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15話 起床

「―――…ト、……アルト」



 低い囁く声が耳元をくすぐる。

 父さんの優しい声に安心して、傍にあった温もりに擦り寄る。


 深い深いため息が頭上から聞こえ、ハッと意識が覚醒し、飛び起き…ようとして果たせず、ベッドに押さえつけられた。

 主に、叫ぼうと開いた口を。

「……寝ぼけるな、現状を把握しろ」

 押さえつけるアクセルの底冷えする視線に、コクコクと頷く。

 ここはアクセルの家、あたしは魔力切れのため昨夜は人間に戻り、アクセルのベッドで就寝。アクセル的にあたしは趣味じゃないようなので、同じベッドで寝 ても問題なし。

 そしてここで叫ぶと、もれなく執事のセオロス氏がすっ飛んでくる(予想というか確信)。


 叫びませんとも!


 現状を認識したことを指でOKマークを作って意思表示。

 口を覆っていた手を外され、ほっと息を吐く。

「もうそろそろセオロスが起こしに来る、変化できるか?」

 小声で言われて、頷く。


我が内に宿る魔力よジ・イーリマ・ステャ我が体を組み替えよジ・シェ・ロウ猫へマロゥ!」

 極力小さな声で唱え、猫になる。


 黒猫になったあたしを、アクセルは寝転んだ裸の上半身に抱き上げた(因みに下にはちゃんとパンツ着用だ)。

「温かいな……」

 ゆったりとした動作であたしの背中を撫で、もう一方の手でゆったりとあたしの頭を自分の方に引き寄せ眠る姿勢をとらせる。

「…もう少し寝ようアルト」

『二度寝大好き』

 同意して、くたりと体をアクセルに預け目を瞑った。


「……旦那様? ワタクシお願いしましたよね? アルトお嬢様にはこちらのベッドでお休みいただくように」

 

 目覚めは、低く怒りを押し殺したような執事さんの声だった。

 怖っ!!

 そんなにこっちのベッドに猫毛が付くのがイヤだったのか! それは申し訳ないことをした!!

 あたしは慌ててベッドを飛び降り、怒り心頭らしい執事さんの足元に擦り寄…ろうとして、ストップした。

 いかん、毛を執事さんの服につけたら、更に怒りが増し……。

 逡巡していたら、ひょいっと抱き上げられた。

「おはようございます、アルトお嬢様」

 あれ? ご機嫌? ご機嫌なのですか、執事さん?

 喉を撫でられ、目を細める。

「さ、朝食の用意ができてますよ、参りましょうね。 旦那様、朝食の用意が整っておりますので、さっさと服を着て、顔を洗ってからおいでになってください」


「……いつにも増して冷たいな、セオロス」


 眠そうに起き上がったアクセルが、あくびをかみ殺しながらベッドを出る。

「では旦那様、仕度が整いましたら食堂へお越しください」

 執事さんはあたしを抱っこしたまま礼をして、寝室を出た。


 そのまま抱っこで運ぼうとする執事さんの腕を乗り越えて、降りよう…とするが、果たせない。

「もう少し、抱っこさせて? ね、アルト」

 耳元で甘く囁かれて、固まった。

 な、な、なー!? 執事さんっ!?

「ふふっ。 可愛い」

『ご、ご乱心!?』

 笑顔全開の執事さんに、思わず小さな悲鳴を上げてしまうあたし。

「おや? おはようの挨拶なのかな? 可愛らしい。 それにしても、ね? もう旦那様のベッドで一緒に寝たら駄目だよ。もし一人寝が寂しいならおれの部屋においで、おれもアルトと一緒に眠りたい」

 そう言ってあたしの耳の根元にキスを落とす。

 な、なに? あたしが人間だってばれてるわけじゃないよね!?

 黒猫であるあたしに言ってるんだよね!?

 このひと、どんだけ猫好きなんだ!!

 必死で聞かないフリをして、猫らしい行動を心がける……食堂までの道のりがやけに遠く感じた朝のひと時でした。


 朝食は、昨日の夕飯と同じようにアクセルの隣に席をしつらえてあった。

 味はやっぱり薄味だったが、昨晩と同じようにアクセルが執事さんの目を盗んで何口かご飯を分けてくれたので、最後まで食べきれた。

 そういえば、1口につきチュー1回はどうなったんだろう?

 忘れたのかな? それとも、人間に戻ったあたしがあまりにタイプじゃないから、どうでも良くなったとか、その辺りかな。

 まぁ何にせよ、しなくていいならそれに越したことはないし、わざわざ蒸し返すのも馬鹿だからこの件は放置しておこう。



 部屋に戻ったアクセルは、クローゼットから魔法剣士独特の裾の長い制服のジャケットを出して袖を通す。

「今日から仕事なんだ。 アルトは屋敷に居てくれ。夜には帰る、帰ったら今後の事を話し合おう。世話はミレイ夫人に頼んである。セオロスとはなるべく二人っきりにならないようにしろ」

 ミレイ夫人というと、あのメイドさんか。

 執事さんと二人っきりになるなっていうのは…なぜ? まぁ、あの激甘執事さんを相手にするのは結構疲れるから、あたしとしても二人っきりにはなりたくないところではあるんだけど。


 仕事へ出たアクセルを、執事さんとメイドさんと共に、一抹の不安を胸に抱きながら見送った。


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