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死せし英傑達との悲しき再会

勢いを付けてハグしようとするイルサと亡くなった父親との感動の再会。そうはいかなかった。父に全体重を預けるつもりだったイルサは、父の身体をすり抜けて、白黒の地面へ前のめりに倒れる。その触れぬ父がなければただ道端で転んだ女。


「…そうか、我に触れぬと言うことは、イルサはまだ死んで居らんと言うことだな?安心したぞ」


顔が涙で酷い状態のイルサの頭を撫でるふりをする前魔王。先程の見る者を畏怖に包み圧倒する雰囲気は既に無く、安心したの言葉とは裏腹に寂しそうな顔の父親と泣き続ける娘がその場に居た。


その親子に近寄りながら、俺の心に甦るクレサイダの先程の言葉。『必ずしも会える事が良いことだとは思いません』こんな悲しき再会があるのだろうか。


「んなあ!ニーセか!」


イルサの突然の登場で影となっていた前魔王の決闘相手の大男が、近寄る俺たちを見て驚きの大声をあげる。まぁ、誰を見ての事だかは分かる。かの聖女様と容姿だけはそっくりだからな。しかし、聖女であり、国の重鎮であるニーセさんを平気で呼び捨てにする人が、父上達の他に居たとは驚きだ。


「え~と、母に似て美人ですが~、私はニーセ・P・レッドラートの娘のルク・レッドラートです」


「ハァ~!ニーセ・P・レッドラートって!あいつ、嫁に行けたのか!」

いや、このおやじさんは何故にそんなに驚くんだ。ニーセさんと言ったら、クーレで知るものは居ない世界を代表する淑女だぞ。嫁にするなら聖女様のような人にしなさいと親が息子に言われるぐらいの女性だ。俺は両親にニーセのような女には引っ掛かるなと意味不明な事を言われたが。


「しかも、レッドラートって!敵軍の親玉格じゃねぇか!何がどうなってそうなった?」


一人大混乱をきたすおやじさん。まぁ、シーベルエ騎士団で一番の紳士な男性と旧ガンデア軍で一番の淑女な女性が出会った事は奇跡に近いのだろう。しかし、出会ってしまったからには当然の結果。そういうものではないのか?


「あ~、一体世の中どうなってやがんだ!おっと、悪い。色々聞きたい事はあるんからよぉ、取り敢えず中に入ろうぜ。なぁ、魔王さんよぉ!お?お前、そこの坊主!学者に似てんな?もしかして学者の息子か?」


…学者って。誰の事を指すかは何となく分かるが、俺は父上を学者と呼ぶ人間は初めて見た。



外観の全て真っ黒とは異なり、中身は全て真っ白な建物内。ここで生活したら目がおかしくなりそうだ。


「ミシャがシーベルエ騎士団であの坊主の隊に居るとはねぇ。まぁ、ある意味安心出来るちゃあ出来るがよぉ。ミシャは絶対ルーシャに似て、美人になってる。シーベルエの野郎共、手出してる輩は居ねぇだろうな」


父上が英雄と称えるニーセさんの元上官ケルック・ラベルグさん。ミシャさんとレクス兄さんが密会しているのを目撃してしまった事は、やはり胸の内にしまっておいた方が良いだろうな。


「まさかあのジンサに嫁の貰い手が出来るとは思いませんでしたよ。しかも、こんなに可愛らしい姪まで作って」


ジンさんの兄にして、シーベルエ最大の反逆者として歴史に名を残すウォッチ・レッドラート。何と言うか、ルクを見る目は噂とは違い感じが良さそうな人だ。


「あのアレンが、第3独立遊撃隊隊長になったか。こいつは面白れぇ!なぁ、ハヤセ?しかも、お前の想い人捕られちまってるぞ?リセス君、実はなここに居る堅物君はな、生前君のお母さんに…」


「ラス隊長!当人の子息の前でそう言う話をするべきでは無いです!」


アレン・レイフォートを育てたのは俺だと豪語するラスウェル元第3独立遊撃隊隊長と、その少し興味をそそられる話を顔を真っ赤にして遮るハヤセ副隊長。

その母上にまつわる話を聞きたいところではあるが、イルサ達の話の方が重要である。


「…そうか。カイムがな。取り敢えずクレサイダ、ご苦労だな」


シールテカの言葉に恭しく頭を下げるクレサイダ。


「全く、不良息子になってしまった者ね。あっ、セルツも娘を守ってくれてありがとね」


「いや、私はそこまでのことはしてないよ。彼ら若い者が頑張った結果だよ」


魔王妃でイルサの母にして、観測者クラフの妹、そしてセルツの知り合いらしい女性。何とも様々な立場をお持ちだ。

秘密多きセルツとの関係を聞いておきたいところだった。

質問は急に高笑いし出したこの男に遮られる。


「済まぬな。フッフッフ、しかし、全世界征服とはカイムも立派になったものよ」


何でこいつは至極楽しそうに笑える?お前を殺した奴だぞ。


目の前で笑う男、元魔王シールテカ。こいつの語る意味は俺より深いところにあるのは、まだ俺には分からない。元魔王と元王妃の話を聞くまでは。

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