14話 ベッド
「……ん…っ」
夜半になって冷えてきたんだろうか、なんだか肌寒さを感じたの で寝返りを打って、背中にあったシーツ越しのぬくもりに擦り寄る。
「ん……ん?」
擦り寄ったぬくもりに抱き寄せられ、ふわっと意識が浮上した。
「……どうした? まだ夜明けには早い」
眠そうな声があたしの頭上に降る。
……えぇと、あたし、人間に戻ってる?
がばりと起き上がると、あたしを包んでいたシーツがはらりと落ちて、暗闇の中素肌が晒される。
「う、わ……んぐっ!」
叫びかけたあたしの口を、アクセルの分厚い手のひらが覆いそれを阻む。
「声を上げてもいいが、セオロスが来るぞ?」
その台詞に、一瞬であたしは口を噤む。
執事さんに黒猫が人間だってバレてなるものですかー!
「良い子だ」
アクセルは眠そうにしながらも、あたしにシーツを掛けてくれる。
「寝巻きは用意できなかったから、せめてシーツでも巻いておけ」
「っ!! ところで、なんであたし人間に戻ってるのよ」
シーツをしっかりと体に巻きつけながら、アクセルを睨みつける。
アクセルは眠そうな顔であたしに手を伸ばすと、シーツごとごろんとあたしをベッドの上に引っ張り倒し、そのままゆるく腕に抱きこんだ。
「お前、俺の傷を治すのに無茶をして随分魔力を消費しただろう? 魔力切れを起こしたんだ。夜中突然人間に戻ったんだぞ」
あたしを腕に抱きこんだまま何をするわけでもなく、眠そうに説明をするアクセルに、身の危険を心配する必要は低そうだが、……ごそごそと動いてアクセルの腕の中から脱出しベッドの端に寄る。
そんなあたしを、咎めるでも名残惜しげにするわけでもなく片肘をついてあごをのせて見遣る。
猫の目じゃないから夜目が利かないが……分厚い胸板が惜しげもなく晒されていて、動揺を表に出さないようにしながらこっそりと視線を彷徨わせる。
「一晩人間の姿に戻っていればどのぐらい変身していられる? 日中くらいは持つのか?」
夜に紛れるような声で囁かれ少し考える。
「そうね……多分1日くらい大丈夫じゃないかな」
あたしも吐息のように小さな声で、そう答えると少し考えるような間が空いた。
「じゃぁ、今日はもう寝ろ。 明日の朝、猫に変化すればバレないだろう」
アクセルはそう言うと、話はこれでおしまいとばかりに体をベッドに預けた。
……最悪の場合、襲われるかと思ったんだけど……。
拍子抜けして、既に寝息を立てているアクセルを見る、そして自分の胸元を見下ろす。
シーツを押し上げる二つの丸みは、結構大きく育ってるんだけど……まぁ趣味じゃないのかな? なんにせよ、良いことだ。
危害を加えられないことがわかれば、久しぶりのベッドを堪能するしかあるまい!!
人間の姿で眠るなんて何時ぶりだろう……考えたら泣きそうになった。
滲んできた涙を布団の端に吸い取ってもらい目を閉じ、そのまま朝まで久しぶりにぐっすりと眠ることができた。