24話 合流
え?
スピアーノに抱えられて移動中なんだけど、何だろうコレ。
どんどん近づいてくる魔力の圧力に周囲を見回す。
あたしと同じようにラパンもこの魔力に気づいたようで……彼は右後方をしきりと気にしている。
……あたしはあんまり詳しく魔力を読めないから……ほら、魔法学校でも変化しかまともにできない落ちこぼれだったし、変化していると魔力を感じることができなくなるから、不慣れなこともあって魔力を察するのが苦手。
「スピアーノ! 何か来るぞ!!」
ラパンが叫んだ途端、あたしたちの行く手に頭上から氷の矢が降り注ぐ。
ラパンとスピアーノは難なくそれを交わしたが、棍棒の男は残念なことにその攻撃で足をざっくり負傷した。
「くそっ、なんなんだ一体!?」
「…黒い獣は本当に鬼門だなぁ」
しみじみ呟くラパンに、なんだか申し訳なくなる。
この氷の矢って…十中八九、あの人だろう。
「その、女性を、返して、もらおう」
姿を現したのは案の定アクセルだった。
息を切らせ、体中に木の葉をつけてぼろぼろになってる。
なんていうか、魔法剣士の威厳半減って感じかしら。
そんな風に思ったのはあたしだけのようで、ラパンとスピアーノは油断無くアクセルと対峙する。
危険な程の緊張を張り巡らせる三人。
ふと、がさがさ音が聞こえそちらを見れば、足から血を流しながらもこっそりと逃げ出そうとする棍棒の男がいた。
「あ、ちょっと、ごめんなさい」
スピアーノの腕から素早く抜け出し、逃げようとしていることを気づかれたと知らずこそこそ地べたを這う棍棒の男の背中を足で踏みつけ、体勢を崩した男の腕を背中にひねり上げて地面に押さえつける。
「あんたには用があんのよ。アクセル、こいつ、犯人の一人よ、そこの二人はほぼ無関係だから」
「……わかった。”眠れ”」
意図をすぐに察したらしいアクセルは、あたしの下で暴れる男を強制的に眠らせた。
「で、どういうことなんだ? あんた達は一体……」
「…とある事件の容疑者を追っていた。 君たちにも事情を聞きたいから、王宮まで付いてきてもらいたい」
歯切れ悪くアクセルが言う。
ラパンの視線が何か言いたそうにあたしの方を見る。
「あー、あたしは単なるお手伝い。ただの民間人よ?」
納得いかなそうな表情だけど、本当のことだし。
アクセルが持っていた閃光弾を夜空に上げてるから、程なく王宮兵とかが来るんだろうか……あたし、ラパンの上着を着てるとはいえ裸なんですけど、この上着アクセルのより短いから前屈したらお尻が見えそう……。
まだ全然魔力が戻ってないから、獣に戻ることもできないし。
「アルト、怪我は……」
二発閃光弾を上げたアクセルは、あたしを見て絶句した。
「どうしたの? 怪我なら、ラパン……さんに治してもらったから大丈夫よ?」
「お前、血だらけだぞ。そんなに酷い怪我をしたのか!?」
血だらけ? ああ、傷は治しても、出た血は戻らないから……って、あぁ、奴らをヤったときについた返り血か。
「近くに川でも無いかしら、洗い流したい……」
顔がかぺかぺする。
「アルト! 答えろ」
アクセルが怖い顔を更に怖く……彼女とかできるのかしら、この強面で。
長身のアクセルの首に手をかけ耳を下げさせて、そこに唇を近づける。
「ほとんど返り血よ? あと、あたしが狼だったのバレてないから、言わないでよ」
スピアーノ達に聞こえないようにアクセルの耳に囁けば、その体がびくりと固まった。
引き寄せていた手を緩めて離れても、アクセルは身をかがめたまま動かない。
「どうしたの? アクセル?」
「!!っ あ、いや、そうか、それならいいんだ」
びくりと肩を震わせて身を起こしたアクセルは、慌ててる風だけど……今のどこに慌てる要素が?
まぁ、いいや、何か問題があれば言うだろうし。
それにしても、顔(主に口周り)が血でかぺかぺ、手で擦ったらぽろぽろ剥がれたけど、やっぱり早く水浴びしたいなぁ。
「あ」
良く見ればラパンが貸してくれた上着にも血がついちゃった……。
「どうした」
「ん、なんでもない。 あ、ラパンさん!」
スピアーノと話をしていたラパンに駆け寄る……裸足が痛いけど、我慢我慢。
「どうかしたか?」
難しそうな顔を直ぐに切り替えて笑みを浮かべてあたしを見下ろすラパンに、上目遣いに申し訳なさそうな顔をしてみる。
「あの、借りたこの上着、(血で)汚しちゃってごめんなさい、後で洗って返しますから、もう少し借りててもいい?」
駄目押しで小首を傾げてみる。
「あ、ああ、いいぞ!」
さすがラパン、女性に優しいのは学生時代とかわらないな! 目論見どおりだ!
顔にべったり血を付けた女でもイケるのは、どうかと思うけどね。
「アルト! ちょっと来い!」
ラパンと笑顔を振りまいていると、俺様何様なアクセルに呼びつけられた。
靴はいてないから、歩くの嫌なのに!
ひょいひょいと歩くあたしに気づいたのか、ざくざくと大股で近づいたアクセルがガバっとあたしを抱え上げる。
「ラパン、だったか。これが迷惑を掛けた、上着は新しいのを用意する」
「は? あ、いや、新しいのなんていい、ですよ」
「洗って返すから大丈夫よ?」
あたしとラパンが言っても、アクセルは聞かず結局ラパンが折れて、後日新しい上着をアクセルが買ってくれることになった。
……まったく! これだから金持ちって!!