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13話 食事事情

 突然キスしてきたアクセルの顔に、3本線を描いてやった。

 もう治してやんない。


「な、何故…」

『聞きたいのはこっちだ! 1度ならず2度も乙女の唇を奪うとは何事!? 魔法剣士がそんなに偉いんかー!!』

 ぎゃーぎゃーとアクセルに怒鳴っていると、ひょいっと体が持ち上げられた。


「アルトお嬢様に何をなさったんですか、旦那様」

 やっぱり、執事さんか。

 あたしは一旦怒鳴るのをやめて、執事さんの腕の中でおとなしくなる。

 そんなあたしにアクセルは舌打ちして立ち上がり、あたしを執事さんから取り戻そうとする。

「なんでもない。 それを渡せ」

 しかしそれを却下する執事さん。

「まずは、ご自分のお顔の治癒をなさってください。それと、お食事の用意ができております。アルトお嬢様のお食事はどちらにお持ちしましょう?」

 食事!?

 待ち望んだ単語に、尻尾がぴんと元気になる。

「……俺と同じでいい」

「食堂でございますね、畏まりました。 さ、参りましょうか、アルトお嬢様」

『はーい!』


 機嫌よく返事をして顔を執事さんの首筋におでこをすりすりする。

「ふふっ、本当にアルトお嬢様は御可愛らしい」

「アルト! 誰にでも懐くな!!」

 上機嫌の執事さんと、不機嫌を極めるアクセル。

 ご飯をくれる人と、不埒なことをする人。

 まぁ、どっちに付くかは言わずもがなだよね?

 部屋を出る執事さんの肩越し、執事さんにばれないようにしながら睨んでくるアクセルに”猫”らしくない”ニヤリ”笑いを披露してやると思った通り顔を引きつらせてくれた。


 ひゃひゃひゃ! さっきのチューのお返しじゃ!!

 さぁ、お夕飯は何かなぁっ、久しぶりの真っ当な食べ物だわ!


 食堂にはやや広めの食卓がデンと有り、その周りに椅子が10脚あった。

 一番奥の上座にアクセルが座り、あたしの食事はその隣に設えてあった。


 ……猫が同席して良いものなの?


 てっきり、床で食べるものだとばかり思っていたら、テーブルって……。

 まぁいいか! お食事が頂けるなら!

 クッションを乗せて高さを上げた椅子の上に下ろされ、目の前に用意された黒猫あたし用のご飯を食い入るように見つめる。

 人間だった時にも食べたことが無いような、綺麗に配膳されたお食事。

 彩りも豊かで、食べる前から嬉しくなっちゃう!

『食べても良い?』


 隣に座る、自分の魔法で顔の傷をすっかり癒したアクセルを見上げて聞くと、頷いて食事を促してくれたので、遠慮なく。


 パクリ……


 一口食べて固まったあたしを見て、あたしの前のご飯をつまみ食いしたアクセルから哀れそうな視線を貰った。

『……いいのよ、執事さんの優しさなんだから、全部食べるわよ』

 猫用の深めのお皿に入れられた美味しそうなご飯……なんだけど、基本、味が無い。

 執事さん曰く、猫に人間と同じ塩分のものを与えると体に悪い。

 …えぇ、そうらしいですね。

 でも、あたしこう見えても人間なので、この食事は……見た目がとても美味しそうなだけに、余計につらいのであります。

 しかしながら、折角用意してもらった食事なので、悲しみを堪えながら食べます。


 調味料って偉大なんだなぁ…、塩分の無い食事ってこんなに味気が無いんだ…。


 それでも、野良でありついていたご飯よりは全然豪華だし、お腹一杯食べれるだけありがたい。


 ……この視線が無ければな。


 深皿に口をつけて無言でご飯を食べているあたしを見ながら、アクセルは食事をしている。

 うぬぅ、その肉美味そうですね! ソースが程よく掛かっていて、食欲をそそる臭いが胃袋直撃です。


 恨めしげな視線を送っていると、サーブしてくれていた執事さんが厨房の方へ行った隙に、アクセルが肉を一切れ小さく切ってフォークに刺した。

「…食べたいか?」

 肉汁たっぷりのお肉を目の前にちらつかされて、首を横に振るようなあたしではない。

 目をキラキラさせて『ちょーだい』とアクセルを見上げれば、アクセルが交換条件を提示してきた


『……チューさせろ?』


 至極真面目な顔で言う条件がそれ?

 ジト目でアクセルを見るが、真面目な顔を崩さない……ってことは、折れる気は無いってことかしら?

 肉とアクセルを交互に見ながら、思案する。

 まぁチューといったって、黒猫姿ならばさっきされたみたいに口先にちょんと触れる程度のものだろうし、既にファーストキス・セカンドキスを奪われてしまったわけだし、人間らしい食事は凄く惹かれるし……まぁ、いいかな?

 コクリと頷いたあたしに、アクセルはホッとしたように硬くしていた表情を和らげ、フォークの先のお肉をあたしの口元に差し出した。

『あーん』

 大きく口を開けて、お肉を迎え入れる。

 

『おぉいしーぃ』

 思わず悶えて椅子から落ちそうになったあたしをアクセルが支えてくれた。


 もぐもぐもぐもぐ……


 しっかり味わうように咀嚼。

 肉汁が口いっぱいに広がり、濃い目のソースが塩分に飢えていた口中を満たす。

 あぁ、もうなくなっちゃった!

 ぺろりと、口の周りに付いたソースを舐めとる。

「これも食べるか?」

 そう言って差し出されたフォークに、思わず大きく口を開け、ぱくり。

 もぐもぐしているところに執事さんが戻ってきてしまったので、それ以上は分けてもらえなかったが。

 二口食べれただけでよしとしよう!

 はぁぁ、本当に美味しかったぁ。


 ちゃんと自分のお皿のご飯も平らげ、ご機嫌で食後の身繕いをする。

 堂に入ったあたしの行動に、アクセルはやや呆れた視線をよこし、執事さんは口元に微笑みを浮かべて見守っている。

 ひとしきり身繕いを終えると椅子から飛び降り、アクセルの食事が終わるのを寝そべって待つ。

 早食いかと思ったら案外しっかり時間を掛けて食べるんだねー。

 満腹になってうとうとしていると、そっと持ち上げられた。

「待たせたな」

 執事さんかと思ったらアクセルか。


 やたらと安定感の有る太い腕の中に抱き込まれて運ばれたんだけど、この振動がまた眠気を誘うのよね……。


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