5話 危険な執事
ど、ど、どこに連れて行かれるの?
やっぱり猫を洗うなら、外の水場だよね?
よ、よし、外に出たら暴れて逃げよう!
どきどきしながら執事さんに抱かれて運ばれる。
さすが猫好き、抱っこの仕方が安定している。
「おや、良い子ですね。 お風呂は初めてでしょうが、暴れないでくださいね」
優しい声を掛けながら、あたしの喉元をくすぐる。
う、うわ、それやめてぇぇぇ……。
不覚にも喉がごろごろいう。
はーずーかーしぃぃぃ!!!
身悶えているうちに着いた先は、風呂場だった。
えぇぇっ、外じゃないの!?
内心で慌てていると、あたしを抱っこしたまま執事さんは着ていた上着を脱ぎ、シャツ一枚になってズボンの裾をめくり上げ準備万端。
って、素早いっ!!
「さぁ、お風呂に入ろうね。 怖くないよ」
殊更優しい声に、反抗心が封じられる。
うぅっ……し、仕方あるまい、今日は甘んじてこの羞恥に耐えよう…っ。
い、いや、暴れたほうがいいだろうか。
うぅぅぅ……む。
タライに張ったぬるま湯にゆっくりと下ろされる。
ひ、久しぶりのお風呂が、猫 姿なんて……。
執事さんの前では絶対人間に戻れない。
「良い子だね。 少しお湯を掛けるけど、我慢できるかな?」
そう言いながら、そろそろと背中からお湯を掛けられる。
あ…気持ち良い……。
目を細めて、久しぶりのお湯の感触を堪能してしまう。
「お風呂が好きなんだね。 良かった」
ほっとしたような執事さんの声に、思わず頷いてしまいそうになる。
「無臭の石鹸を使うけど、ごめんね」
何かするまえに優しく声を掛けてくれる。
手のひらであわ立てた石鹸を、濡れた毛に乗せられ優しい手つきで洗われる。
い…いけないわ……やわやわと揉まれて…凄く気持ちいい……癖になりそ……
ついつい大人しく洗われてしまうけど、仕方ないわよね!?
凄いのよ! 執事さんのフィンガーテクニック(誤用)!
「気持ち良いのかい?」
『はぃぃ。 とってもぉ…』
思わず猫語で返事をしたら、くすくす笑いながら喉元を撫でてくれる。
一度じゃ綺麗にならず、二度石鹸で洗われて、丁寧に濯がれた。