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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の才能潰し
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鬼怒川世冨慶。


彼女は壬生高校生徒会長鬼怒川夜見世の3年年上の実姉に当たる。話によればその容姿は夜見世と瓜二つで、短く切った髪さえ除外すれば、姉妹は双子とさえ間違えられるほどという。


また、この妹にあの姉ありと、常に破天荒な行動をしてきたらしい。


幼少の頃からその活発的な行動力は留まることをしなかった。それは夜見世が『大人しくて良い子だね』と褒められる程だったという。


例えば、学校の夏休みを利用し、日本海を横断してユーラシア大陸に行こうとした時は、3つの県警を翻弄した挙句、海上保安隊に保護された。両親も計画を聞いた時は冗談と捉え子供の妄想と決め込んでいたが、この奇行により長女を見る目が変わった。


しかし、鬼怒川世冨慶はその両親の警戒をいとも簡単にすり抜けた。夜見世曰く姉は逃亡・潜伏といった人の目を逃れることに関しては天才的であった。身長は170近くありながら、世冨慶が本気で気配を消せば隣に立っていても気付かない。まるで黒子のような存在になりえるそうだ。


だがそんな能力はおまけ程度でしかない。


どんな無茶をしても求知という欲望に忠実に生き、何度命を落としかけたか、夜見世は数えきれないという。


無尽蔵の好奇心は高等学校に入学しても衰えることを知らなかった。


この時には世冨慶は世間体や常識を理解し、自分の行動に責任を持っていた。


誰にも迷惑を掛けず好きなことをするようになった。



鬼怒川夜見世とは対極的。



なるべく人に関わらず、記憶に残らず、影響を与えず、足跡を残さない。そして夜見世と同じく好きなことを好きなだけやっていた。


そして卒業してすぐに旅に出た。


そこからは行方知れずのまま今日に至る。







鬼怒川先輩が話した内容はこんなところだった。


現在僕たちがいるのは駅のコインロッカールームだ。


そこで妹の服を預け(3つに分けなければならなかった)、麻香の次の指示を待つ。



「君さ」



先輩はロッカールームを出、話し掛けてきた。



「何でしょう? 先輩」


「姉さんってモブキャラなんだろう・・・? こんな詳しい解説必要なのかい?」


「何、設定とか言ってんの、この人?!」



まあ確かに書き始めたら止まらなくなったのは否定しないけど!


自虐的過ぎるだろ、この小説!



「それにしても」



鬼怒川先輩は今の絡みが無かったかのように話題を変えた。清々しいほどの投擲っぷりだ。



「ここ数年間、姉さんは何をやってたんだろうな。私は『魔法の国に行く』としか聞いてないんだよ」


「案外東京ディズニーランドで働いていたのかもしれないですよ」



僕は麻香の言葉を黙っていた。


打ち明けて、下手に先輩を不安にさせても困ると思ったからである。



「どっちにしても会った時に訊くよ。私達は仲が悪い姉妹じゃ無かったから、私の所に来るんじゃないかと思う」


「それは羨ましいですね」


「何が?」



先輩はキョトンとした。



「何がって・・・・・・。姉妹で仲睦まじいのが羨ましい、と」



答えても目を丸くして僕を見ていたが、鬼怒川先輩はお腹を抱えて笑い始めた。


何故笑われているか分からないのは不快である。


ツボに入っていつまでも顔を上げない先輩を無視して僕は歩を速めた。



「・・・・・・いやあ、すまない」



僕を追い駆けてきた先輩は、まだ笑いの虫が抜けていないらしく途切れ途切れに述べる。



「さっきの話だが、・・・私達姉妹が仲が悪くないって言っても、・・・・・・君達兄妹に比べてしまえば・・・仲が良いとも・・・・・・言えなくなってしまうだろう」


「僕と麻香は仲が良いってことですか」



馬鹿らしい。


何を言うかと思えば的外れである。



「有り得ない、か?」


「ええ。有り得ないです。大体僕は最悪の中だと思ってます」


「冗談は止せ。腹が捩れる」



あのなあ、と先輩は呆れる。



「どうして意地を張ってるのか知らないが、君たちの信頼関係はその辺の兄妹姉妹では及びもつかないぞ? 何を認めたくないのか、意味不明だ」


「意地なんて―――」



僕は別に張ってない、と言い掛けた瞬間、事態は急転した。


電車が止まっているこの駅において、ホームは家に帰れない沢山の人でごった返していた。



もし。



もし、こんなところが爆弾テロの標的となってしまえばさらに深刻な事態となるということに気が付かない僕は何て愚かだったのだろう。


僕は少し油断をしていた。


このテロの目的は人探しだと麻香は話していた。


だから、一回目の爆破は威嚇で二回目は対象を狙って攻撃を仕掛けてくると、勝手に予想していた。


少しは考えろよ、と僕は自分を責めたてる。


伏線の回収が早過ぎるなんて言わないで欲しい。


気付くことが出来なかった。


気付くのが遅かった。


かくれんぼで逃げているのは鬼怒川世冨慶ただ一人。



鬼怒川夜見世と瓜二つの姉、鬼怒川世冨慶ただ一人。



目視できたのは3人だった。


全員が元々その場にいたと思わせるほど自然に出現した。文字通り人混みの中から湧いて出た。


黒服、サングラス。


超が付くほどベタな格好をしていて見分けがつかない。


そして三人とも、鬼怒川先輩を狙っていた。








「これはどういう状況なんだい?」



僕に腕を掴まれ走りながら、鬼怒川先輩は首を傾げた。


駅を出てオフィス街を全力疾走。


黒服の男たちは3人から5人に増えた。



「これは、えっと、あれですよ! 僕がパズーで先輩がシータと思って頂ければ結構です!」


「成程。ではそろそろ第三勢力が私を狙ってこの鬼ごっこに参加してくるわけだな。楽しみだ」


「既に狙われてるんですよ!」



是非とも不参加でいてほしい!


これ以上人が多くなってたまるか!


つか何で僕が逃げる展開になってるんだよ!



「しかし君、その説明から察するに後ろの鬼役は迎撃しても良いという事なんだな?」


「へ? そりゃ、まあ」


「では行こう」



鬼怒川先輩は言うが早いか急停止して、追い駆けてくる黒服の男達に相対した。


こちらが止まれば直ぐに黒服に追い着かれるのは必然。僕らの周りは黒服によって囲まれた。



「---鬼怒川世冨慶とユリアス・フォーチェンだな?」



黒服の一人が口を開いた。


ユリウス?


誰だそれは。


一応読者に断言しておくが、僕はそんな銀髪が似合いそうな横文字の名前ではない。それは妹の名前がまた、証明してくれる。


僕を誰かと間違えている。


鬼怒川世冨慶は一人で逃げているのではないのか・・・・・・?


黒服はそれ以上何も言わず、懐から拳銃を取り出した。



「?!」



待て待て待て待て!


いつの間に拳銃が登場するような小説になってしまったんだ?!


鬼怒川先輩もその凶器には驚いたようである。


口を開けて手を震わせ、目をキラキラ輝かせて。



・・・・・・ん?



キラキラと輝かせて?



「おおおおおおおお!」



鬼怒川先輩は咆哮を上げた。


突然の大声に僕だけでなく黒服たちも少々驚いたようで、緊張しながら身構えた。しかし、それは徒労に終わる。



「トカレフTT-33ではないか! 現物を見るのは初めてだが、うーん、渋い!」



へ?


何て?



「君、知ってるかい? このトカレフっていうのは設計者の名前に因んだものなんだよ!」


「知りません・・・・・・」



信じられないが、この人マニア・・・?


この興奮振りは冗談ではないようである。


黒服の男も呆気にとられていた。



「いやあそれにしても初トカレフだよ。―――せいっ!」



拳銃を取り出した黒服が真後ろに吹っ飛んだ。


飛ばしたのは嬉々としていた鬼怒川先輩である。


いつの間にか黒服に近づいていたらしい。



「この程度で隙をとれるとは思わなかったよ。ムスカの部下の実力も底が浅い」



そういって先輩は全身の力を抜く。



「な・・・・・・!?」



もしかしたらさっきまでのテンションは演技・・・・・・?



と、思ったら黒服の落としたハンドガンを名残惜しそうに凝視していた。


本当に好きなのかよ!



「鋭い発勁(はっけい)だね、夜見世ちゃん」



その声で気が付く。


黒服の他の四人が倒れることに。



「いえ、これでも姉さんの寸勁(すんけい)には及びません」



この声で知る。


いつの間にか僕の後ろに立つ、この女性が鬼怒川世冨慶であることに。


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