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獣な彼女【書籍化】  作者: こる.


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27話 国王様

 ――そんなわけで。

 王宮に通されたあたしは、しっかりとご飯を頂いた。


 黒狼の姿のままで。……まぁ、いいんだけどね。食べられれば、いいんだけどね……っ。


 ちゃんと人間仕様の美味しいご飯をたらふく頂いて、まったりと寝そべっているのは皇子様の私室の近くにある客間……で、絶賛軟禁中。


 部屋の入り口には顔色の悪い衛兵が2人立っていて、あたしがちらりと視線を向ければギクリと強張る。

 この高さなら飛び降りてここを出ることもできるから、不安もなにも無いんだけど。

 皇子様は一晩中起きていたらしく只今爆睡中、アクセルは事後処理が終わったら迎えに来てくれるといっていたが、最初自分の仕事場にあたしを連れて行こうとして周りから却下をくらっていた。

 くぁぁ、と大きなあくびを一つして、日向ぼっこを継続する。

 ちょっと寝ちゃおうかしら、流石にそれは呑気すぎるかしら。


 うつらうつらしていると、コンコンと扉をノックする音が響き、衛兵の一人がドアを開けた。

 伏せていた体を起こして、入ってきた人物を見やる。

「こちらがトレノの言っていた”恩人”か?」

「はいっ! 皇子は”アルトさん”とお呼びになっておりました」

 入ってきたのは……美貌の中年、別名国王様と服に着られている痩せぎすの教育係の青年だった。

 なにゆえ、国王様……。

 少々げんなりしつつきちんとお座りの格好をとる。

 こちらから近づくのは、恐怖を煽るだろうからやめておく。

「ふむ……。アルト、か」


 国王様は黒狼あたしを少し離れた場所から見下ろし、不意に歩を進めて手の届くところでしゃがみ込んだ。

「へ、陛下っ! 危険でございますっ!!」

 大いに慌てる教育係に構わず、あたしに手を伸ばしてワシワシと耳の後ろあたりを掻く。

 うむ、気持ちいい。

「テリオス、アレを持てい」

 国王様が言うと何処からか黒尽くめの細身の男が現れ、思わずびくぅっと驚いてしまった。

 そんなあたしの頭を宥めるように国王様が撫で、テリオスと呼ばれた黒尽くめから豪華なビロードの小箱を受け取る。

 黒尽くめはそれだけ渡すと、無言で忽然と消えた。

 え、えぇと、今の何?

 きょとんとしているとそれに気づいた国王様が小さく笑う。

「あれは俺の懐刀だ。さて、アルト、我が息子を助けてくれてありがとう、トレノから貴女の事は聞いている。どうか、これからもトレノの傍に居てくれないだろうか」

 は?

 ぽかんとしたあたしに、国王様は愉快そうに笑う。

 いやいやいや! 身元不明の獣に何を言ってるんだこの人!?

 絶句している間に人払いした国王様は、あたしに人に戻るように勧めた。

 いや、あんた、あたしが人間だって知ってるんかい! ってか、皇子様ばらしたなっ!!

 国王様とあたしだけになった部屋で、あたしはきょろきょろと視線をめぐらせ、目に付いた厚手のカーテンの中に潜り込み、魔力を切る。

 カーテンを体に巻きつけて顔だけ出す。

「お初にお目にかかります。 アルト=ワークスと申します」

 国王様への謁見の仕方なんかわからないので、とりあえずしっかり頭を下げておく。

「……ウチの息子はなかなか面食いだったようだな」

 は? 皇子様が面食いなのが、なんで今話題になるのかしら?

 首を傾げると、美中年…国王様から苦笑が返される。

「さて、アルト=ワークス、そなたに頼みがある。 先程も言ったように、これからもトレノに付いては貰えないだろうか」

 いや、だから国王様、初対面の人間にそれを頼むのはどうかと。

「あ、あたし、いや、わ、わたくしは、しがない流浪の身ですので、皇子様の傍に居られるような人間じゃないんです」

 そう率直に断る。

 しかし国王様も簡単には引き下がらない。

「そなたの変化の秀逸さは先程の黒狼姿を見てもわかる。多くの城の者に会っているのに、その誰もそなたが人である事に気づく者は居なかった」

 ん、んん?

 変化を褒めてくれるってことはあれか? 人としてのあたしじゃなくて、獣……言ってしまえば、ペット兼護衛的な位置を狙ってるのか国王様?

 考え込んだあたしに国王様が駄目押しする。

「なるべくトレノの傍に居て欲しいが、無論城外へ行くのも自由だ。給料も払うし、食事もこちらで用意しよう、他にも必要なものがあれば揃えよう」

 ……な、なんだこの破格の待遇!!

 目を丸くするあたしに、但しと国王様が続ける。

「身分証代わりにコレを身に着けてもらわねばならないが」

 そう言って出したのは先程のビロードの小箱、蓋を開けば中に大振りの真紅の石が付いたピアスが鎮座していた、そしてその宝石には王家の紋章が刻まれていた。


 ……お高そうですネ。


 で、これをあたしが付けるのか。

 首輪じゃなくてよかったと思えばいいか。

 仕方なく了承すれば、国王様が美貌を緩ませる。

「では、耳をこちらへ」

 え…? いや、まさか、国王様自らピアスをつけようとか、じゃないですよね!?

「あ、あの、あたし、自分でっ」

「いいから、ね、ほら」

「あ、や、やややっ」

 近づく国王様に、追い詰められる。


 無碍にはできないし! 不敬罪で投獄なんて真っ平ご免だしっ!



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