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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の才能潰し
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サンタクロースの有無を今更のように語りだすなんてことは、自分に自信がない僕にとって出来るはずがないことである。一巻の冒頭から才能を遺憾無く発揮させた例の学園ものに真っ向から挑戦するような勇気は、微塵も持ち合わせていない。第一にこの小説には宇宙人も未来人も超能力者も登場しない。


超能力者染みている奴なら居ないこともないのだけれど。


そもそも刊行されている読本と素人の自己満足小説を同じ土俵で比べること自体筋違いなのだ。月とすっぽん。雲泥の差とはこのことを言う。これを読んでくださっている読者諸賢の中にこれからことわざ大辞典を執筆しようとする方がいれば、優劣を比較する言葉の例として僕の例を使って頂いて構わない。自ら犠牲となって道化に成り下がろう。


まあ僕がこれからサンタクロースの話をしたところで誰も気に留めることはないだろうが、それでも自分から羞恥を晒すようなことは憚れよう。態々自分で涼宮シリーズを引き合いに出してしまったこともある。浅はかだった。これだから妹にまで『一寸先は闇とは言うけれど、妹として兄貴の将来は1ミクロン先も心配でならないよ』とまで言われてしまうのだ。






「黙っていても詰まんないでしょ。何か話してよ」



家を出て数分して前を歩く麻香からリクエストがあった。


金髪ツインテールに似合いそうなセリフである。



「無茶言うな。お前が無理やり連れだしたんだろうが。お前から振ってこいよ」



返してやるから。



「・・・・・・。よく街でドライクリーニングという文字を見掛けるけど、これは水の代わりに有機溶剤を使うクリーニング法のことで、本当の意味での「乾いたクリーニング」じゃないでしょ? これに対して、取り出した時にはすでに乾いている正真正銘のドライクリーニングである超臨界二酸化炭素を使ったクリーニング技術があるけど、これが復旧するにはどうすればいいと思う?」


「いつからここは理科系企業の面接室になったんだよ」



ここで私の考えは、とか言わなきゃいけないんだろうけど、それ以前に考え方が分からない。


思考の迷路にさえも辿り着かない時点で不採用は確定している。


それから、麻香が黙ってしまったのでお互い無言のまま歩いた。


駅で電車に乗って、やっと腰を下ろした時、沈黙に耐え切れず『麻香はあと二ヶ月で高校受験だけど何か対策でもしたんですかー?』という無意味で他愛もない話題を提示しようとした所で、ついに麻香が口を開いた。



最初から僕は振る話を(ないがし)ろにして勝手に喋るつもりだったらしい。



人の苦労を無駄にしやがって。


本当に良い性格をしている。



「兄貴、あと二ヶ月で高校入試だけど何か対策でもした?」


「僕は浪人してねえよ!」



とんだ勘違いだよ!


お前が家庭教師をしてくれたんだろうが。



「あれ、追認試験だっけ?」


「単位も足りてるわ!」



誰がダブるか!


留年予備軍とは言わせねえよ。



「私としては同じ学年でも気にしないよ」


「それは是非とも気にしてくれ!」


「周りの嘲笑も堪え凌ぐよ」


「そんな我慢宣言聞きたくないわ!」



それに僕ってそこまで言われるほど成績悪くないし。


いざとなったら天才の妹か鬼才の後輩か秀才の会長に助けを請えば何とかなる。



「・・・・・・かなり他力本願だね。内二人は中学生ってことを忘れてるんじゃないの?」


「どっちも高校生の修学課程修了してるんだから良いんだよ」



我ながら勝手な言い草であった。



「栄には高校生修了程度までの学習的記憶しか残してないから有利なのは大学受験までだし、会長さんはただ単に要領が良いだけだし、特別なのは私だけなんじゃない? そう考えると兄貴の交友関係で天才は一人しかいないんだから、結局、兄貴の努力不足なんだよね、きっと」


「だから僕の内申は悪くないんだって」



あ、あれ?


何で説教されそうになってるんだろう、僕は。



「死をもって償うべきだね」


「極論じゃないか!?」



端折り過ぎでは!?


急展開過ぎるぞ!?



「つかお前、事あるごとに僕を殺そ―――っと!」



僕の言葉は最後まで続かなかった。



電車が急停車したからだ。


慣性を受け、僕は電車の進行方向に倒れそうになった。


急にどうしたのだろう。


当然ここは駅ではない。



「ねえ、兄貴」


「んあ?」



未だに収拾の付かない僕に麻香はこんなことを言う。



「もしここで電車の車両が半分に両断されたら、そこからはもう異能バトル小説が始まっちゃうのかな?」



麻香の言葉はうまく要領を得なかったが、取りあえず断言できることはあった。



「・・・んなことあるかよ」








程無くして車内にアナウンスが流れた。


何でも線路上に障害物が発見されたらしい。



「障害物か・・・・・・。線路の上に何か置いてあったんのかな」


「まあ小石とか小さな物とかなら発見もされ難いし、電車には障害物を排除するためのスカートってやつが搭載されてるからね。よっぽど目立つような物が置かれていたんじゃないかな」


「ふうん。じゃあ車掌が発見したってことになるのか? 線路の点検なんて深夜とかにやるんだろう?」


「別に昼間も行われるよ。真夏とかだったりすると、熱で線路が膨張したりするから放置してると危険なんだよ」


「今は真冬だけどな」



何が落ちていたのか知らないが、大事に至ら無くて幸いだ。


麻香があんなことを言うから下手に緊張してしまった。


ああ。


心臓に悪い。



「あるわけないじゃん。電車が真っ二つだなんて」



麻香は車窓から外を眺め、何かを確認しながら言った。



「お前が言ったんだろうが」


「家庭の話でしょ」


「漢字を間違えてるから、(えら)く深刻な問題に聞こえてしまう・・・・・・」



活字だから拾えるギャグである。


仮定な。家庭ではなく。



「大体車両を分断するのってかなり大きなエネルギーが必要なんだけど」


「それを可能にするから異能なんだろ」



それがまかり通るから小説なんだろうが。


そもそも茅ヶ崎が同じセリフを言ったとしても、僕はこれほど戦々恐々としなかったことだろう。


お前の一言はどんな突拍子もないことでも真偽を疑ってかかる必要があるから、僕は電車の再出発を心待ちにしていたのである。



「そういうのを杞憂っていうんだよ」


「だからお前の場合は天地が崩れることもあり得るんだよ!」



この妹がいる限り、取り越し苦労が絶えない。


そういう呪縛なのである。



「天地が崩れるような突拍子もないことねえ・・・。んー、例えば兄貴が毎日欠かさずログインしている携帯ゲームのアイテムを削除するとか?」


「は? 携帯ゲーム? 昨日買った奴か?」


「違う違う。携帯ゲームじゃなくてケータイのゲーム。ほら、毎日してるでしょ? 兄貴は、えーっと、モバゲーじゃなくてグリー派だっけ?」


「・・・・・・!?」



僕はすぐさま自分のケータイを開いた。


余談だが、僕の携帯は未だにアンドロイドではなく開閉式である。



「・・・・・・ふう。驚かせるなよ。やっと無課金でここまで育てたんだから」



僕がアクセスしたゲームアプリには、昨日と同じアイテムが並んでいた。麻香からの被害なし。


僕はそっと安堵のため息を吐く。


削除なんてとんでもない。


無課金、つまりお金を使うことなくやってきた僕としては、ここで麻香の妨害を喰らうことは相当ショックなことになりうる。


多分泣くぜ? 号泣するぜ?



「そんな面倒なことしないよ。・・・・・・それにしても無料ゲームを謳うネットゲームは課金のやらせ方がえげつないよね。私も一応やってるけど、ゲーム内で仲間になってる人の中で月に何十万も使う人が居るくらいだよ」


「・・・・・・いや待て。月何十万の話より、お前がグリーのゲームアプリをやってたことの方が驚きだ」



寧ろ驚愕である。


本人はさらっと言い流したが、僕にとっては『は?』と思考が止まったほどである。



「運営の金策に操られなくとも、無課金でランキングの1位になる事だって出来るのにね」


「え?! ここ最近バトルランキングの一位に居座ってるこの人は麻香だったのか?!」



嘘だろ?!


こういうことに力入れられる人ってどんな人だろうか、と思っていたが妹だったのか?!



「つか、ハンドルネームが『出来の悪い兄の妹』とはどういう意味だよ?!」



ゲームでも僕を馬鹿にするとは徹底している。


逆に感心してしまう。



「でも、もう飽きてきたからこのゲーム辞めちゃうよ?」


「え?」


「いやあ、つい先月に始めたんだけどランキング1位になってからマンネリ化しちゃって。このゲームだけじゃなくてグリー自体を退会するつもりだから。・・・・・・ん、どうしたの?」


「・・・・・・昨年始めた僕がビギナーのお前にとっくに抜かれているという事実に心を折られた」



どんなチート行為を使ったんだよ・・・。



「うふふ。楽しみなんだよね。実は退会直前にハンドルネームを『あばよ、雑魚共』にして、運営に削除されるまでランキングに残り続けようと思ってるの。結局最後まで私に勝てなかった人の悔しい顔が目に浮かぶよ・・・・・・」


「お前のそういう演出には普通に感心させてもらうわ・・・・・・」



僕の妹はエンターテイナーだった。


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