表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹の暇潰し  作者: 王手
妹の手間潰し
20/45

202

壬生高校の生徒会室は一教室分の空間がありながら、あらゆる物が散らかり乱雑としていた。


並べられた事務机の上には何らかの資料が重ねてあり、載せ切れなかった紙が所々床を隠している。


棚の中が割と綺麗に見えるのは、(ほとん)ど使用する機会がないということに違いなかった。


壁に立て掛けてあるダンボールや木材は去年の学園祭の残骸(ざんがい)で、棚の上にも及んでいる。


その時に片付けて、分別し、廃棄すれば良かったのに、「来年も使う」とか「もったいない」などと本心から出ていないであろう言い訳と共にほったらかしにしたのだろう。


ガムテープで紙とは思えないほどガチガチに固められたそれらは、処分するのも面倒だというのは分からない事もないが、部屋に放置したままにしておくのは迷惑でしかない。


ただでさえ―――床の資料(ごみ)によって―――歩きにくいのに、尚更(なおさら)足の踏み場が無くなってしまっている。


ホワイトボードの足に付いているキャスターは本来の機能を果たすことなく固定式になっているのも当然だろう。


物が散乱した床を移動するには持ち上げて動かすしか方法はない。



そんなゴミ屋敷のような部屋の前方で(あるじ)よろしく、一つの事務机を陣取るのは我が高校の生徒会長様だ。


自らの足をあられもなく机上に載せ、態々(わざわざ)買ってきたというお気に入りのオフィスチェアに体重を預け、ゲームに興じている。


ここ最近、四月下旬の生徒会長の生活スタイルだ。


顔とゲームの機種は机上の資料によって確認する事はできないが、ゲームをしながら気付かずに独り言を言うタイプのようで、しきりに「うっ」「あー」とか、「死ぬ!」「次は殺す・・・」などと他人が聞けば少なからず引くような呟きまでしている。


更に時々机を叩いてその感動を表しているので、(やかま)しい事この上ない。


生徒会室には会長と庶務である僕しかいないにも関わらず、デシベルで換算すれば車のエンジン音にも匹敵するのではないかと言うほどの騒がしさだった。



「また負けた!」



鬼怒川先輩が資料の山を一つ蹴り飛ばし立ち上がった。


床にまた資料が降り積もる。


鬼怒川先輩の手を見れば、そこに握らられているのはゲームボーイ。時代を疑う古代のゲームである。


先輩の事だからまたマイナーなソフトを見つけてきたのだろう。それもまさに化石(例えばヴェロキラプトルのような)。



「タケシが倒せない!」


「察するにポケモンだ!」



王道中の王道じゃねーか。


しかも大分(だいぶ)序盤で挫折(ざせつ)してるし。



「いや、ピカチュウだけで突破するつもりなのだよ」


「たいあたりだけで!?」



ものすごいハンデだな。


一気に難易度上がっちゃったよ。


せめて別のポケモンも連れて行かないと。



「野生で捕まえたトランセルを検討中だ」


「勝つ気がない!?」



意味有り気なチョイスだな。


せめてキャタピーからじゃないと壁としか機能しないから。



「でももういい。どうせ勝てないのだから改造する」


「いやいや先輩。確かに初期のポケモンはバグを利用した改造がやり易くて有名だからって早過ぎませんか?」



まだ荷物届けてトキワの森を通過しただけじゃないか。


流石に僕も、始めて一時間でゲーム内容を書き換えようとは思わない。



「13個目の道具をセレクト長押しして・・・・・・」


「先輩、そろそろ付いて来れなくなった読者もいると思うのでその辺で・・・・・・」


「おっ、なみのりを覚えたぞ」


「タケシ死んだ! なみのりピカチュウで一掃される!」


「トランセルが」


「多才な虫だな、おい!」



つか鬼怒川先輩。あのプロローグの後で、負けたとか勝てないとか言わないでほしいんだけど・・・・・・。


人生初の敗北がゲームだなんて最悪である。



「分かった。それでは名器ゲームボーイは置いておいて、最新のゲームをするとしよう」



鬼怒川先輩はスクールバッグから新たなゲーム機を取り出した。



「3DS~」


「ドラえもんの秘密道具みたいに取り出した!?」



予想外!


不意打ちにも程がある。


しかも何気にものまねが上手い!


のぶ代さんの方だが。



「ドラミちゃんも出来るぞ」


「!?」



更にネタを被せてきたぞ!?


入試の日から今日までにいろいろと進化してますね、鬼怒川さん。



「べ、別にお兄ちゃんの事なんか好きなわけじゃないからね!」


「必要のない萌え要素ぶち込んできた!?」



しかもまた上手い!


凄く残念な感じになってる・・・・・・。



「ミニドラも出来る」


「レパートリーが何気に多い!?」



全部ドラえもん関連だが。


しかしここまでくると次は期待せざるを得ない。


まさか、先輩にこんな才能があったとは・・・・・・。



「2DS~」


「ツッコミ切れない!?」



ボケが混ざり合い過ぎて口頭では追いつけないので脳内解説。


何でミニドラなのに普通に喋ってんだよ!


何故普通のDS持ってるんだよ!


2DSって普通じゃないか!?



「よく全てに気付いてくれた!」


「フォローを必要とするボケは極力控えて下さい・・・・・・」


「私の神業はこれぐらいにして、3DSをプレイしようじゃないか」


「あ、見せてくれるんですか?」



実は僕、3DS初見である。


僕はソニー派なのでDSはあまりやらないし、妹はそもそもゲームで遊ぶような奴じゃない。


つまり見る機会がまったくないのだ。さっき鬼怒川先輩が取り出すのを見て多少は気になっていた。



「ソフトは何ですか?」


「ニンテンドックスというものだ」


「・・・・・・先輩には珍しい癒し系ですね」


「君は私を何だと思っているのだ。私も一端の乙女だぞ? 時にはこういうゲームを(いそ)しんだりするのだ。学校生活で少しずつ溜まっていくストレスを解消してくれる」



何が一端の乙女だ。


さっき机の資料を蹴り飛ばしたのはどこのどいつだよ。


まあ、敢えて公言はしないが。



「紹介しよう。愛犬の景子(けいこ)だ」



画面には首輪をつけた女性が四足歩行でフローリングの上を歩いていた。


明らかに人間の女性である。



「・・・・・・・・・」


「どうだ、私の愛犬は?最近じゃあ自分からおねだりして来て―――を―――して、―――が―――なんだけど―――で―――」


「いやらしい系だった!」



何が癒し系だよ!


何が愛犬だよ!


別の意味の犬じゃねーか!



「これは一般に販売されてないのだ。何と言っても自作だからな!」


「今日一番のドヤ顔で才能の無駄遣いをアピールしてきただと!?」



滅茶苦茶良い顔してるし、目なんかキラキラしてるのに、億単位で才能を無駄遣いしてるよ!


3Dだから出るところがしっかり出てるし!


もうゆっさゆっさで、たゆんたゆんだよ!


奥行きの無駄遣いである。



「安心しろ。本番機能もしっかり付いてる」


「ホッ。それなら安心・・・・・・・・・出来るか!どこをどうとれば心を撫で下ろす事態になるんですか!」



慣れないノリツッコミさせやがって。


つか言ってるそばから景子さんを散歩に連れて行こうとしてるし!


せめて深夜に服を着せて連れて行ってほしい。



「何が不満なのだ。猫の方がいいのか? 待っていろ、すぐにネコミミを装着してやるから」


「そんな機能まで付いてんの!?」



コスチュームチェンジまで出来るとは多機能だ・・・・・・。


普通のゲーム作れば良かったのに。



「子犬・子猫編もあるぞ」


「それはいろいろと問題がありそうなので自重してください」



そもそも女子高生とマニアックなエロゲーなんかやりたくない。


しかもその女子高生が作ったエロゲー・・・・・・。


つか鬼怒川先輩って技術者なんだな。


パソコンの同人ゲームならともかく、DSのゲームソフトを作ったわけなんだから。


パソコンとか機械系が苦手だと思うのは勝手な想像だったと言うわけか。


ん? 待てよ。


この人本当に凄い事してないか・・・・・・?


僕が思いを巡らせている間にゲームを仕舞ったらしく、鬼怒川先輩が手を組んで話しかけてきた。



「君」


「はい?」


「そろそろ生徒会を本格的に始動しようと思う」


「・・・・・・はい」



今日までのは何だったんだ?


毎日ゲームしてたじゃないか。


ま、そういう僕も隣で読書をしてたわけだが。



「部活の勧誘期間は来週で終わるから、他の生徒会のメンバーもそろそろ顔を出すと思う。六月下旬に控えた壬生高校学園祭、『(ひいらぎ)(さい)』のことを計画しないといけないからな」


「入学したと思ったらすぐに学園祭ですか・・・」



未だクラスに馴染み切れていない僕としては忙し過ぎて首が回らない。そして、恐らくそれは僕だけではないだろう。



「確かにうちの高校の学園祭は時期が早い。新入生である一年生は少し盛り上がりに欠けるな。まあ進学校なのだから仕方ないと言えばそうなのだが」



鬼怒川先輩は言った。



「結局、『柊祭』は何を言っても開催される。それなら楽しんだ者勝ちだ。まあ、教師陣には私が生徒会長に就任する事を止めなかったことを、新学期早々後悔してもらうかもしれんがな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ