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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の才能潰し
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茅ヶ崎と最後に話したのは十二月中旬のことだった。


その日、僕は恒例の学校行事である三者懇談の為、早々と帰路に立っていた。


部活をしていればこの絶好の練習期間を無視し、帰宅することは許されまい。タイミングよく、生徒会活動も何もすることがなかった。


よって午前中の授業をこなすだけで、午後の時間を自由にすることが出来た。


それが功を奏し、同じく三者懇談期間中の私立撫子大学付属中学校の生徒と下校時間が被った。


勘のいい読者諸賢ならもう分かるだろう。


僕は妹のおかげで見慣れてしまった制服を目ざとく見つけ、知り合いの女子中学生を発見した。


走った。


突撃した。



「痴漢!」



と、茅ヶ崎は物凄い勢いで走ってくる僕を投げた。


受け流した、というべきか。


その運動エネルギーはアスファルトの道路に叩き落されるという形で、僕に終着した。



「・・・・・・と、このように痴漢を撃退できるなんて凄いじゃないか」


「・・・・・・誰ですか、あなた」


「何言ってるんだよ、僕だよ? お兄さんだよ?」


「私には幼気な少女に全速力で突っ込んでくるお兄さんなんていません。消えてください」


「見下してる所も可愛いな」


「消え失せてください!」



空前絶後の引き方だった。


ドン引きである。



「それにしても偶然だな。こんなところで会えるなんて」


「私には痴漢野郎(おにいさん)が待ち伏せをしていたようにしか思えません」



冤罪だ!


呼称も余計なものがついてるし。


こっちは冤罪ではないけど。



「僕は茅ヶ崎が好き過ぎてたまらないけど、ストーカー行為なんてしないよ。別の犯罪は犯したかもしれないけど、実害はない。まあそんなことはお互い水に流そうじゃないか」


「お兄さんが水に流れてくれれば私も水に流しましょう」


「本当か。じゃあ結婚しよう」


「軽い! プロポーズが軽いです!」



それにタイミングが間違っています!と茅ヶ崎は頭を抱えた。


学校が終わったことと茅ヶ崎に会ったことで、変なテンションになっている僕である。



「・・・・・・まあ、いいでしょう。お兄さんのしたことは麻香に報告ということで手を打ちましょう。それでお兄さん、何の話をしましょうか?」


「調子に乗ってすみませんでした!」



体育会系顔負けの謝罪をした。


通行人の視線が痛いが、麻香に知られることだけは回避しなくてはならない。


命に係わる。



「ん? 茅ヶ崎、少し顔色が優れないな。大丈夫か?」


「ええ、先日友人に頼まれて、麻香と一緒にカードゲームの大会に出場してきたんです」


「カードゲームの大会って・・・。そんなものに出場して依頼主とお前らに何の得があるんだ?」



麻香が出場するわけだから、優勝は友人の功績にはなり得ないし、そもそも麻香はそんなもの興味がないだろうからな。



「友人は優勝賞品が欲しいみたいです。プレミアが付いてるというか、レア物らしいので」


「成程」



それなら逆に妹の方は利く必要はない。


麻香へのメリットは、十中八九暇潰しか。



「ま、最初はそんなところです」


「・・・・・・ふーん。それで、何のカードの大会に出たんだ?」


「・・・さあ?」


「・・・・・・」



あれ。


こいつってこんなに記憶力が弱かったっけ?


天然キャラだっけ?



「違いますよ。いろんな種類のカード大会に出たので一々覚えてないんです。そもそもエントリーしたのは全部麻香でしたし」


「一度だけじゃないのか?!」



友人も貪欲だな・・・・・・。



「実はですね。当初は頼まれた大会だけしか出ない予定でしたが、優勝賞品が高く売れることに目を着けてですね」


「うん、もういい。概ね分かったから」



金かよ、結局。



「ですが、ほぼ暇潰しでしたよ」


「暇潰しの為に大会優勝。ついでに賞品を換金・・・。スケールが大き過ぎだろ・・・・・・」



女子中学生が金の為にカードゲームの大会巡り。


そんなえげつない目的では、一緒に出場していた子供たちに申し訳ない。



「それがですね。小学生とか子供はほとんど居ませんでしたよ?」


「え?」


「大学生とか高校生とか・・・、大人の方もエントリーしています。小中学生の方が珍しいです」


「そうなのか・・・・・・? 当然子供だけがやるゲームじゃないわけなんだし、大人がやる分には問題ないとは思うけど。最終的には子供が主役じゃないのか?」


「私にそんなこと言われましても困ります。ではどうでしょう、お兄さんは子供の頃カードゲームに興じていたことはありませんでしたか?」


「まあ、あったな」



僕の学校では主に遊戯王とマスターズが流行っていた。


特に二極化するわけではなく、同じ人が二種類カードを使い分ける。そういう僕もどちらのデッキを持っていた。

いつから辞めたんだろう・・・・・・。


はっきりした理由はなく、何となく友人間から消えていった気がする。



「ではさらにお聞きしましょう。お兄さんはそのカードゲームの大会に出場していましたか?」


「・・・・・・言われてみれば行ったことないな」



確かに、茅ヶ崎の言う通りであった。


友人との間で遊ぶばかりで、面識のない人と勝負する大会には参加した記憶はない。


そもそも、大会が開かれていること自体知らなかった。



「つまりはそういうことですよ。子供はただの遊び道具としか思っていません。経済力もないし、移動手段もない。退会ではカードゲームは、言わば大人の趣味と化しています」


「小学生がそれに参加するのは無理か・・・・・・」



考えてみれば当たり前のことだった。


僕の子供の頃と同じように、今の子供もカードは丁度いい遊び道具なのだろう。


そこまで考えて、僕は妹のことを一層情けなく思ってしまう。


何をやってるんだ、あいつは。



「思い出しました!」



突然茅ヶ崎が声を上げた。



「・・・・・・何を?」


「出場したカードゲームの種類です」


「別に興味があるわけでもないんだがな・・・・・・。言ってみてくれ」


「遊戯王、デュエルマスターズ、プレシャスメモリーズ、ヴァイスシュバルツ、ヴァンガード―――」


「やりこんできたなあ!」



カードゲームって結構種類あるんだな。


後半は名前しか知らないよ。



「ん?待てよ。それだけの種類のカードゲーム、自分もそれぞれのデッキが必要ってことだよな。全部買ったのか?」



種類によって異なるが、カードゲームというものは対戦するのに四、五十枚は必要になる。


一般に販売されているのはカードがランダムに数枚封入されているパック。それを複数購入しないと対戦は出来ない。


さらに枚数を集めるだけでなく、多種多様なカードたちを取捨選択する必要があり、デッキの枚数以上のカードを買わなければならないのだ。



「デッキの枚数丁度しか買いませんでしたよ?」


「え、・・・・・・あ」



そうか。


麻香ならランダムに封入されていたとしても中身が分かるんだった。


中身を調べてパックを購入する、所謂サーチ行為は基本的にご法度だが、妹に掛かれば元々サーチが済んでいるので、不要なパックを選ぶ理由はない。


相変わらず存在自体がチートみたいなやつだ。


この事実を男子小学生に伝えれば、羨望の眼差しで見られること請け合いだろう。



「三回目の大会辺りから、態々数を買うのも面倒とか言って、初心者用の、・・・・・・えっとスターターデッキ、でしたっけ?それを買ってました」


「初心者用のデッキで優勝するのか?!」



カードゲームって、そりゃあ頭が良いのはメリットだろうが、それよりもカードの良さや運に勝敗が左右されるものじゃないのか?



「まあ、最終的には運も掌握するのが麻香ですからね」


「運を操るのか・・・? いよいよ僕の妹は神様に近付いて来てるぞ」



最早神様と断言できるレベルである。



「力技ですよ、力技」


「力技? ・・・イカサマか?!」


「決勝戦なんて不正のオンパレードでした。それを知らない人  まあ私と麻香以外の観客全員ですが、その人たちにとってみれば何重にも奇跡が起こったように見えたでしょう」


「誰も気付かないのか?」


「気付きようがないですよ。相手はあの麻香ですよ? 私だって前もって教えてもらわなければ、確実に見逃していました」



茅ヶ崎は肩を竦める。


「対戦相手も気の毒でした。あれだけ完成度の高いデッキを組んでおいて―――麻香は決勝戦以外の相手にはデッキ構築のアドバイスを皮肉交じりにしていましたが、決勝の相手に対しては褒めていました」


「ほう、珍しい。あいつが人を褒めるなんて」


「たぶん自分の良心のせいじゃないんですか?勝ったとはいえ、イカサマなんですし」


「そんな女か・・・・・・?」



麻香なら寧ろ『イカサマもテクニックの内』とか戯言で誤魔化すだろ。



「で、何て言ったんだ?」


「『運が悪ければ負けていた』」


「それは褒めてないし、反省もしていないぞ!」



良心なんて欠片も持ちえない妹であった。


対戦相手に申し訳ない・・・。



「それにしてもカードゲームは凄いですね。大会が開かれるだけでも驚き桃の木ですが、あの参加者の数・・・・・・。女子中学生の参加者は私達だけでしたので少し人間酔いしてしまいました。強いて言えば男性酔い・・・・・・」



茅ヶ崎は顔を青ざめ、心底疲れていたように話す。


きっと大会の苦労を思い出したのだろう。



「参加する分には問題ないでしょうが、私は見学するだけでしたから・・・・・・。セコンドという制度を設けても良かったと思います」


「そういえば、よぉ」



茅ヶ崎の話が一段落した所で、僕は授業中に暇になって考えたことを相談してみた。


考えてみれば物語の途中で、カードゲームなんて突拍子のない話を長々とやるのは異常だろう。



「麻香に勝てる方法ってあるのかな?」


「カードゲームで、ですか?」


「違う違う。カードの話はもう引っ張らなくていい。純粋に、何かしらの勝負であいつに敗北を与えるには、ってことだよ」


「無理でしょうね」



茅ヶ崎は間髪入れずに断言する。



「あらゆる技術・計算・運において麻香に勝つ事は出来ないでしょう」


「運でも勝てないのか・・・・・・」


「麻香は圧倒的な豪運を持っています。しかし、そもそも負ける勝負は挑まないという保険があるのが前提です。運云々以前の話です。勝敗を既に知っているのですから、偶発的な勝利を目指すのは不可能です」


「・・・・・・」



茅ヶ崎の言うことは(もっと)もである。


しかし、予知能力を引き合いに出されては話題が終了してしまう。



「今回は予知能力を度外視して考えてくれ」



茅ヶ崎は唸った。



「うぅん・・・。それでもかなり難しいでしょう。麻香は人であって人を超越した存在、神に愛されている存在です。彼女にとって死角はありません」


「しかし、だ」



麻香に弱点はないという定義。


その定義自体が弱点に成り得るのではないか?



「例えば麻香と1対1の勝負で、ルール内容をこちらが一方的に決めるとしたら、勝てない事もないんじゃないか?」


「それはいくらなんでもフェアじゃないですよ。将棋で、一手目で王手しないと麻香の負けなんていうルールを提示したら、いくらんでも彼女が勝つ事は不可能です。しかしこれで麻香を負かしても、後に残るのは虚無感だけですよ」


「あー。そういうことじゃないよ。ルール上に好都合な条件を上書きして勝利するのは、逆に敗北に違いない。あくまでフェアに、正々堂々、真正面から、確実に勝てるルールを押し付ける」


「・・・矛盾したことを仰いますね。普段からお兄さんの話は意味不明ですが、今回は特に理解できないです」



真意を計り兼ねます、と茅ヶ崎はいう。



「普段からって・・・」



地味に傷つくことを言うじゃねえか・・・。


今日辺り睡眠に支障をきたしそうだ。



「―――つまりだ。麻香が僕に勝負を挑んできて、まず有り得ないだろうが、勝負の内容条件ルール諸々を僕に一任してきたとしよう」


「まず有り得ない仮定条件ですね」



茅ヶ崎の言う通りである。


いくら負けることがないからと言っても、僕なんかにルールを決めさせることなんて絶対しない。


自ら墓穴は掘らない妹である。



「まあ、例えばの話だよ。・・・・・・『例えば』って奇跡的な言葉だよな。あらゆる無理難題も『例えば』を付ければ在り来たりなものになってしまう」



あの妹だって。


『例えば』が付けば、普通の女の子に早変わりだ。


・・・・・・なんて。



「それより、お兄さん。お兄さんの仕掛ける勝負の内容に麻香が干渉しないとして一体どうやって勝つのか、教えてください」


「お、興味を持ってくれたか」



茅ヶ崎が喰い付いてきたことが予想以上に嬉しく、折角だから勿体ぶってみようと悪戯心が湧いてきた。


僕って幼稚だよなあ、と切に思う。



「麻香は全知全能なんだぜ?」


「知ってますよ。周知の事実です」


「そう、少なくても僕たちは麻香が知らないものが無いことを知っている」


「・・・・・・」


「言っておくがこれは麻香以外の並の天才には通用しないからな」


「並の天才・・・・・・」


「全盛期のお前や、無敗伝説時代の鬼怒川夜見世に対しては、むしろ僕が根負けする」


「普通の人同士なら終わらないゲームですか?」


「ああ、終了しない。エンドレスのデスゲームだ」



茅ヶ崎は考える。


先程の質問から察するに茅ヶ崎はほぼ答えに到達しているだろう。


やはりこいつ、頭良いなあ・・・。



「何となく分かりました。そのルールなら私でも麻香に勝てます」


「本当に分かったのか?!」



マジですげぇな!



「多少強引ですが、全知全能である麻香の特性をうまく利用しています。現実的じゃないところが評価できません」



そして、茅ヶ崎は苦笑した。



「現実的じゃない・・・ですね。麻香がこの勝負を受けることはないでしょう。『例え』プレミアが付いたカードを商品に貰えるとしても」


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