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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の手間潰し
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話のネタ自体が分かりにくいところがあると思いますので、例によって読み飛ばしてください。すみません。

「ところで君、いよいよ柊祭まで残り一ヶ月を残すだけになったな」


端折(はしょ)りましたね」



放課後の清掃を終え、生徒会室に入るとそう呼びかけられたので、当然のことながら突っ込んでしまった。


前章から約一ヶ月。


大して面白い話題が無いからと言って、気付いたら一ヶ月も経っていたなんてまるでフィクションの世界だ。


・・・・・・フィクションなのだけども。



「そんなことより聞きたいことがある。君は高校の学園祭と言えば何が思い当たる?」


「そうですね・・・・・・。やはり中学との決定的な違いとして食べ物などを販売できるので喫茶とかでしょうか」


「他は?」


「他ですか? えっと、規模からして中学とは違いますからね。準備期間の楽しみなんてのが、意外と魅力だったりしますよ。学校に泊まったりしたら面白そうです」


「他は?」


「まだですか? えっとー。あ、そういえば軽音楽部などのバンド演奏は中学の頃はありませんでした」


「それだ!」



やっと当たりを引いたらしい。


鬼怒川先輩もどこかの妹に似て、面倒な性格である。



「その通り。バンドだよ、バンド! メンバーがそれぞれ楽器を手に取り、暗幕によって薄暗くなった体育館で、スポットライトを当てられ、ステージを陣取って歌う。最高じゃないか。ところで君」


「僕はやりませんよ」


「どういうことだ?」



先輩が、僕が台詞を先読みしたのが気に触ったらしくこちらを睨んでくる。


はっきり言って怖い。



「いいですか先輩。学園物のストーリーでは大体の確率で主人公たちがバンド組んで演奏します。それが漫画ならそんな感じの画を描いて終わりますが、これは小説なんですよ? 歌う曲の歌詞を書き連ねるなんて恥ずかしいことは、この作者は絶対にしませんよ。それに一ヶ月練習したくらいでステージに立てるなんてことはまずありません。素人バンドが演奏しても白けるだけですよ」


「えー」


「えー、じゃないですよ。少しはボケを重ねるぐらいしてください。それに読者もこの展開は飽きていることでしょう。新キャラ投入する気配もないし、バンド結成は無理です」


「分かった」


「良かった。分かってくれましたか」



先輩の事だからこの場でしっかり止めておかないと、例えば練習無しで本番を迎えることもありうる。メンバーの誰も楽器を弾けず、カラオケ大会になる可能性だって無いとも言えない。



「レッチリのコピーバンドは諦める」


「分かってなかった!」



んなもん諦める以前に希望するなよ!


公衆の面前で裸になる気か、この生徒会長は!



「いいじゃないか! バンドやりたい!」


「遂に駄々をこね始めた!?」



小学生か。


今日も元気過ぎるほど元気である。



「そもそも先輩は楽器弾けるんですか?」


「リコーダーを少々」


「バンドが何か理解してない!?」



どこのマーチングバンドだよ。


僕はピアニカでも弾けばいいのか・・・・・・?



「何を言うか。そういう戯言は私のリコーダーテクを見てから言うがいい。確実に『利口だ』と言わせて見せる!」



鬼怒川先輩は絶望的な戯言(ざれごと)を吐いて、懐からリコーダーを取り出し(え?)、その場でオッヘンバックの『天国と地獄』を吹き始めた。



「・・・・・・上手すぎる」



絶妙なタンギングと華麗な指捌(さば)きはとてもリコーダーとは思えない優美な音を奏でている。


もはやフルートとかクラリネットの比ではない。


・・・・・・つか何なの!?


ちょくちょく出てくるこの無駄な才能は。



「どうだ、この音の調(しらべ)は!」


「はっきり言って素晴らしいですが、その縦笛でバンド演奏は出来ません」


「何!? ではこのエレキリコーダーでは・・・・・・」


「エレキリコーダー!? 何それ!?」



そんなものがあったとは・・・・・・。


つか需要あるの、それ?


鬼怒川先輩はまたも懐から新しい縦笛を取り出し(え?)、構えて見せた。



「例によって自作だ」


「何だこの人!?」



ったく。


僕も、この空白の一ヶ月のキャリアが全く生かされていないじゃないか・・・・・・。


一ヶ月も経って先輩に対する耐性も抗体も出来ないようじゃ、学園祭まで持つかどうか・・・・・・。



「因みに君用にエレキピアニカも製作中だ」


「使わないので! 無駄なことに時間を使わないで!」



リコーダーよりも作り易いとは思うが。


あれ? それ以前にそんなような楽器が現存していたような・・・・・・。



「まったく。折角私が熱血生徒会長をやっているのに君は全然乗ってくれないんだな」


「キャラ作りだったんですか!?」



わお。


超予想外。



「最近の生徒会長は凄い。『一存』然り、『役員共』然り、『メイド様』然り。『めだかボックス』も生徒会長が主役だったような」


「インパクト・集団としては生徒会と言うのが身近であり、強烈なんでしょう。普通は男子である会長という職務を女生徒がやるのもまた、意味がありますね」


「ま、私はほとんど生徒会長としての仕事をしていないがな」


「この前、副会長が泣いてましたよ・・・・・・」



一日で三回も学園祭各部門の責任者会議に奔放しているのを見た時は流石に僕も同情した。


そして会長。


胸を張らないで下さい。



「さて、生徒会(うち)もそろそろ学園祭の出し物を考えようじゃないか」


「生徒会も出店するんですか?」


「いや、生徒会はそういうものではなく展示物を製作するのが定例だ」


「展示ですか・・・・・・」


「その通り。当日は生徒会一同忙しいからな。それに各クラスの出し物だってある。よって生徒会は店番などが必要ない校内展示をする」


「成る程。ですが先輩、残り一ヶ月全ての時間を展示に使えるわけではないんですよね。大丈夫なんですか?」



文字通り残念な展示になる気がしてならない。


『これ、誰が見て得するの?』ってやつ。


大体そういうのは製作者が楽しんでいるだけなのである。



「その点は問題は無い。生徒会の出し物と言ったものの、これは全校で造る作品だ」


「全校で?」


「そう。例えば全校生徒に写真を一枚ずつ提出してもらい、その写真を使って大きな絵を表現するとかな」


「モザイクアートですね。それを生徒会で貼って造るって訳ですか」



24時間テレビとかで見たことがある。


何枚もの写真を遠くから見える色に基づき、ぼやけた輪郭をとっていくと言う表現技法だ。



「これは例えだがな。この学校には大きな壁がないし、ボードを用意するのも面倒だからやらないが、同じようなことをしようと思ってる」



鬼怒川会長は唐突に立ち上がり生徒会室のドアを開け、僕に一緒に外へ出るように促した。


僕は何も言わず廊下に出る。



「実は私の中ではもう構成は出来ているのだ。付いて来い」



そう言うと鬼怒川先輩はさっさと歩き出してしまう。


相変わらず相手のことなどお構い無しだ。


しかし別に僕は気にしていない。


例のあいつに比べれば、まだ優しい方である。



「ここで余談をしよう。君は生徒会会則の第五章十二条は知っているか?」


「突然何ですか?」


「与太話だよ。今日の授業中に思いついたのだ」


「・・・・・・知りませんが」


「生徒会の一員としての自覚が足りない! 明日までに生徒会会則を全てノートに書き写して来い!」


「写経か!?」



くだらねえ!


本当に与太じゃねえか!



「古代朝鮮が三国に分かれている時の話だ。『あれ、国が一つ足りない』」


「百済無え!?」



危うく階段を転げ落ちるところだった。


階段って結構危ないんだから下手な冗談は止めてほしい。マジで。



「いい機会だから小ネタどんどん消化していこうじゃないか! 私にはネタになりそうでならないような微妙なやつがいっぱいあるんだ」


「冗談はこの辺にしてくださいよ。突っ込み切れるかどうか心配です」



つか無理。


僕の精神力では耐えられない。



「アダルトは英語でもadultという名詞だが、単数形の時は単語の一番目が母音のため、anと発音しなくてはならない。An adult『アン アダルト』。エロいと思わないか?『アァン、アダルトォ』」


「いきなりハズレ引いちゃったよ!」



完全に消化不良だよ!


面白いとかそういう次元じゃなかった。


かすりともしなかったよ。



「自分のクラスの下駄箱で靴を履きかえてこい」



僕のツッコミを受け流した鬼怒川先輩はそう言って自分の靴を取りに行った。


全力尽くしたんだけれど。


必死でやったんだけれども。


靴を履き替え外へ出ると、何の恥じらいも無く昇降口の前で仁王立ちしている鬼怒川先輩が目に入った。僕は無視したい気持ちを抑え、話し掛ける。



「それで、一体何をするんですか?」


「私が考えているのは大きな垂れ幕だ」


「垂れ幕?」


「そう。クラスからそれぞれ1m四方の布を提出してもらう。そしてそれらを縫い合わせ、一枚の巨大な垂れ幕を造り上げる」


「それをここに垂らす、と」


「その通りだ」



昇降口があるのは校舎の北側。各学年の教室ではなく音楽室などの特別教室がある側なので、当日垂れ幕で中が見えなくても関係が無い。


僕が校舎を見上げると先程の鬼怒川先輩と同じような格好になった。



「学年で9クラスあるので27枚、どう配置しますか?」


「あと一枚生徒会で追加し、縦7m横4mにする。クラス毎に好きな文字でも絵でも描いてもらえばモザイクアートにしなくとも、それらしくなるだろう」


「成る程。それなら縫い合わせるだけですし、生徒会の負担もあまりない。流石先輩」


「人を(なま)け上手のように褒めないでくれ。私は真面目に提案してるのだぞ」


「先輩の事だからエロ本の切り抜きで裸婦画をモザイクアートするのかと思っていましたよ」


「昨日副会長に却下された」


「既に提案していただと!?」



完全に洒落のつもりで言ったんだぜ!?



「グラビア本で良いと譲歩しても駄目だった」


「諦めが悪い!?」



それなら許可されるとでも思ったのであろうか。


棄却されて当然である。



「確かに私の趣味に生徒会、いや、全校生徒を巻き込むのはいけないと思う。それも決して褒められた趣味でない事は重々承知していたのだが、私はついつい思い付きで発言してしまう節があるだろう? だから一晩反省して考え直した」



鬼怒川先輩はビシッと僕を指差す。



「さっき職員室で生徒の作品を発表するためと言って、一教室の使用許可をとっておいた!」


「先輩が写経するべきじゃないんですか?」



部屋一つを18禁に飾り付けるつもりなのか?


・・・・・・まったく。


煩悩しか渦巻いていないこの人は天国には行けないだろう。


僕の周りにはつくづく残念な美女しか居ない。


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