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俺のするべき事

世界の事、観測者の事、介入者の事、カイムの事、イルサの事。そして、俺自身の事。


何から考えれば良いものか。俺はまず、そこから考えなければいけない。


ウエダさんは立場によって見方が異なると言った。それを考えれば、クラフ達観測者の見方は、世界を平和へ導こうとする正しくある。

しかし、マスナー達介入者は元ある世界に戻そうとしている。これにどういう意味があるのかはクラフは語ってくれなかった。介入者の立場から見てみないとその理念は分からないのだろう。

同じくカイムが何を目指しているのかは分からない。イルサにしてみれば、不良兄貴の乱行を止めたいところだろうが、シュナアダやクレサイダからしてみれば、只の国家犯罪者でしかない。


この一連の騒動を俺の立場からは、どういう見方が出来るのか?

そもそも、俺の立場ってなんだ?シーベルエ騎士団員、賢者ライシス・ネイストの息子。ジンさんや父上の存在しない世界では全く無意味な立場だ。

つまり、今の俺には立場が無い。そう考えると俺は何故にここに居るのかが分からなくなってしまった。


振り上げたカタナが空を斬る。空に見えない直線を描くつもりが、実際に空に消えた線は明らかにぶれて曲がってしまった。


「大分心が乱れてますなぁ~。女の子の事でも考えてるのかな~。いけませんなぁ」


間延びした声。月明かりで暗闇の背景から浮き出てくる見辛い黒いローブ。代わりにはっきり見えるのは、意地の悪い笑顔の貼り付いた白い顔。


「いつから、見てたんだ?」


こちらは寝小便を見られたような気まずさだ。


「ついさっきからだよ~。リセ君が部屋を一人で抜け出したから、イルちゃんを夜這いしないように見張らないとね~」

カタナを収めた俺に歩み寄りながら、生き生きとした笑顔で生き生きと抜かすルク。


「俺がするとそんな事を思うか?」


「思ってないよ~。だって、リセ君は据え膳があっても手を出せないヘタレだもん」


更に苦湯を飲まされた。俺はヘタレではなく、お前と違って節度を弁えているんだ。未婚の女性と過度な接触は避けるべきだ。それが節度で有ってだな。まぁ、こいつと言い合っても、理解されないだろうし、言い負かされるのが関の山だ。


「それで、リセ君は何を悩んでるのかなぁ~。ルクお姉さんが相談に乗ってあげるよ~?恋の悩みなら任せなさ~い」


「別に大したことじゃない」


ルクはたまに、お姉さんぶるが、たった三月俺より早く産まれただけだろうが。そして、ルクにだけは恋の悩みとやらは、絶対に相談したくない。何処に漏れるか分かったものじゃないからな。


「嘘が下手だなぁ~リセ君は。どうせ今日の話を聞いて、俺の立場ってなんだとか、俺はこれからどうすれば良いんだとか、生真面目な堅物が考えそうな事で悩んでたんでしょ~。ルクお姉ちゃんにはお見通しなのだ~」


確かに見透されていた。ローブに土が付くのも構わず、地面に座るルク。俺も隣に座れと手で土を叩く。


「そんなに俺は分かりやすいか?」


「私にはリセ君の心が手に取るように分かるんですよ~。付き合い長いしね~。ほら、その、結構、リセ君の事見てるんだよ~、私は」


そうだな。昔からの家族ぐるみの付き合いだ。この世界では、一番俺を見てきた人間だろう。しかし、


「俺もルクを同じ時間だけお前を見ているが、お前の心は一向に見透かせそうに無いぞ?」


「なぁっ!乙女の心の中は覗かなくて良いの!特にリセ君は…。この話は無し。本題に行こ~!」


そんなに焦らんでも、俺には覗けやしないぞ。


「え~と、あれだね。リセ君の立場だね~?はっきり言って無いね、リセ君の立場。ここに居なきゃいけない理由も」


すっぱりと言ってくれる。俺を落ち込ませたいのか?


「でも、私だって無いんだよ」


「だから俺もルクのように悩むなと言いたいのか?」


「違うよ。立場なんか必要なら、自分で作っちゃえば良いって言いたいの」


立場を作る?自分自身の立場を作っても虚しく無いか?


「あのね、リセ君はさぁ、イルちゃんの事、どう思ってるの?可愛いなぁとか、その、恋人にしたいなぁとか」


「お、おい。話が跳びすぎだぞ!」


何で急にイルサが出てくる。イルサを恋人にしたいかだと?有り得ないな。


「良いから答えなさい!」


ルクの眼がかつて無いほど真剣味を帯びている。気迫に圧されそうだ。何故、話さなければならない俺より前に、ルクの方が顔を赤らめているんだ。


「まぁ、あれだな。うん。イルサは恋人とかじゃなくて、妹みたいな感じだな。見ててそのどうしようも無くほっとけ無い奴だ」


そう、あいつを一人にはさせたく無い。面倒を見てやりたい。そんな奴なんだ。


「じゃあ、あれだよ。リセ君は、カイムの代わりにイルちゃんのお兄さん役割をしてあげれば良いんだよ。だから、イルちゃんを全力で守る。それがリセ君の立場になるでしょ~?」


「あぁ」


俺が兄代わりに妹を守る。そうか、そんなものなのだな、俺の立場なんか。そんな即席な立場に全力を尽くせる。俺のやるべき事が出来た。


「どうかな~?ルクお姉ちゃんに相談して良かったでしょ~?」


「あぁ、ありがとう。ルクお姉ちゃん」


今回は素直に感謝して、お姉さんぶらせてやろう。

そのお姉さんは俺の感謝の言葉に照れて俯く。弟に照れるぐらいなら、お姉さんぶるには甘いな。

「えっとね、私の今の立場はね、リセ君のお姉さん代わりだからね、リセ君は強制的に私の弟と言う立場でも在るわけなのですよ~」


俯いたまま、喋るルク。茶色い髪の合間から見える朱い耳。横顔がこちらを少し向き、茶色の瞳が下から遠慮がちに俺の顔を捉える。おねだりをするときのルクの可愛い視線。俺はこの卑怯な視線には甘い。


「だからね、弟のリセ君には私を守る義務があるんだよ~。うん、だから、私も守ってね?」


「あぁ、任せろ」


俺は平静心だ。今のルクの普段見せない姿に惑わされてなどいない。そう、立場上守ってやるのだ。


「じゃ、じゃあ、私はもう寝るね~。お休み~」


真っ赤に顔を見せないように頭を下げて走って行くルク。恥ずかしいなら言わなければ良い事だろ。全く訳の分からん奴だ。

さっきのルクを見て、俺まで恥ずかしくなって来てしまっただろう。


俺は顔の熱冷ましにもう少しカタナを振ることにしよう。

当初の予定では、この話はルクに視点を置こうと思っていたのですが、天見酒の書けない病が再発しました。


予定変更、やっぱりリセス。そしたら書ける書ける。主人公は偉大だなぁ。

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