第1章その一:プロローグ
その夜。
『誰だ。』
バリアの向こうから兵士の声がする。
「頼まれたおとどけものデス。」
配達ロボットは用件を告げた。
おとどけものとは領主に頼まれた木材だ。
これは領主の趣味のために使うのだが、その事を知っているのはごくごく一部だ。
『む、そうか。分かった、入ってよろしい。』
バリアが解かれた。
今担当している者は兵士としては新米らしく、バリアの一部だけを解かずに全てを解いた。
ロボットは言われた通りに入った。
だが別の所から素早く入る少女がいた。
もちろんリオンだ。
彼女はイクスの忠告を聞かず、領主を殺そうとしている。
とりあえずバリアは抜けた。
(領主はどこだろう)
一応彼女も自分が圧倒的な不利である事は分かっている。
だから狙うのは領主のみ。
そう決めてここまでやって来た。
(大丈夫…やれる!)
その手に持っている銃を握りしめながら、彼女は自分に言い聞かせた。
(コレがあればなんとかなる。)
実は義父にばれないようにこっそり試し打ちをしてみたのだ。
思ったより威力はすごく、反動で少し後ろに下がってしまった。
が、狙いはほぼ完璧。
出力を調整すればなんとかなるだろうと思っていた。
(出来るよ……父さんや母さんのためなら!!)
そしてリオンは闇のように城の中へと入っていった。
一方こちらは宇宙船。
イクスは小高い丘の上に宇宙船を止めていた。
バースは買ってきたばかりの、インスタントでできる肉料理を食べている。
こうした調理しないでも食べられるものはたいていすぐに無くなってしまう。
なので、長旅であればあるほど不味い飯を食べなければならない。
迅は宇宙船の上で寝転がって空を見ている。
人工的に作られた空。
星は見えるが、迅の故郷で見えた月は見えない。
月なんて元々自分で光ってないのだからしょうがないが。
一際輝いている赤い星は太陽だろう。
故郷では偉大に見えた太陽があんなに小さい。
しかし、太陽からはるかに離れたここでも見えると考えれば、やはり偉大だ。
「迅、おい迅!」
「……なんだ?」
「なんだじゃねーよ。お前に頼まれた事調べてやったのに。」
「そうか。で、どうだった?」
迅は体を起こして、イクスの方を向いた。
「腐ってんなあいつ。人を苦しめたり、挙げ句には他の星に売ったりしてるみたいだしな。」
「そうか……。」
「どうやら嬢ちゃんの言ってた事は本当みたいだぜ。」
「だろうな。」
迅はまた寝転がった。
「どうすんだ?」
「ん?」
「あの嬢ちゃん、勝ち目が無くても絶対行くぜ。」
「かもな。」
二人の会話に、いつのまにやら飯を食べ終わったバースが口をはさむ。
「まさか迅おめぇ、あんなガキをみすみす殺すような事はしねぇだろうな?」
「……あんなチビ助がどうなろうと俺には関係ないさ。」
「じゃあなんで俺に調べさせた?」
「………」
「助けようとしたからだろ?」
「なんで俺がそんな面倒くさい事を――。」
「あのガキがお前とかぶったからだろ?」
「!!!!」
核心を突かれたように迅は反応した。
「助けてやろうぜ。あの嬢ちゃんを。」
「もしかしたらお礼に飯をおごってくれるかもしれねぇしな!」
暗い雰囲気を吹き飛ばすかのようにバースは言った。
迅は起き上がり、仲間を見た。
二人とも笑顔だった。
迅はやれやれと言った感じのため息をついた。
「しょうがねぇか。よし!イクス!バース!行くぜ!!用意しろよ!!!!」
『おう!!』