騒ぎ立つ貿易都市、そして奸雄再び現れる 2
魔力構成体生物シャプト。その脅威は計り知れない。あの大奸雄クレサイダを始めとして、異界ヘブヘルから召喚されたこの生物の犠牲になったこの世界の生物は多い。
魔法のプロ。しかも、その相手の十八番である魔法でしか効果あるダメージを与えられないと言われる。俺が相手にするには厄介過ぎる。
だが、こちらには、同世界出身の魔王様がいる。何とかなるか?
「ウニアだよね?」
「そうでございます。イルサテカ様」
異様な物体であるシャプトに平然と話し掛けるイルサという異様な光景。
シャプトであの悪名高きクレサイダで無いだけましなのだろうか。
「よくやった。ウニロイダよ」
「カイム!」
イルサが叫ぶ。翼の羽音。空に羽ばたく男。俺たちはまんまと炙り出された訳か。
「さて、イルサよ。魔王の証を渡して貰おうか?」
「絶対に嫌だ!」
魔王の証。名前からして相当重要なものらしいな。カイムに渡す訳にはいかないな。
「我が儘を言わずに状況を見ろ。ウニロイダと私を一人で倒すというのか?」
俺は戦力として頭数に入らないようだ。舐めてくれたものだ。
しかしカイムの言っていることは正しい。アレンさんが来るまで時間を稼がなくてはいけない。
セレミスキーを使おう。出し惜しみしている場合ではない。
「使わせんよ」
「リセス!」
カイムが手をこちらに向けた。波動。それだけで俺は後ろへ飛ばされた。数個のセレミスキーが地面に散らばる。くそ、フィフレの鍵が!
「さぁ、どうする?あのペグレシャンを持つ男はハシュカレが足を止めている。しばらく来んよ」
万事休すか。
この状況に対してイルサは剣を抜いた。全く馬鹿だな。だが、俺も馬鹿な方だ。唯一、手に残るはヘブヘルの鍵。
「レクス兄さん。時間を稼いでくれ」
俺の安否の確認に近付いて来たレクス兄さんに耳打ちする。
カイムがイルサに剣撃を繰り出す。カイムが一旦引くとすかさずにウニロイダの氷魔法が飛ぶ。それを交わすイルサ。
イルサもう少しだけ踏ん張れ。
「ウニロ!イルサは我がやる。そこの小僧の相手をしろ!何か喚び出すぞ!」
気付いたか。俺に向けたウニロの魔法。氷の刃が複数放たれた。
レクス兄さんが俺の前に立ち、魔法防壁で守ってくれた。魔法防壁を突き破った幾つかの氷の刃がレクス兄さんの身体を貫く。それは俺には一つも当たることは無かった。
早くしろ!次はレクス兄さんに防ぐ手段はない。イルサの味方ならば誰でも良い。対価も問わない。
現れる召喚門。開け!
頭上には氷の巨塊。日の光を遮るその影は、レクス兄さんだけでなく俺もペシャンコを意味する。
落ちてくる冷たき物体。
俺たちを濡らす冷雨。
「全くさぁ~。僕は忙しくて苛々してるんだよ。そんな最中にいきなり喚び出されてさぁ、殺意のある魔法で歓迎かい?」
召喚門から現れし、男は不機嫌そうに語った。
「あんまり僕を怒らせると、この世界、滅ぼすよ!」
蝙蝠の翼手を黒き長髪の男は、その背中越しに後ろの俺へ吼えた。
「クレサイダ!」
イルサが歓喜の声をあげる。
二度に渡りこの世界の歴史にその名を轟かせた大悪漢は再びこの世界に現れた。
皆様、大変長らく御待たせしました!
遂に待ちに待ったこの男の登場です!
えっ、誰も待ってない?
ヘブヘルよりパワーアップして帰って来たスーパークレサイダが猛威を奮う!
『クレサイダの世界征服記』
次話“伝説のスーパークレサイダ登場!”
乞うご期待を!
「次回も見てくれないと世界を滅ぼしちゃうぞ!」
(この番組は天見酒の脳内のみで放送されます)
うん、天見酒一人がテンションだだ上がりだね。