異例の異変
天を舞う者達の戦は光の中に幕をおろし、地に立つ者達戦は新たな幕開けを予感させた。
カグヅチを失った今、キリコは切り札である《存在の否定》を発動させる事は出来ない。この戦いも、ようやく終わりに向かっているように思えた…。
「キリコ、あなたの敗北はもう見えています。諦めるなら今ですよ。」
ハクはキリコの戦意がまだ残っているのか確認の意味でキリコに話しかけた。
「私は今さっき言った通り、諦める気なんて早々無いわよ。あなた達は、まだ気づいていない様だけど、もうそろそろよ。」
キリコはそう言うと、今すぐにも崩れそうな幻想郷の空を見上げた。ハクとフランも見上げた。夜の闇は、朝の光に照らされ始めていた。
その時…
幻想郷の空に鏡の割れ目の様なヒビが入った。その割れ目は轟音と共に崩れ始めた。
「来るわよ。あなた達の知らない、戦神が。」
その時…
崩れ始めた幻想郷の空から、一筋の稲妻がハクとフランを襲った。その稲妻はハク達が知っている一直線の動きをせず、カクカクと曲がったり折れたりして、まるで生きているかの様に、ハクとフランを確実に捉えていた。
「逃げきれない!!」
「あたる!!!」
ハクとフランはそれぞれ叫んだ。
稲妻は空中で斬られた。雷が落ちるのと同じ様な早さで何者かが斬り捨てていた。一直線に進む白い稲妻の様に…。
「私に斬れないモノはあまりありません。」
斬られた稲妻は消えなかった。その稲妻の中から一人の男が出てきた。男の身なりは幻想郷では見るはずのないモノだった。
「我が名はアレス。戦いの神だ。」
西洋の神々と同じ身なりで、名はアレス。自らを戦の神と言った。
「だ、誰なの!?」
フランはこの状況を飲み込めないでいた。それも仕方ない事だ。この幻想郷に西洋の神が現れる事など今まで一度たりともなかったのだから。
「一度、ここは退くとしよう。キリコよ。」
「仕方なし、かな。この状況だと私達の方が不利だからね。」
そう言うと、鏡の破片の様に飛び散った幻想郷の空が逆再生をする様に戻り始めた。異世界の戦神アレスと、キリコは消えて行った。
ハクとフランは二人ともその場から動けないでいた。足がすくみ、この幻想郷の空が元に戻って行く様に圧倒されていた。
「一月。お前達に時をやろう。この一月で戦うか退くか、決めておくとよい。」
最後にアレスからの戦いの一時中断の言葉が響いたあと、幻想郷の空にヒビの様な割れ目は一つも残っていなかった。
「あ!」
ハクは思い出したかの様に妖夢の方を向いた。
「ありがとうございました!あと…誰ですか?」
「いえ、こちらこそ直ぐに戦いに出て来れず申し訳ありませんでした。私の名前は魂魄 妖夢と言います。白玉楼で庭師兼剣術指南役を任されています。」
妖夢のハッキリとした口調は聞いていて内容が分かり易かった。ハクはその後、自分と彌生の話をした。妖夢は他の妖怪や巫女よりも聞き分けが良く説明も早く終わった。
その時、再び幻想郷の空にヒビの様な割れ目が入った。
妖夢とハクは刀を構えた。フランは両手に妖力を集め、いつでも弾幕を飛ばせる準備をしていた。
「また、何か来ますよ。」
「はい。フランさんも…準備できてますね。彌生さん、すみませんがもう少し。」
「いつでも来いだよ!」
三人の少女は心を決めた。
白玉楼で…
「薄々感づいてたけど、まさか西洋の神まで絡んでいるなんて。これは考えものね〜。はぁ〜。」
幽々子は幻想郷に西洋の神が現れると言う異例の事態に頭を抱えていた。
博麗神社で…
「あれ?崩壊が止まった…?」
霊夢は紫に目で合図をした。
「えぇ。確かに崩壊は止まった…。けれど、今までにない異変が起こっているわ。霊夢。あなたは西洋の神を見た事は無いわよね。」
霊夢は自分の知らない神の出現に少し興味を示した。
「私はまだこの幻想郷ができる前にいろいろな土地を巡っていたの。あなたの知ってる通り、私の能力ならその土地の神々まで覗く事ができたの。その中で、西洋の神々にも一度会っているの。彼らと私達は根本的に違う歩みをしてきたの。」
「つまり、住む場所が違うし、発展の過程も違う異世界の神がこの幻想郷に現れた。と言う事ね。」
霊夢は少し口の端をつり上げた。
「西洋からの神も、妖怪と同じ様に退治してあげるだけよ!」
霊夢の言葉にその場に居た者達は安堵を覚えた。
「あなたがその調子なら大丈夫ね。」
紫は笑顔で答えた。
異例の異変 完
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では、また次回で会える縁を信じて…。