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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の才能潰し
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クリスマス。


キリストの誕生を祝うキリスト教の祭日。


日本人にとって恋人とイチャイチャできるただのイベントでしかないが、態々「イヴ」なんていう日も追加し二日間のイベントにすることはないだろう。


実際は神の子が人となって生まれたことを祈るのが本質らしい。


本質も何も、仏教どころか無信仰の人間も数多(あまた)いるこの日本においては、結局のところ仰々しい名を冠したただの祭日である。祝日ですらない。


しかし誰もが日にちを忘れることがない。


一週間もすれば大晦日である。


十二月二十五日。


つまり今日だ。







僕はいつもの休日のように午前十時に静かに目を覚ました。


身体が重いのは病気ではなく、単なる夜更かしの結果だった。前夜はついゲームに夢中になってしまい、寝るタイミングを逃してしまったのである。高校に入学してから友人と遊ぶ時間も減り、勉強もこれ以上遅れをとらないように毎日こなしていたため、新しいゲームを始めるのは久し振りであった。前日に買ったのだが、ちょうど学校も冬期休暇に突入し、時間も有り余っていたので寝ない気でやっていた。



結局は寝たけど。


かなり遅くまでやっていた。


遅くというか今朝まで。


イヴに何やってんだろう、僕は。



冬期休暇に入ったのは良いが、何もすることがなくぶらぶらと街を徘徊していたら、ちょうど『クリスマス直前大特価』という看板文字を店頭で見つけ、少し気になっていた新作をかなり安く手に入れたのである。


こういうクリスマスの楽しみ方もありじゃないか、と切に思う。



「今年も一人で過ごすか・・・」



世間で騒がれているように  主に騒いでいるのは非リア充だが  僕はそこまでクリスマスを嫌悪しているわけではない。


寧ろ好きだ。


ゲームも安く手に入ったわけだし。


『クリスマス中止』とか『リア充爆発しろ』とかネット上では騒いでいて、僕も周囲もそれに便乗するけど、果たして僕は便乗するだけである。


本心ではクリスマスぐらい堂々と恋人とイチャイチャしても良いんじゃないか、と思ったり思わなかったりと、心底どうでもいいように考えていた。


顔も知らないような奴がどこで誰と聖夜を過ごそうと僕には一切関係のないことなのだから。


クリスマスのおかげで、本来寒々とした師走の夜はイルミネーションに彩られ、いつもと変わった街の風景を見せてくれる。この恩恵に(あやか)らずして冬は乗り切れまい。


別に彼女のいない自分を充実していないと思ったこともないので、クリスマスに非リア充がどんなに騒ごうと僕は第三者、傍観者という立場で冷やかに、嘲笑しながら眺めていられる。


きっと僕だけではない。


寧ろ本気で不公平と思う人間の方が少ない。



「根拠はないけどな」



僕は呟いて思考の沼に陥りそうな自分を引きずり出す。


何だかんだ言っておいて、きっとクリスマスというイベントに落ち着かないのは自分なのだろう。


寝起きでこんなに考えている自分に気が付き、僕はため息をつきながら結論した。


僕が布団を畳もうと起き上がる、すると同時に目の前のドアが開いた。



「おはよう、兄貴」


「・・・・・・ノックをしろ。ノック」



そう言うと麻香は開いたドアを軽く叩く。


開けてからじゃ遅えんだよ。


麻香に対する僕の注意ほど無意味なものはなかった。


ただ、毎回テンプレートのように繰り返してきた踝への衝撃は回避した。回避したというよりも、回避させてくれたようなクリスマスプレゼント的な贈り物の気がするが、それは今回無視して自分の功績を称えよう。


成長したなあ、僕。



「同情というか憐みだよ。兄貴が朝から恥ずかしいことを考えていたから、今朝は踝は良いかな、って思ったの。ところで今日はクリスマスだけど、兄貴だったら暇だよね」


「お前は朝から喧嘩しに来たのか、そうなんだな?」



最後の『だよね』は確認を取るというよりも断言したいう意味の方が適切だった。


プライバシーと偏見の問題が大いにある発言である。


いや、間違っちゃいないけど。



「そう軽口を一々真に受けてもらっても困るよ」



兄貴は朝から元気だねえ、と麻香は言う。



「まあ、でも暇なんでしょ?」



その言葉を嘘を吐いてまで否定するのはいささか見栄を張り過ぎである。僕はしぶしぶ首肯した。



「予定はないのは確かだ」



と、ここで嫌な予感を感じとって「いや、さっき予定が入ったんだった」と付け加えた。


理由はない。


勘である。



「あーはいはい。どうせ昨日と同じで今日も一日中ゲームでしょ。暇なら付き合ってよ」


「頼み事というより命令調だな」


「どっちでもないよ。これは必然。兄貴なんか私の身体の部位みたいなもんなんだから、どうしようとその部位から文句を言われる筋はないよ」


「大いにあるわ!」



蹂躙する気すらないのか。


ジャイアンよりも酷い。



「それじゃあ今から十分後出発ね」


「おい、僕は今起きたばかりだぞ」



しかも同行する方向で話が進んでるし。



「真の兄貴ならそれぐらいで準備出来るよ」


「まるで仮の僕がいるが存在するみたいだな」


「はーい。残り九分三十秒ー」


「ったく」



人使いが荒いっていうかなんて言うか。


僕は仕方なく身支度を大急ぎで整え、用意してあった朝食を横目に見つつ(因みに昨日の晩御飯の残りのカレーだった)、玄関を出る。


ここで妹の時間制限をスルーするような勇気は持ち合わせてない。1秒でも、と思う時間さえ勿体無いとすら思ってしまうのである。


・・・・・・。


涙が出そうだ。



「ところで麻香、何を買いに行くんだ?」


「服とか衣類とかお召し物」


「後半は蛇足だな」



何故余計なものを付けた。


蛇に足どころか羽まで描き足しやがって。


それに最後のは特に尊敬語だから変な感じになってるし。




「いや、ふくっていうだけだと兄貴が勘違いするかなって」


「何に勘違いするっていうんだ?」


「『福翁自伝』の略と」


「そっちを知らない!」



路上でアンケートをしても八割が知らないと首を振る単語だろ。


自伝っていうことは本?



「そうだよ。とある村に生まれた福翁の、愛と夢と希望に溢れる冒険ファンタジー自伝」


「詰め込み過ぎだろ!」



しかも自伝なのにファンタジー!?


やばい。


読みたくなってきたぜ、福翁自伝!



「本当は福沢諭吉の自伝なんだけどね」


「お前はお札に顔が載るほどの人の自伝を、ライトノベルみたいなテーマと扮したのか!?」



福翁の福は福沢諭吉か。


良く考えれば気付きそうだな。


例えば茅ヶ崎とかが。


僕は先日会ったばかりの茅ヶ崎の顔を思い出す。



「兄貴は必要な買い物はある?」


「何だ、付き合ってくれるのか?」


「いや、別に」


「じゃあ聞くなよ・・・・・・」



実際、僕って欲しい物とかネットショップで注文しちゃうから、態々店に言って買い物をする必要がないんだよね。


某『南アメリカ世界最大熱帯雨林(アマゾン)』で大抵欲しいものは揃うし、電車賃を考えればこっちの方が安上がりだ。



「便利な世の中だよねえ」


「まったくだな」



春先の縁側で温かいお茶をすすりながら日向ぼっこをする老夫婦のようなことを言って、僕たちは駅に向かう。


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