魔王の妃の語る名言
「心底我が気に入らないという面だな。小僧よ」
あぁ、気に入らない。イルサの傷心も知らずに、カイム等を誉めるあんたは。
「申したい事があるなら、言ってみよ」
未だに高笑いの余韻を残しながら、俺に挑戦的に言ってくる。その喧嘩、買ってやる。
「カイムはあんた達を殺して、イルサから魔王の証を力尽くで奪おうとしているんだぞ。あんたはそのカイムを認めるというのか?」
「認めんな」
そら見ろ!へらへらと笑える事では無いだろ。
「我に力が有ればの話だ。カイムは我に力で勝った。既にあいつは我を制して認めさせたのだ。全てをな」
「ならば、あんたは力が有れば何をやっても良いと言うのか!」
「あぁ、その通りだ。力が有れば何をやっても良い。それが真理であろう?」
また、愉しそうに笑い出すシールテカ。何故か、その笑いはラベルグさん、ラスウェルさん、シルビーさん、そしてセルツにまで伝染する。ここまで、年上達に囲まれて笑われるとさすがに立場が無い。
「申し訳ありません、シールテカ様。リセスはこういう奴なのです」
「まぁ、良い。我は中々楽しませてもらってる」
クレサイダの酷い物言いに、シールテカはご満足に頷く。
「どこか貴方は私の知り合い彼に似てるわ。ねぇ、セルツ?」
「君もそう思うかい?いやぁ、私にも常々そう思って楽しくリセ坊を見ていたのだよ」
おい、栗鼠公。俺は見せ物じゃないぞ。俺は見ていてそんなに楽しいのか?
「昔、貴方と同じ事を言った男が居たわ。武力で、世界を取るなんて許せないってね。それをたしなめた人が居た。ならば、お前はそいつから世界を護るために、武力を使わずして護れるのかってね。彼はその人に返す言葉は無かった。貴方には有るのかしら?」
俺を優しい眼で見詰めて来るシルビーさん。カイムにカタナを振るわずに、世界を護る方法が浮かぶはずもない。
「その人は、続けて言った。私達は力がなければ何も得られない。私達が選べるのは、その力で何を得るのかだ。お前はその力を持って何を得たいのだ?ってね。どうかな、リセス・ネイスト君?」
シルビーさんの眼は昔のその人達を見ながらも、俺をしっかりと見据えている。シルビーさんの問に答えられない。その代わりに自然とイルサの顔を素早く眼だけで確認してしまった。
「フフフ、それで良いの。イルサをよろしくね?」
あっ、いや、そういう訳では決して無いのだ。俺の十数年鍛えた剣技を何に使うか考えたら、勝手に眼がイルサの方に向いただけであってな?
「イルサ?この男はお前の只の従者であろうな?」
先程までの笑みが消えた元魔王様。“只の”に微妙なアクセントを置いて、イルサに鬼気迫る顔で聞く。
「違うよ、お父様。リセスはとっても仲の良い友達なんだよ。私達は一緒に御飯食べたり、一緒に寝たりするほど仲が良いんだよ」
イルサは両親に意気揚々と友人の事を自慢する餓鬼。
イルサの言っている事に虚実は全く無い。無いのだが。
「あら、もうそこまで?重ね重ねイルサをよろしくね。もう分かってると思うけどこの子は結構、初だから」
いや、貴女の勘違いする意味でイルサを任されても困ります。
「おぉ~!あのヘタレな学者に似ずに、手が速いこって」
いえ、ラベルグさん、父上はヘタレでは無いです。俺も父上に似て女性とは清く正しい付き合い方をする人間です。
「クレサイダよ?この小僧を焼き殺せ。今すぐに。くそ、我に肉体があればこんな小僧にイルサを…」
俺の隣のクレサイダの耳に近付き囁くシールテカ。俺にはその殺意に満ち足りた声がはっきりと聞こえてるぞ。
「いやぁ~、若いって良いね~?そう思わないかね?リセ坊?」
俺がそんな年寄りの達観した考えに至るにはまだまだ遠いようだ。
久々の更新です。しかもいつもにまして、短い。ちびっとシルビーさんに活躍して貰いました。
最近、戦闘書いて無いっす。でも、まだ戦闘シーンまでニ、三話挟んじゃいます。戦闘お待ちの方々暫しお待ち下さい。