目覚める吸血鬼
僕の目の前にいる彼女は、僕に幻想郷へ来る力をくれたモノで、幻想郷を壊すモノで…。
目の前の彼女は、何を思い、僕に力を与えたのか。今はそんな事なんか、彼女に聞く事なんてできない。
何処かの竹林で…
「意外に早くここまで来た事は褒めてあげるわ、彌生くん。でも、もう遅いのよ。あとは、あなたを消すだけだからね。」
キリコは笑顔で彌生だけに話しかけた。
ハクは彌生の前にでた。彌生を護る為にと決心していた。
「そんな事、私が許すとおもっているんですか!」
「ハク。一人で戦おうなんて、思ってないよな。俺はお前の力もかりなきゃ戦えないんだ。だから、一人でなんて、考えるな。」
キリコは彌生とハクの会話を見て笑い。
フランは彌生とハクの会話を見て微笑んだ。
この二人の笑顔は冷ややかさ、と、温かさ。笑顔の奥の心に思うものが違った。
「ハクと彌生は仲良しだね!お姉様と咲夜みたい!」
フランの無垢な表情は彌生もハクも大好きだった。
「それじゃ、私はこの辺で消えるよ。あんたら、しっかりやりなよ。」
「ああ、ここまでありがとう。幸運の兎さん。」
「私は因幡てゐだ。忘れる事なかれ!」
ここまで連れて来てくれた妖怪兎に分かれを告げた。この竹林にいるのは、自分達と、キリコ、そしてあの大蛇。
「そんじゃ!そろそろお前との縁を斬らせて貰おうか!」
彌生の右手には白蛇が巻きつき、手には一振りの刀が握られていた。
「ね、ね、この女の人ってさ、壊してもいいの?ねぇ!いいの!?」
彌生はフランの目を見て背中に冷や汗をかいた。
この目はこんな幼い子供の目じゃない。
モノを壊す事に対する執着心。そのモノを生きてるモノでも、動かないモノでも、関係なく例外なく壊す。その執着心が純粋であればあるほど、それは恐怖となる。
彌生はフランに恐怖を覚えた。しかし、フランの無垢な笑顔が彌生に信じる決心をさせてくれた…。
「あぁ!その通り!あいつは壊さなければならないモノだ!力を貸してくれるか?」
「あははっ!もちろんだよ!」
レミリアからはフランの力は強すぎるから気をつけろと言われていたが、今は迷っている場合ではない。
「フラン!ハク!一人で戦うんじゃないからな、そこん所!よく考えろよ!」
キリコは黒い日本刀を黒い大蛇に突き刺した。
「さあ、起きなさいカグヅチ。時間を稼いだ分。しっかりやるのよ!!」
竹林の竹がカグヅチの業火に焼かれ、割れていった。そこから上がる煙はまるで、戦いの始まりを知らせる狼煙のようだ。
博麗神社で…
「始まった見たいね。今はあいつらを信じるしかないか…。」
霊夢と紫は彌生達を信じて自分達が今出来る事に専念した。
亡霊の館で…
「幽々子様。行かなくて宜しいのでしょうか?私だけでも、行った方が良いのでは?」
「妖夢。焦ってはダメ。敵の狙いがこれだけなのか、まだ分からない以上、私達の出る幕では無いは。でも、お出かけの準備はして置きなさい。」
幽々子の狙いは彌生達を救う事に繋がるのか、今ではまだ誰も知ることはできない。
幻想郷の空で…
「魔理沙!早くしなさい!彌生がこの幻想郷を護る鍵になるのよ!」
「へへっ!分かってるぜ!次こそはあの蛇を焼いて食ってやるぜ!」
黄と紅の光は崩れゆく幻想郷の空を流れ星の様に横切った。
目覚める吸血鬼 完