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死の精神世界フォートン

眼が痛くなる光景と言おうか?目の前に広がるのは白と黒を交互に並べたタイル張りの地面。空は一面の白で塗り潰され、太陽どころか雲一つ浮かんでいない。直ぐ近くに見える、黒い建物の群れ。


「自然感の全く感じねぇとこだな」


地面に敷き詰められたタイルを足で叩いて確認しながらぼやくウエダさん。


「この世界の住人には必要が無いからね。取り敢えず、向こうに行こう」


クレサイダが元気が無い?何か今日は厳粛な空気を背負っているみたいだ。いや、何かに緊張しているのか。


「そう言えばクレちゃん、この世界の事全然話してくれなかったよね~?歩きながら話してよ~」

「シュナアダに口止めされてたんだよ。姫が絶対に同行したいって言い出すからって」


「何で?ここはそんなに良い世界なの?」


イルサにとって魅力的な世界。食い物が只で食い放題とかか?


「この世界には肉体を持つ生物は全く居ないんだ。いや、正確には生き物が全く居ないんだけどね」


「じゃあ、この家はどちらさんのなんだ?」


ウエダさんの質問はごもっともである。目前に迫った黒い建物群。生き物の住処らしき物があって生き物が居ないとはどういう事だ。


「ここに居るのは精神だけ。この世界は他の世界で死んだ者の精神を集めて閉じ込め、その精神を長い時をかけて、浄化する世界なのさ」


そう言いながら、集落の中へ一歩踏み出すクレサイダ。

道を行く人達。道端に座り込む人達。服装に統一感がなく、クーレで見るような服を着ている者もいれば、アースの服もいる。人種もバラバラで肌、髪、瞳の色、翼の有無等も異なっている。しかし、一様に同じなのは活気とは無縁な街。静かに歩く生気を感じられ無い人達。死んでいるのだから当たり前なのだろうが、まるで影だけが動き回っているように。この世界の人達は、何もする事無いのだろうか?


「つまり、死人の住む世界って事なのだね?とても寂しいところだね。ところで聞きたいのだがね…」


セルツがイルサからクレサイダの肩に移って聞く。


「僕も詳しくは知らないよ。浄化されてなければ会えるかもね。君の昔の仲間たちにね」


リンセン・ナールスやレクスター・シークスに会える可能性があるのか。父上が知ったら大喜びしそうだ。


「ちょっと待って!お父様やお母様に会えるのクレサイダ!」


イルサが期待を込めた瞳でクレサイダを見る。死んだ家族に会える。イルサにとっては魅力的な世界だな。


「浄化されていなければ可能性はあります。しかし、この世界は広いです。会えない可能性の方が大きいでしょう。当初の目的を忘れないように」


クレサイダが淡々と言って聞かせ、項垂れるイルサ。人生そう上手くはいかないってものだ。


「姫、死んだ人間はもう会えない。それが常なのです。僕は会うことが必ず良いことだとは思えません」


そう言いながら歩みを進めるクレサイダ。


「とにかく、欠片を探して、さっさと帰…」


「表に出やがれ!今日こそ決着を着けてやるぜ!それともなんだぁ?テメェは取り巻きが居なきゃあ、末端軍人一人にも勝てねぇてか?」


「身の程知らずが。我に対するその愚弄は高く付くぞ!」


その時だった。静まりかえる閑静な街に響く覇気のある二つの声。


扉を蹴破り勢いよく出てくる大男。クーレの軍服。しかし、カーヘルさんの軍服に似ていることから旧ガンデア出身なのだろう。声の張りといい、体格といい、死とはかけ離れた健康そうな男だ。


その男の後から追って出てきた男。羽が生えているから、ヘブヘルかアールなのだろうが、その男を見た瞬間に全身の毛が逆立つ思いをした。思わずカタナの柄を掴んだ手が震えている。その男の顔を見ただけだった。俺がそいつに勝てないと悟ったのは。何なんだ、こいつは。こんなに俺の身体が震えるのはカイムと対面して以来、いやカイム以上の恐怖の存在。何なのだ、こいつの纏う怒りの雰囲気は。


隣に居る怖いもの知らずのルクの顔にさえも怯えの表情が見え、イルサは…。泣いてる?


「おとおさま~!」


泣き声で崩れ、良く聞き取れなかったが、お父様と言ったのか?えっ、お父様って?


出てきちゃいますよ。あんな人やこんな人が!

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