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世界を観た男

ヘブヘルへは、休暇として立ち寄った筈だった。だからと言って、俺はダラダラと過ごす気は無かった。


しかしだ、俺はアースで負傷し、イルサの治癒魔法では、どうにもならない血液不足な身体を労るつもりであった。身体を鈍らせ無い程度の軽い運動のつもりだった。


「もうへばってるのかよ。情けない」


地面に手を突き、空気をしきりに吸う俺のそんな事情を考慮しようともしない鬼教官。最も俺の身体が万全を期していても、こいつには敵わないということは手合わせをして、はっきりと分かった。くそ、パシクダカにせめて一太刀を浴びせたい。このまま、終わらせたくない。悲鳴を上げる身体を持ち上げる。


「ヘブヘルじゃあ中々居ねぇ、良い根性だぜ」


俺と違い大して疲れていないパシクダカ。その余裕な笑みに父上譲りのクーレの根性を叩き付けてやる。


「君は何やってんのさ?少しは身体を休めるって事を考えられないのかい?」


せっかく復活した俺の闘志に水を差すクレサイダ。


「うるせぇ!男の真剣勝負に口を出すんじゃねぇ!」


全くだ!さぁ、次こそはパシクダカから一本取る。


「君達のチャンバラどうでも良いけど、リセスに用があるんだよ。後にしてくれない?僕も結構、真剣な話なんだけど」クレサイダにしては、陳情な態度だ。世間話では無いだろう。


いつの間にか俺の先生になっていたパシクダカに一礼をしてクレサイダとその場を去る事にする。



「それで、話とは何なんだ?」


城の一室。おそらく軍議を行う部屋に集まった俺たち。


全員がこれからクレサイダが語ろうとすることに集中しようとしている。机に突っ伏しているイルサ以外。朝食後シュナアダに執務室に引っ張られて行って、まぁ、色々と大変だったのだろう。


「それで、話とは何なんだ?」


イルサを何とか起こす事に成功したクレサイダに俺が代表して開口する。


「いい加減に君達も知っておくべきだと思ってね。世界の欠片について詳しく」


イルサの隣に座るクレサイダ。辺りに満ちる重々しい空気。そして、一つの欠伸。魔王様、頼むから空気を読む事を覚えてくれ。


「まぁ、僕が話しても良いんだけどね。ここには、もっと詳しく知ってる奴が居るからね。そいつに喋って貰うことにしようと思う」


クレサイダ以外の視線がイルサの後ろに立っている男に向かう。


「私はクレサイダよりは世界の欠片については知りませんよ」


シュナアダの否定に一同クレサイダへ目を戻す。一番博識に見えるシュナアダが違うなら、言うまでもなく俺たちの中にクレサイダ以上の知識を持った人間は居ないぞ。俺たちの顔の動きを見て、したり顔で自分の胸に指を向けるクレサイダ。


「ここに居るじゃないか」


いや、クレサイダが詳しくを知っているのは知っている。お前より、詳しく知ってる奴が居ると言うから…。


「伯父さん?」


イルサの発言でクレサイダが自分を指した意味が分かった。どうも俺にとってはその身体はクレサイダの物であるという意識が根付いてしまっているらしい。


「え~、でも、大丈夫なの~?イルちゃんの伯父さんに意識を与えるんでしょう?また暴れちゃたりしない~?」


「大丈夫さ。今回は僕も魔力が残ってるし、全てを明け渡す訳じゃない。こういう事も出来るしね」


クレサイダの背中から出る黒い霧状の物体。刃のように鋭い形に姿を変えて、自分の喉の前で止まる。


「クレサイダ、伯父さんにそんな事しちゃ駄目だよ!」


「姫、これは仕方ない処置なのです。こいつが暴れないとも分からないですから」


イルサも見たはずだろ。観測者の実力を。しかも、奴は必ずしもこちらの味方では無い。


「伯父さんはいい人だよ。話せば分かるもん」


まぁ、イルサにはな。いや、クレサイダの処置は正しい。あの観測者は姪のイルサにとって危険思想者だ。


「まぁ、あの観測者とか言う奴には、イルサが一番の抑止力になるじゃねえか?何か合ったら、またイルサが泣き付いて懇願すれば良いじゃんか」


ウエダさんの言うことが正しくもあるのだが。それは駄目だ。何か駄目だ。そうだろ、クレサイダ。


「心配しなくても、姫にそんな事は僕が絶対させないよ」


ウエダさんに睨みを効かせるクレサイダ。全くその通りだ。及ばずながら協力するぞ。


「じゃあ、そろそろ出てきて貰うか」


クレサイダの首が力を失い落ちる。そして、直ぐに上がる。


「ふむ、クレサイダ、どういう風の吹き回しだ」


声質は変わらないが口調は変わった。観測者が現れたのだ。


「ちょっと君に世界の欠片についてご講義願おうと思ってね」


観測者の身体の何処からか聞こえるクレサイダの声。少しその声に安堵した。シャプトとは中々便利な生き物だな。


「世界の欠片だと?何故、そんな事が知りたい。お前達の知って良い事では無い」


クレサイダと同じことを言う。確かに世界の欠片の存在など知らなければ、俺がこんな事態に巻き込まれる事はなかった。


「ところがね、観測者君。マスナーがカイムを使って集めているのだよ。世界の欠片をね」


セルツが突然発言をする。それは明らかにマスナーについて何かを知っている事を示している。この栗鼠にはまだ俺たちに隠し事があるらしい。


そして、その内容に観測者は眉をしかめる。


「成る程な。あの介入者はまた良からぬ事を始めたか」


「その良からぬ事を止めたいんだよ、僕らは」


自らの身体から聞こえる声に、しばらく無言で俺たちの顔を見ながら考え込む観測者。


「伯父さん、お願い。私たちに教えて下さい」


「クッ、分かったからそんな捨て犬のような眼で私を見るな。シルビーに似て可愛いと思ってしまうだろう」


「あんた、重度のシスコンだな。イルサ、こいつには気を付けろよ」


ウエダさんの言うシスコンの意味は分からないが、イルサが気を付けなければいけないのは確かだ。イルサ、あまり近寄るなよ。


「まぁ、まずはだな。私はクレサイダとシールテカにより、長期間眠らされ、近況に疎い。情報を整理したい。まずはそちらから今何が起きているか話して貰おうか。私が話すかはその後に決める」


中々用心深い。こちらが情報を提供しても情報を出してくれるとは限らないと言うことか。ここの判断はクレサイダに委ねるとしよう。


「じゃあ、私たちが話したら、話してくれるんだね。ありがとう。伯父さん」


イルサ、お気楽に微笑みかけるな。此方は試されてる訳であってな…。


「ウッ、まあな。観測者として話してはならない事だが、姪に頼まれたのだ。少しは無理をしよう」


姪の笑顔は観測者の職務より強いらしい。

って、おい、今、イルサの頭を撫でやがった!


「貴様、姫に気安く触れるなんて、その腕切り落とすよ!」

よし、問答無用でやってしまえ。


「なっ、少し触れただけであろう。第一、実の姪に適度なスキンシップをして何が悪い!」


絶対的に悪い。くそ、イルサも嬉しそうに眼を細めてるんじゃない。


「とにかく駄目なんだよ!今度やったら、只で済むと思うなよ」


そうだ。とにかく駄目なんだ。


「何かよ、同じ身体で喧嘩するって面白い光景だよな」


ウエダさんが暢気な事を言い出し、場が静まる。


「取り敢えず、クレサイダ君。観測者君に現状を話さないかね」


セルツの大人な発言で場が収まる。


「その前に、一つ言って起きたい」


落ち着きを取り戻した観測者。


「観測者は私だけを指す名前では無い。私の名前はクラフだ。まぁ、好きに呼んで構わんが」


此方も自己紹介をした方が良いだろうな。それにしても案外、イルサの言った通りに言葉が通じる奴だった。


「アッ、私はイルサテカです。よろしくね、クラフ伯父ちゃん」


太陽のように眩しい笑顔付きで即座に返すイルサ。その返答に僅かに頬が緩むクラフ。


「…クラフ伯父ちゃん。あっ、いや、イルサに呼ばれて気に入った訳では無くてな。まぁ、好きに呼べ」


俺の中で狼狽して訂正する男の評価は急流下りだ。いい加減に真面目に話し合わないか?後、クラフ伯父ちゃん。

イルサの頭をまた撫でようとするな!

次回こそは、シリアスに世界の欠片について迫っていきます。


何かこの話はキャラ崩壊しまくりのような。きっと気のせいですよね。

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