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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の手間潰し
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206

壬生高校学園祭「柊祭」当日となった。


何と言うか、時間経過がとんでもなく早い。


前作も十分速かったが、学園祭準備期間なのにも係わらず、プールに行ったり、他の生徒会役員の人との絡みが全く無かったりと、手抜き感マックスでどうしたものかと困っている僕が居る。


いつの日か、余裕が出来たら章閑話もとい章間のおまけのみたいな感じで、『準備期間での出来事』を紹介するかもしれない。


余裕が出来る確率は極めて低いが。


そもそも大した事はやっていないというのが正直なところだ。


鬼怒川先輩の登下校中は常に付き添い、休日も外出するときは毎度電話で呼び出される。


別に会長の事が嫌いなわけでもないので、苦も無く約一ヶ月その任務を全うする事が出来た。


驚いた事にこの生徒会長は土日も学校へ登校し、生徒会室で遊んでいる。


本人は仕事をしていると言っているが、PSPプレイステーションポータブルを握りながら事務的な机仕事をするのは至難の業だろう。


今月は特に学園祭の準備があるので僕が休日に登校するのは不自然ではない。


鬼怒川先輩は普段も休日に登校しているのか。


それだけが僕の心に残った。


壬生高校では―――他の多くの高校がそうであるように―――学園祭は二日掛けて行う。


一日目は学校内、つまり仲間内だけで祭りを楽しむ。


市内にある文化ホールで、各クラスが一ヶ月間練習してきた合唱・劇などを発表し合い、吹奏楽部の演奏を静聴した。


今回は一日目のシーンはカット。


というか永遠にカット。


静かに聴いちゃったわけだから、会話で成立するこの小説の概念は腐敗するばかりだ。


話す機会がないわけもないが、さすがに少な過ぎる。


とにかく一日目はプログラムの進行に関わるようなアクシデントも無く―――鬼怒川先輩も大人しくしていて―――終える事ができた。


そして今日、二日目である。


二日目は一般の人が参加できるように土曜日に催され、地域の方々や他校の生徒を招き、喫茶店などの出し物を教室・屋台で開く。


どちらかと言えば学園祭のメインは自由に騒げるこの二日目の方であり、盛り上がりも最高となる。


そんなことであるから、生徒会の仕事が増えてしまう。


校則の違反者(特に過激な行動をする者)の増加に風紀委員だけでは対処できなくなるからだ。


うちの高校は普段厳しいだけに、毎年羽目を外す生徒も居るらしい。


―――ほっとけばいいのに。


生徒代表として、そうも言っていられないのが現状なのである。


そして一番大事なことは。


その生徒代表の頂点(トップ)が何を仕出かすか、である。









午前九時三十分。


全校生徒が体育館に集められた。


学校長の簡単な挨拶と生徒会長からの諸注意を済ませ、遂に一般公開という名の無法地帯が解禁された。


生徒達は各々の持ち場に向かう。


教室で出し物をする者、体育館でライブを披露する者、正面玄関前で屋台を出す者、などなど・・・。


その全員が今日一日を目一杯楽しもうと意気込んでいた。


かくいう僕も、巡回と言う使命を担いつつ、高校生が作り上げた祭典を楽しむ気満々でいた。


しかし、ここで声が掛かる。


当然鬼怒川先輩である。



「君、巡回の担当は何時頃かな?」


「午前中です」


「ふむ十時から正午と言う事だな。仕方ない、私一人でやるとするか」


「何をですか?」



一体何を企んでいるんだ・・・・・・?



「こっちの話だ。では巡回頑張ってくれ。いつか電話する」



そう言って鬼怒川先輩はさっさと何処かへ行ってしまった。



「何も起きなければいいけどな」



そう思わずには居られない。


見えなくなるまで鬼怒川先輩の背中を眺めていたが、それも生徒の波に消えたところで僕は行動を開始した。


僕はまず屋台を見に、校門に向かった。


結果、この単純な選択は大正解であった。



「お兄さん」



一度出店を眺めながら校門の外まで出て、校舎の方へ歩き出そうとしたとき、そう呼び止められた。


僕をこう呼ぶ人間は一人しか居ない。


妹ではない事が不思議であるが。



「よお。来てくれて・・・・・・!?」



言いながら振り返ったが、その光景を見て言葉を失った。



「今日は、私の、姿が、見える、みたいですね!」



跳んでいた。


ピョンピョンと。


いや、もうオノマトペが見えるほど健気に。



「ちょ、マジで結婚しない?」


「顔が真剣過ぎて怖いですよ。声も大きいです」



息を切らして僕の真面目なプロポーズにドン引きする少女は、紛れも無く茅ヶ崎栄であった。



「壬生高校の後夜祭にカップルで参加すると結ばれるという伝説があるのだが」


「行きませんよ。目論見(もくろみ)がバレバレじゃないですか。小学生でももっと上手く誘いますよ」


「最近は婚活中のアラフォー世代に大人気らしいぞ、うちの後夜祭。教師陣も一般人が百人単位で来ないか危惧しているほどだ」


「恐ろしい結婚願望ですね・・・・・・」


「そうならないためにも僕と今すぐ結婚届に判を押そうじゃないか」


「あ、会長さんだ」


「!? あの人は今、生徒会主催の『全校変顔コンテスト柊祭編』の司会のリハーサルをしているはずでは・・・・・・!?」


「ブーッ。嘘でした。その興味深い大会についていろいろと言及したいところですが、今日はちょっとした仕事があるので、お兄さんのくだらない冗談に付き合っている暇は無いんです」


「死後と?」


「仕事です。つまらない一言を挟まないで下さい」



・・・・・・そういえば麻香が居ない。


大体こういうイベントには二人揃って来ると思うんだが、どういうことだろうか。



「麻香は麻香で既に自分の仕事を遂行しているようです。私の頼まれ事とはまるで別件らしいですが」


「何? 麻香まで何か企んでいるのか?」



今日は嵐が吹き荒れるのか・・・・・・?


会長と妹。


面倒なカードが揃ってしまった。


当然どちらもジョーカーである。


今日はそれなりに曇ってるし、シチュエーションとしては最悪だ。


まさに悪夢。



「午後には雨が降りそうですね」


「この前梅雨入りしたばかりだからな・・・・・・。閉祭式までは持てば良いけど・・・・・・」


「後夜祭は良いんですか?」


「えっ? そんなものないよ?」


「へ? ついさっき後夜祭の話を・・・・・・」


「そんなものあるはずが無いだろう? 私立高校ならまだしも公立高校、しかも進学校の学園祭なんてそんなものさ。夜間に学校に居させるなんて、まず教師が許可しないだろうな」



最近いろいろと物騒だし。


夜は犯罪の発生率が昼間のそれより数倍上がるからな。


生徒も祭りと言う事で普段とは違うテンションになるだろうし。



「・・・・・・お兄さんってある意味ジョーカー二人よりも面倒ですよね」


「今頃気付いたのか?」



自負するほどである。


あの二人とは別種の面倒臭さだが。



「はあ。もうその話はいいです。折角ですからこの学園祭を案内してくださいよ。お兄さんはどうせ暇でしょう? 来年にはこの学校を受験するでしょうからそれなりに校風も見ておきたいんです」


「あれ、撫子は小中高一貫校じゃなかったか?」



撫子とは麻香や茅ヶ崎が通う私立撫子大付属中学校の事である。



「そうですよ」


「そうですよって・・・・・・。態々(わざわざ)ランク下げて壬生(うち)を受験する意味なんてあるのか?」


「・・・・・・・・・・・・それは、お兄さんがこの学校に居るからじゃないですか」


「新婚旅行は何処に行く?」


「冗談ですよ、気持ち悪い」


「かまわん。何処に行こうか?」



流石に長年僕の愛を無碍(むげ)にした茅ヶ崎で、僕の発言を華麗にスルーした。



「他の学校に行ってたら私の出番が無いじゃないですか」



あ、出番とか気にしちゃうんだ。



「麻香はお兄さんと一緒に住んでいるわけですから自然に出番が回ってきますが、私なんて、言ってしまえば知り合いですからね。この学園祭が終わった後のお兄さんとの絡みなんてどうします? 街で偶然会うぐらいしかありませんよ?」


「ならば同棲でもするか?」


「嫌ですよ。(かたく)なに拒否します」


「そんな嫌がるなよ。意外とガラスハートなんだぜ、僕」


「知りませんよ。割れたガラスは危ないのでしっかり片付けてくださいね」


「今日なんか冷たくない!?」



立て続けの毒舌にびっくりである。


出番無くてイライラしてるのかな?



「分かったよ。そんな茅ヶ崎のために今回に続いて次章も茅ヶ崎回にしてもらおうじゃねーか」


「そんなことできるんですか!?」


「では次章、『茅ヶ崎、柊祭散策偏』」


「予告だけというオチはありませんよね?」


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