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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の手間潰し
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204

その日僕が目を覚ましたのは丁度9時を過ぎた頃だった。



中学生の頃以来か。


本当に久し振りに、僕の生意気な妹・麻香に起こされたのである。


漫画でよくある『お兄ちゃん、起きて』みたいな、朝から気持ち悪いこと言ってんじゃねーよと言わんばかりの台詞ではなく、兄に言ってもいいのかというような―――正しくは、兄妹だから言える―――ピー音が確実に差し込まれるような汚い言葉で起こされた。


例によって、(くるぶし)の激痛と共に。



「痛ええええええええ!」


「うるさいなあ」


「うるさいなあ、じゃねーよ! ほら部屋に入ってよく御覧なさい! このドアの部分にガムテープが何十にも貼ってあるでしょう? これが何なのか分かってんのか!?」


「知るか」


「一言!? 『おはよう』よりも少ない字数で僕の負の遺産を片付けんな!」


「それより私が三章でやっと登場っておかしくない? この小説の題名が霞んで見えるんですけど」


「それこそ知るか! 僕が高校に入学しちゃったんだから必然的にお前の出番が減るのは自然の摂理だろうが」



僕が語り手なんだからこればっかりは仕方が無いことである。


・・・・・・とは言ったものの、一章二章と鬼怒川先輩が独占したのは僕も驚いたが。



「来年は私が入学すればいいけど、それまで長いなあ。兄貴も私に10分おきに電話するぐらいの思いやりは持ってほしいんだけど」


「どこのシスコンだよ」


何で学校に行っている間、何度も妹に電話しなきゃならないんだよ。


それに何を話すの?



「『Hするとき、どの体位が好き?』とか」


「死んでも言わねえ」



それを知って俺はどうすればいいんだ?



「因みに後背位だよ」


「うるせえよ」


「あ、でも対面座位が一番かも」


「うるせえよ!」



処女だろ、お前!


いつから難しい体位をこなすようになったんだよ。



「・・・・・・・・・」


「何で黙ってるんですか!?」



怖いんだけど。


妹に先越されたと思うと涙が出るんだけど!



「まあ・・・・・・(さかえ)と、ね・・・・・・」


「はあ!?」



嘘だろ!?


唯一の親友を毒牙に掛けちゃったのか!?



「嘘よ」


「だろうな!」



一瞬引き込まれたが、よくよく考えれば有り得ない。


どっちも百合っけは無いもんな。



「栄も私も許容範囲だけど」


「許容しなくていいんだよ、そんなもん!」



全否定するわけじゃないが、僕に言わせれば同性愛は『無い』。


これについては語ることは何も無い。



「兄貴と話すと絶対こういう話になるよね」


「無意識で会話の内容を誘導してんのか!?」



元凶は全てお前だろ。


脇道に逸れたがるのは僕ではない。



「それよか兄貴、今月学祭でしょ? 兄貴のクラスでは何の出し物をするの?」


「いや、それがさー」


「決まってないんだよね。知ってる」


「じゃあ聞くなや」



全知全能の妹は肩書き通り知らない事は無いのである。


どこかの先輩同様面倒な妹だ。


物語的には仕方のない話題提示だが。



「喫茶とかにするの? それともお化け屋敷?」


「方向性も決まってないんだよ。話し合いは何回もしたんだけどな。いまいち収束しなくて」


「メイド喫茶本番あり、とかどう?」


「却下だな」



本番って何?


花の女子高生に何やらせるつもりだよ。


風俗法に引っかかるぞ。



「それじゃあ本番ありの執事喫茶?」


「却下だな」



性別変えただけだろ。


男子諸君は大喜びだろうが、客足が遠のく事は目に見えている。



「お化け屋敷本番あり」


「きゃ・・・お化け屋敷の本番って何!?」



お化けお持ち帰りすんのか!?


あの暗闇でやるのか!?


『砂かけ婆』とか『ろくろ首』が、『潮吹き娘』とか『性感帯が首』とかになっちゃうのかな!?


・・・・・・・・・。


犯罪じゃねーか。



「大分脳内で盛り上がってるようだけど、傍から見ればとんだ妄想野郎だよ。読者も首を傾げてることは必至だよ」


「確かに『性感帯が首』は無理矢理すぎたな。『雪女―心も身体も融かしてください―』の方が―――」


「話を戻そうか。恐怖の館とかどう?」


「・・・・・・・・・お化け屋敷だろ?」


「違う違う。高校なんかじゃ大したクオリティになんないんだからお化け屋敷は無理だよ。これは本当の恐怖を味わってもらうの」


「他クラスのお化け屋敷全否定だな」



生徒会に属しているので知っているが、今年は全校で3クラスぐらいがお化け屋敷を出店する。



「兄貴の学校はどんだけお化け屋敷がやりたいわけ・・・・・・?」


「俺が知るか。それで、お前の言う恐怖の館って言うのは、お化けなんて非科学的なものよりも現実の怖さを見させるってことか?」


「そうだけど、兄貴の言ってることは少し違う。寧ろ非科学的だから怖いんだよ」


「うん?」


「人間は科学で証明できない事に恐怖を感じる。この世界の法則は一定で絶対だから、それに当て(はま)らないものには恐怖を感じるの。普通じゃあ有り得ないことがあればそれに恐怖するわけ。暗い所が怖いって言うのは視覚という人の感覚器官が機能しなくなるから。そして暗闇にいるとき必要以上に驚くのは、視覚に頼っていた感覚神経を聴覚や触覚に加担させるから」


「ふうん。それで? お前はどんな恐怖の館を構想してるんだ?」


「その名も『ビニールプールにヨロイモグラゴキブリ二百匹☆』!」


「その品種にはピンとこないが、『ゴキブリ』という単語(ワード)が出てる時点で却下だろ!」



何それ!?


ヨロイモグラってゴキブリに付けちゃいけない言葉じゃね!?



「オーストラリアに生息する8cmぐらいのゴキブリだけど?」


「知らないの? これぐらい常識だけど? 的な言い方されても困るんだよ!」



オーストラリアの巨大ゴキブリの事なんて知るわけが無い。



「あ、外国産のゴキブリの入手ルートに悩んでいるなら安心していいよ。ペット用に輸入されてるから」


「そんな心配するか!」



逆に不安になったわ!


何なの、ペット用ゴキブリって・・・・・・。



「マダガスカルオオゴキブリの方がいいのかな? でもあれは威嚇する時に音を―――」


「止めろ止めろ止めろ! 想像しちゃったよ! プールでゴキブリが(ひしめ)く姿が見えるよ! とにかくこの案は却下だ!」



背中が(かゆ)い。


ゴキブリ怖え・・・・・・。



「それなら『天井でざわめくオブトサソリ百五十匹☆』は?」


「はい、アウトォ!」



ざわめかないでほしい。


サソリって言っちゃてるじゃん。



「サソリの中でも最強の毒を持っていて、別名デスストーカーっていうんだよ」


「死の恐怖の方かよ!?」



ゴキブリの方が易しいだとぉ!?


誰が見て楽しむんだよ、天井のデスストーカー。


出し物の主催者も命懸けだな。



「ん、じゃあムカデいく?」


「気軽っ!? カラオケ誘うのと同等か!?」



つかいつまで続くの、この害虫シリーズ。


いちいち☆を付けるのが(こと)(さら)不快だ。



「まあ冗談はこれぐらいにして」



そう言って麻香はふう、と息を吐いた。



「ぶっちゃけ喫茶店で良いんじゃね?」


「急に冷めたな・・・・・・」



まあ別に悪いわけではないけど。


麻香の助言を貰えるなら、僕にもクラスの奴らにも多少は有益な情報だろうし。



「メニューを工夫して、内装もちょっと周りと変えるだけで良い感じの店になると思うよ」


「おお。抽象的だが普通の意見だ」



麻香ならボケを重ねてくると思っていたが、今日は普段より大人しい。


何かあったのかな。


兄として少し心配である。



「具体的にどうすればいいんだ?」


「インパクト重視でタランチュラの唐揚げとか」


「確かにインパクトは絶大だけども!」



誰が注文すんだよ。


物好きな高校生なら注文するだろうが、女子高生は明らかに寄り付かない。


っていうか、害虫シリーズリスタートか!



「私が食べに行ってあげる」


「中学生のチャレンジャー!?」



待てよ。


これ、意外と物珍しさで受けるかもしれない。



「いや、却下でしょ」


「それなら提案すんなや!」



分かってやってるのだから本当に(たち)が悪い。


それはそうと。


僕はある疑問を解消しなくてはならない。



「そう言えばお前は何で僕を起こしに来たんだ?」


「端的に言うなら、暇だったから」


「くぁwせdrftgyふじこlp」



踝!


俺の踝!



「嘘だよ」


「面倒くせえ!」


「引きこもりの兄貴にしては珍しく、日曜日である今日に予定があるみたいだから起こしてあげようかなあ、と思って」


「・・・・・・・・・」



引きこもってねえよ。


そしてその優しさが怖い。



「勘違いしないで。今日は親が朝から居ないし、私も出掛けちゃうから、兄貴に家の戸締りをしっかりするように言っておきたかったの」


「・・・・・・そりゃどうも」



妹にそんな事を言われる自分が情けなくなってくる。



「それじゃ、私出るから」


「おう」


「今この家ってさ」


「ん?」


「Hし放題だね」


「誰と!? 誰が!? ちょっと待て! 麻香! おい、何とか言えって! おぃ・・・・・・・・・」


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