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16話 屋敷探索

 さり気なく捕獲しようとする執事さんをすり抜けつつ、屋敷内をチェックする。


 執事さんも忙しいらしく「悪戯はしちゃ駄目だよ」と言った後は、追って来ることはなくて、一階に有る書斎のような部屋に入っていた。


 その書斎のドアを半開きにしているのは、あれだ、あたしウエルカムだからだな…猫好きめ。


 ……というか、どの部屋のドアも細く開けてある。

 これって、見て回って良いよってことなのかな。


 ありがたく屋敷内を散歩させていただく。


 一階ホールの右手に食堂とその奥にキッチンがあり、左手には応接室と執事さんの居る書斎。

 一階ホールの階段を上がって二階の左側にアクセルの部屋でその隣にアクセルの寝室からも直通で行ける奥さん用の部屋と、廊下の突き当たりには小さめの図書室。

 後階段の右手側ゲストルームが3部屋。

 結構広い造りだけど、働いているのは執事さんとメイドさんのみ……。

 だから、二人とも急がしそう。

 メイドさんはくるくると良く動いて各部屋の掃除をしたり、洗濯をしたりしている。

 執事さんは部屋にて、書類と格闘している。

 手紙をより分けたり、書類を整理したり手紙を書いたり、図書室から本を持ってきて見比べたり…。

 執事さんって……忙しい職業なんだね。

 暫く気配を消して、執事さんの部屋の入り口から様子をみていたが、邪魔になりそうだったのでそっとドアから離れた。


 結局アクセルの部屋に戻って、部屋の出窓に飛び乗り庭を見下ろす。

 色んな部屋を見て回ったけど、結局どの窓もしっかりと鍵が掛かっていた。


 脱走防止なんだろうなぁ。

 出て行ったら、少しは悲しまれるのかな(執事さんは確定だけど)


 出窓から見上げた空は快晴だった。


『…ここは、あたしの居るべき場所じゃない』

 かといって縄張りに戻ったところで、直ぐにアクセルに捕まえられそうだし。

 この家は、心地良いけど。

『この家は、あたしの居場所じゃない』

 空を見上げて呟く。


「アルト……」

 いつの間に背後に居たのか執事さんがそっとあたしの背中を撫で、出窓の傍にしゃがんであたしと視線を合わせる。

「どうしたんだい? そんなに哀しそうに鳴いて。 もと居た場所が恋しい?」


 首筋を撫でにきた手に頬を擦り付ける。


 もと居た場所なわばりが恋しい?

 あたしは猫じゃない、いつまでも一つ所に居られない。

 恋しいわけが無い。

 茶色もチビもオミジも……別に、トモダチじゃない、たまたまあたしの縄張りに居るだけ。

 あいつらも、すぐにあたしの事なんか忘れる、新しいボスだってすぐに現れる。


 俯きそうになる顔を上げて、ふいっと出窓から飛び降り、執事さんを振り返らずに部屋を出る。


 誰の手も借りる必要は無い。

 あたしは、自分ひとりで生きていける。


 信じては駄目。

 その手に身をゆだねたら駄目。

 裏切られる。


 奥歯を噛み締め零れそうになる不本意な涙を堪え、廊下を階段へと歩いた。


「アルト!!」

 玄関のホールにドアを開け放して走りこんできたアクセルが、階段の上に居たあたしを目ざとく見つけて凄い勢いで階段を駆け上がってきた。


 ひぃっ!


 鬼気迫る勢いで突進してくる大男に、涙も引っ込んだ。

 アクセルは、恐怖で毛を逆立て動けなくなったあたしをひょいと抱き上げると、踵を返して階段を駆け下りる。

「旦那様!? どうなさったのですか!」

 今にも玄関から飛び出そうとしていたアクセルを執事さんが慌てて呼び止める。

「ちょっとアルトに用事だ! 今日は遅くなるから飯は用意しなくていいからな!」

「承知いたしました、が。アルトお嬢様はちゃんと連れて帰ってきてくださいね」

 呼び止められ、執事さんを振り返ったアクセルは、にやりと笑みを浮かべた。

「わかっている。 アルトは俺の嫁になる予定だ、どこにもやらん、ちゃんと一緒に帰ってくる」

「は?」

『はぁ?』

 ぽかんとするあたしと執事さんを低く笑い、アクセルは玄関を大股で抜けて、乗り捨ててあったらしい立派な馬にひらりと飛び乗った。

『うわ……っ』

 振り落とされないように慌ててしがみついたが、アクセルは直ぐに走らせることはせずに、上着を留めているボタンを上から3つばかり外すとその懐にあたしを突っ込んだ……。

『ちょ、ちょっと! こんな所に突っ込まないでよ!!』

「あんまり動かないでくれ、くすぐったい」

 そんなこと言われても! この体勢きついの!

 もぞもぞ動いて、何とか頭をアクセルのくつろげた襟首から出すことに成功。

『で、あたしに用って何? もしかして回復の泉の件で刑罰が決まったの?』

 嫁云々はきっとアクセルの御馬鹿な冗談だろうからスルーだ。

「……猫の時にも言葉を喋れればいいのだがな。 何を言っているのか、さっぱりわからんからこっちで勝手に話すぞ、いいか?」

『仕方が無いわね』



 あたしが頷くと、アクセルは馬を操作し駆け出した。


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