の叫び声が響いた。
「咲夜!先に行きなさい!」
「はい!」
咲夜は時間を止めてレミリアよりも早く美鈴の所へ向かった。
紅魔館…正門にて…
「美鈴!」
咲夜が駆けつけた頃にはもう誰もいなかった。いるのは気絶した美鈴だけだ。そして館へと続く石畳の綺麗な通路には雷が落ちた後の様なモノがあった。
「美鈴。あなた、もしかして雷に打たれたの?」
美鈴は咲夜の問いかけに答えず、ただ息をするだけだ。
「咲夜!美鈴は大丈夫!?」
少し遅くなったがレミリアも駆けつけた。
「お嬢様。美鈴は無事です。今は気絶していますが、すぐに目を覚ますと思います。」
「そう。なら良かったわ。一つ気になるのだけれど、美鈴は落雷くらい避けれるわよね。」
咲夜とレミリアは黙り込んだ。
「あ、また昼寝でもしていたんじゃないでしょうか?」
咲夜が苦笑いで伝えた。
「咲夜。そもそもこの天気で落雷なんて起こるのかしら?」
二人が空を見上げるとそこには雲一つ無い真っ青な空が広がっている。
「そうしますと、一番の可能性は何者かの襲撃を受けた。と言う事ですか。」
「今は…そう考えるのが一番ね。」
そう言うと、レミリアは紅魔館を赤い霧で包んだ。
「咲夜。美鈴を連れて館の中に戻りましょう。」
「はい。お嬢様。」
咲夜は美鈴を抱き上げて、レミリアは緊張した面持ちで館の中に戻って行った。
紅魔館…誰もいない部屋にて…
そこでは4人の侵入者が話をしていた。
「おい。こんな事して大丈夫なのかよ。」
「私は不安なんですけど。」
「私もです。気絶させるために雷を落としたのは初めてです。」
「大丈夫だって!私にしっかりついて来てよね!」
金髪の少女は楽しそうに笑っていた。
紅の館の侵入者 前編 完