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妹の暇潰し  作者: 王手
妹の時間潰し
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もし僕が落ちると言う展開を想像していた方がいらっしゃれば、「すみません」と謝っておこう。

そういう落ちも有りっちゃあ有りだが、僕にとっても作者にとっても、そういう後々収拾がつかなくなりそうになる展開は、ある程度セーブしなくては、ストーリーが進まない。

もし僕がこの高校に落ちたとして、明記していなかったが滑り止めで幾分下の私立高校を受験していました、と言う事になっていたら物語はある意味、伸展したかもしれない。


しかし。


しかしである。


今作から読み始めた人はともかく、よくよく考えてみなくとも、あの僕が受けた高校で新キャラクターが登場していることに読者の皆さんは直ぐに気付いているだろう。

あれだけ登場人物を絞りたいと饒舌(じょうぜつ)に語っていた作者が、これっきりしか会えなくなるようなシチュエーションにするわけが無いのである。

敢えて違う高校にすることで面白い関係になるかもしれないが、僕は一応町に住んでいるのでそう頻繁に出会うわけは無い。

既に一人、違う学校の女子中学生がいるし。

これ以上、運命的な遭遇を増やすのも気が引ける。

よって同じ学校にするのが無難なのだ。

したがって愉快な予想してくださった皆様には、期待を裏切ってしまい申し訳ないです、と謝るしかないのである。





時計の針は午後1時を指している。

僕は一昨日(おととい)と同じく、壬生(みぶ)高校の正門前にいた。

もっとも、今日は一人ではない。

なんと連れが居る。

態々(わざわざ)僕の入試の結果発表に一緒に来てくれたのは、妹・麻香とその友人・茅ヶ崎である。

時間も丁度、昼食を食べ終わったと言う頃だったので(近くのファミレスで(おご)らされた)、一昨日のような寒さは感じられない。

財布は、大寒波に襲われているが。

ともかく僕らは高校の昇降口前で、同じくこの高校を受験した生徒達と共に、合格者発表を今か今かと待っているところだ。



「先輩まだー? さっき食った豚カツで、立ってるのだるいんだけど」



既に数十分待たされて、寄り掛かって体重を麻香に任せた茅ヶ崎が口を尖らせた。



「奢るからと言ってがっつり食うからだ。そもそもお前、お金持ってるだろうが。何で控えめにポテトフライとかを食べないで、豚カツを注文してんだよ。僕の財布を見ろ! こんなに薄く・・・」

「豚カツは厚かったけどね」

「喧しいわ! つーか何でお前はお前でステーキセット頼んでんだよ。そこは大人しく季節の七種類キノコクリームパスタにしとけよ」

「肉じゃないと食べた気がしないんだよね」

「男か!」



紛れも無い男か、お前は!


メニューの一番裏にあるデザートコーナーで苺パフェを迷わず注文した女子がよく言うわ!


そして、おかげ様で僕の本日の昼食はサラダバーになってしまった。

トマトは沢山食べられないし、キュウリは妹に鈴虫と呼ばれた所から食べられなくなり、結局レタスで空腹を満たした。

一日でレタスをあれだけ食べたのは初めてだ。

例えると、ダイエット中のOLのキャベツの千切り。

ただ、食べまくった。

ドレッシングを一通り試して、遂には二周しちゃったよ。

ドレッシングでは、個人的にはごまダレが優勝。

麻香がくれた(押し付けた)パセリにも合う。

もしかしたらハマってしまったかもしれない。



「あたし達のおかげで新しい味覚の発見?」

「自分の手柄にしようとするな」



今日食べなくても、あの美味しさは遠からず出会っていただろうしな。

まったく図々しい。



「ごまダレ、私は家で使ってるけど」

「何!? 何で教えてくれなかったんだ!?」



つか家にあったの!?



「兄貴が『梅ジソが最強だ』なんて言ってたから」

「うっ」

「渋いのが好きなんだね」

「まあ、そんな時代もあったさ・・・」



そういえばこの前までそう思っていた。


だが。


しかし。


今現在から僕はごまダレ派となった。

一目惚れならぬ、一味惚れ。



「そんな事より―――」



麻香は空気を切り替えて言った。



「―――もし落ちたらどうする?」

「受験生にとっての禁止ワードを発表直前によく言えるな」

「今更何言っても同じだよ。それよりペナルティ考えるほうが楽しいじゃん」

「もう妹が恐ろしくて堪んねえ!」



ドSというか、性悪だ。

この性悪女が妹だという事実が、ひたすら僕の頭を悩ませる・・・。



「まずは二足歩行を禁止してみようか」

「人としての最低ラインじゃね!?」



流石と言うべきか、麻香の目の付け所は相変わらず普通じゃない・・・・・・。

退化しろというのか・・・・・・?



「せめて三足歩行にしてあげようよ」

「フォローになってないぞ、茅ヶ崎!」



寧ろ難易度上がってる。

何だ、三足歩行って。



「それから私の部屋の家具になってもらおう」

「・・・・・・どういうことだ?」

「屈んでくれれば椅子になるでしょ?」

「・・・・・・僕の人権がどんどん侵害されていくのが、はっきりと分かるな」

「え? 人権?」

「何、その反応!? 僕には人権がないとでも言うのか!?」

「・・・・・・・・・・・・」

「今度は無反応!?」



遊ばれてる。

すっげえ遊ばれてる。

昨日中学を卒業した兄が、妹に良い様に(もてあそ)ばれてる光景がそこにはあった。



「それはともかくゴミ箱としてなら何とか・・・」

「僕の家具化計画が継続してる!?」



そしてさっきよりも扱いが劣化してる気がする。



「だって、兄に座るなんて嫌だし・・・・・・」

「部屋の隅でゴミを待つ兄も相当嫌だと思うぞ」



想像しただけでも悪寒がする。



「そうだよ、麻香。先輩だって頑張るんだから自分も我慢しなきゃ」

「だからフォローになってないって言ってんだろ! お前の発言の度に状況が少しずつ悪化してるんだよ!」

「兄貴」

「ん?」

「私、頑張るよ」

「何をだ!? 頑張ったり、我慢するのは寧ろ僕の方だろ!?」



その努力ほど無駄なものは無い。

世の中には報われなくてもいい努力もある。



「他のペナルティはどうしようか」

「四足歩行と人間家具化では飽き足らず!?」

「兄貴の秘蔵本を全部燃やす」

「えげつねえ!」



今までで一番リアルで地味だが、本当に僕の嫌がるところを的確に突いてくる。

男の宝物をそう軽々しく燃やすだと・・・・・・。



「・・・・・・つか、俺のエロ本はこの前全滅したじゃねえか!」

「えっ、どういうこと? 先輩」

「数ヶ月前に図書館に行った日だよ」



茅ヶ崎と初めて会った日の事である。



「・・・ああ。・・・・・・間に合わなかったんだ・・・」



そう。


麻香は嫌がらせを本当にやっていて、僕の机の上には僕の所持する全てのエロ本が、綺麗に整頓されて並べてあったらしい。らしいと言うのは、僕が帰った頃にはビニール紐で結ばれ、次のゴミの日の為に物置に仕舞われていたからだ。



「流石に妹本は買い足されてなかったけど、全て没収されたよ。何故か母親が激怒しててな。今思えばどうしてあんなに怒ってたんだろ。いつもは見つけても黙認してくれてたんだけど・・・」

「私が買った『近親相姦・母』のせいじゃない?」

「麻香ああああああああああああああああ」



僕のコレクションに止めを刺したのはお前か!

そんな題名のエロ本を息子が持っていたら、そりゃ怒るだろ。



「まあまあ、減るもんじゃあるまいし」

「減ってんだよ! 僕の本棚の体積と、息子の立場と幸せな時間が!」

「高校入れたら彼女作りなよ」

「高校入ったら彼女作れよ」

「同情するな!」



しかも二人同時に!


と、まあ。

例に従って無駄な会話を終え、本題に戻る。



「そろそろ発表されるんじゃないか」

「うん。校舎内の教師たちもバタバタしてるし、あと直ぐで発表だと思うよ」



麻香が言い終えるのが早いか遅いか、中から白い紙で隠されたボードを、一人の中年の教師が押して来た。きっとボードにはもう一枚内側に紙が貼ってあり、合格者番号が記載されているのだろう。



「先輩の受験番号はいくつですか?」



確認するため、茅ヶ崎が()いてきた。

えっと、鞄の中に受験票が・・・。



「072だよ」

「・・・・・・。こういう場面でもやってくれるね、先輩。ある意味尊敬する」

「違えよ。適当な情報を流すな、麻香。お前ら発想が中学生か」

「中学生だもん」

「・・・そうだったな・・・・・・」



僕は茅ヶ崎の当然の一言に何も言い返せず、黙って受験票を見せた。



「何々? 069?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



そうして。

そうして僕らは合格者発表される瞬間まで、黙って顔を見合わせるのだった。





その後、僕は人込みの中、シックスナ●ンを連呼する妹と後輩の口を塞ぎながら、無事自分の番号を見つける事が出来たのだった。

狙ったように仕組まれた番号。

僕はこの呪われた運命を恨まずにはいられない。

そうは言っても合格できた事は呪われていない事だろう。


・・・・・・・・・。


そうだよな?


運命といえば、発表前に麻香とペナルティの話はあったが、そうは言っても、僕は落ちる気は更々無かった。

あの麻香の家庭教師で、受からない高校などないだろうと確信していたからだ。こういうことを運命と呼ばずして何になるか。

それにいざとなれば麻香に受験問題を全部予測(予知)してもらい、それを暗記してしまえば簡単に受かる。もうこうなっては車に轢かれて記憶が飛ばない限り、安全コースは確定である。

この方法を実行するには暗記するという事が必須条件だが、暗記なんてものは誰にでも出来る。


誰もが出来るし、誰もが行える。


言わば常套(じょうとう)手段だ。


時に記憶する事が出来ないと嘆く人もいるが、そういう人に限って他の事をひたすら暗記している。


あのアイテムは何処のダンジョンで手に入るか。


あのキャラクターはどんな台詞を喋ったか。


あのアーティストのスケジュールとか。


自分の好きな事なら何の不具合も生じずに覚える事ができる。いっその事、それと勉強を一緒にすれば計り知れない知力を手に入れられると思う。


例えば、ダンジョン『弥生』の森で『漢委奴国王(かんのなのわのこくおう)の金印』がドロップしたり、『徳川綱吉』の必殺技で『生類憐みの令』(少し見てみたい)とか。


学習アニメでも、萌えキャラがいっぱい出て来て、声優陣が豪華だったら、誰もが視聴すると思う。しつこい様だが釘宮さんとか。


話はずれるが、そもそもポケモン151匹言えた所で何の役に立つのか。


今では600を超えるらしいが、全てのポケモンを歴史上の偉人の名前にすれば少なくとも600の人の名前は暗記できるんじゃないか。

今では子供の教育への関心を惹こうとして、勉強本など出ているが、本なんか一部の人しか読まない。

勉強ゲームなんてものを子供が好き好んでプレイするわけが無い。もしやっても一時だけだ。


大切なのはさり気なさ。


ポケモンをやってる人は必ず『タウリン』という単語を覚えている事だろう。ゲーム内では攻撃力を上げるという単純なアイテムだが、実際はアミノ酸の一つでイカ・タコなどの肉エキスに多量に含まれる物質だ。

この『タウリン』を、現実ではどんな物質なのか理解している人は、プレイヤーのごく一部だろう。

しかし、『タウリン』はポケモンをやった事がある人間ならば誰もが知りうる物質なのだ。


このさり気なさ。


このさり気なさこそが、知識を増やす事で重要な状況なのである。


もう一つ例を出そう。

『オリハルコン』という単語を知っているだろうか。


それはどこへ知り得たか。


知っている人の一部はドラクエで仕入れた知識ではないかと僕は思う。

ゲームでは錬金素材だったり、全身がそれで出来たモンスターが登場したりするのだが、実際は古代ギリシャ・ローマ世界の文献に登場する合金である。想像上の都市アトランティスに存在したと呼ばれる幻の金属だ。

概要は詳しくは知りえないが、言葉なら知っている。それは無知に生きるよりも遥かに重要な事だ。

『オリハルコン』の存在はさり気ないこともないが、それでも知識として得ていることに違いない。

これが暗記なのかどうか微妙なところだが、人間の記憶は必要ないと判断されれば消えてしまうという点から、ルソーの社会契約論は不可解な物質『タウリン』よりも不要な情報と看做(みな)されているということだ。


これがどうだろう。


もし『社会契約論』というアイテムがあって、『ルソー』というモンスターが所持していたら、人は忘れる事が出来ないのではないか・・・?

結局、暗記は簡単と言いたいのか、ゲームは偉大と言いたいのか、それは敢えて底深い闇に葬り去るとしようじゃないか。


閑話休題。


合格して気の良い僕は、脈絡の無いようで意味ありげなことを語ってしまうのであった。

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