二人の思い
霧の湖は紅い霧でおおわれ、その赤色を映す湖は、まるで血だまりのようだった。
「みなさい咲夜。この綺麗な湖を。あの神様を沈めるにはとても綺麗すぎるわね。」
「お嬢様。あまり時間をかけすぎると、フラン様が心配しますよ。」
「そうね。それじゃあ、始めましょうか。」
「早く始めてよね!吸血鬼さん!!」
キリコは楽しそうに笑っていた。
「まず、手始めに。《天罰 スターオブダビデ》!」
このスペルカードはレミリアが紅魔異変の時にも使用したものだ。
「そんなの当たりもしないよ!」
キリコは弾幕を避けながら、距離を詰めていた。その間にシーサーペントは湖の中から、レミリアのすぐ下まできていた。食らいつこうと湖から姿を表した瞬間。
「《幻世 ザ•ワールド》」
メイドの持つ時計の針が止まった。
その針が動き出した時、シーサーペントには無数のナイフが突きたてられていた。
レミリアは、咲夜ならあの海獣を始末してくれると信じていた。この二人は互いに命を預ける覚悟で戦っていた。
残るは、キリコだけだ。しかし、彼女は余裕の笑みをこぼしていた…。
「あの〜メイドさん?。この程度で私のシーサーペントが死ぬと思ってるの?」
海獣に突きたてられていたナイフは、水のように溶けていた。その原因は、海獣の周りにある水の衣だろう。まるで、炎を纏うカグヅチのうに、水を纏っていた。
「そうだよね〜、溶けちゃうよね〜。だってあのこの周りにある水ね、王水って言ってほとんどのモノなら簡単に溶かしちゃうんだ〜。」
湖の中では気づかなかった。この海獣は簡単には、倒せそうになさそうだ。
「それじゃあ、私の番だね!《悪符 タイムアウト》!」
とっさに咲夜は、自分も時間の止まった世界に入りこんだ。
「やはりあなたも、彌生さんと同じような事ができるんですね。」
「あなたが時間を操ってここまでついてくるとは、さすがね。」
咲夜の弾幕と、キリコの弾幕は、放たれるが時が止まっているために、動かずに、宙に浮かんでいた。
時間が動き出した時、凄まじい爆音が、鳴り響いた。
「あなたがいてくれて助かったわ、咲夜。」
「ありがとうございます。お嬢様。」
咲夜は、とても満足している様子だ。
「これから、まずあの海獣をどうにかするわよ。咲夜。」
「はい。お嬢様。」
「《紅符 不夜城レッド》!」
レミリアから紅い十字架のオーラが放たれる。このスペルカードならば、あの王水とやらも一時的に、無効化することができる。
その隙を生かし咲夜は、スペルカードを使う事もなく、時間を止めシーサーペントの首にナイフを突きたてた。もうこの海獣は、動くことができなくなった。
その時だ。キリコから異様な気配を感じた。そして、キリコの持つ刀の切っ先がレミリアを捉えた…。
「そこまでできるなんてね…でも、もう終わらせてあげるよ…《縁符 存在の否定》」
キリコの姿が消えた時、咲夜はレミリアを押し飛ばした。次の瞬間。レミリアの目に映ったのは、刀に貫かれた咲夜の姿だった。
「咲夜ぁぁ!!」
レミリアの目には涙が溢れた。
「お嬢様、泣かれるのは、まだ早いです、私ごと、この神を、お願いします!お嬢様!!」
レミリアは、咲夜の気持ちを充分に理解した。だからこそレミリアは、神槍をてにした。
「これが!本当の最後よ!!《神槍 グングニール》!!!」
レミリアは、泣き叫びながら、自分の最高のスペルカードを発動させた。
その神槍は咲夜を貫き、縁切りの神を貫いた。二人の鮮血が、紅い湖に吸い込まれた。
「なんで、なんであなたは、あの、吸血鬼に、命を、差し出せるの?」
「敵だと、しても、答えて、あげましょうか。それは、ですね。愛しているから、ですよ。」
「私も、愛が、愛して、くれる、人が、ほしかった。あなたは、まだ…」
そこで二人の最後の会話は終わった。
「咲夜!咲夜ぁぁ…」
「おじょうさま。」
「咲夜!あなた!生きてるのね!咲夜ぁぁ」
レミリアは泣き叫びながら、咲夜に抱きついた。
咲夜とキリコの最後の会話のあと、あの子供の縁切りの神は、最後に最後の力を使い、咲夜の生との縁を結んでいた。
彼女には、この二人のような信じ会えるモノなどいなかった。だからこそ、最後の咲夜の姿を見たとき、この二人には、二人のままでいて欲しい、そうおもったのだった。
何処かの妖怪の山で…
そこでは、彌生とハクがフランと合流していた。だが、彌生の探すキリコの姿は、まだ見つからないままだった。
何処かのヒマワリ畑で…
「あなた!私のヒマワリを踏み潰すなんて、いい度胸してるのね?」
「なんのことかしら?こんなモノ。存在する理由があるのかしら?」
翠色の大蛇を連れた小さい縁切りの神は笑いながら、そう言った。
二人の思い 完