魔王の役目、俺の役目 2
歩く中、少し俺の餓鬼のような興奮が冷めて、代わりにイルサに間接的に迷惑を掛けてしまった罪悪感が生まれる。俺ごときが他の世界の国政に口を出してはいけなかった。
無言で俺の先を行くパシクダカ。まるで、死刑執行人に連れて行かれる罪人の気分だ。
連行された場所は他に誰も居ない城の暗い中庭。俺に向き合うパシクダカ。俺の処刑は執行される時が来た。
「坊主、この世界は力が全てだ。テメェの世界じゃどうだか知らねぇがな。イルサテカがラシルテキに力で劣る様ならば、ラシルがテカになるだけの事だ」
パシクダカは静かに怒りを露にする。
「つまり、イルサがあいつに劣ると?そうじゃないだろう。イルサの方が王として」
「あめぇよ、お前は。イルサテカにシールテカのような王としての器はねえよ。あいつはシュナアダやクレサイダ、カリサのお陰で玉座を護って貰っている奴だ。あいつは、政略も戦略も戦術も自分の世話すら出来ねぇ奴なんだよ」
こいつもシールテカの娘と言うだけでイルサを利用する奴なのか?くそ、とっとと、イルサをこの糞食らえな世界から連れ出してやる。
「…だがな」
俺から星空に眼を移すパシクダカ。
「あいつは、シールテカの野郎に似てるんだよ。まぁ、シールテカに比べれば、全然弱ぇけどよ。でも、強ぇえんだよなぁ。何かが俺は敵わない。イルサを一瞬で殺れる俺がイルサテカから玉座を奪えない。何でだろうな?」
俺に聞かれても困る。俺には分からない。イルサの強さなんて。母上が父上の事を語る時に言っていた、弱いからこそ強い人間。イルサがそうなのだろうか。
「だからよ~、まぁ、お前はヘブヘルのルールでも正しい事をやったと思うぜ。まぁ、少し過激だったが。ああ~!もう難しい話は無しだ!馬鹿な俺のする話じゃねぇ!後の御説教はクレサイダかシュナアダに聞け、以上!」
パシクダカの御説教には共感が持てた。少しだけ、心が暖まった気がした。イルサを尊敬しては居ないだろうこの軍隊長に。
「リセス、パシクダカ。ここに居たんだ!」
噂をすれば影が差す。現れたイルサ。パーティー会場とうって変わって、いつものイルサだ。
「おいおい、メインの魔王が抜け出して来て良いのかよ。シュナアダに怒られんぞ」
「病み上がりで体調が悪いって言い訳してきたから良いんだよ」
なかなか、抜け目のない奴だ。しかし、何だろう。イルサと普通にやり取りをするパシクダカ。何だか兄妹みたいに見えて、俺の中で先程までうなぎ登りだったこの人の評価が停滞する。
別にイルサとその家来が仲が良いのは良いことだ。少しだけ、イルサと仲良いパシクダカが微笑ましくて羨ましく思ってしまうのは、俺が甘い餓鬼だからだろう。
「俺はもう行くぜ。イルサテカの相手は任せた。あぁ、後、明日練兵場に来い。クーレ剣士の実力を知りたいぜ。あぁ、クソ、ナールスにリベンジしたいぜ」
俺にクーレ史上最強の剣士リンセン・ナールスの代わりが務まるとは思えない。彼を満足させられるのは、クーレ最強を競うアレンさん、カーヘルさんぐらいだ。でも、去り行くその人の背中には、自然と頭が下がる俺がいる。
「じゃあ、リセス、相手お願いね」
イルサが俺に満面の笑みを浮かべて来る。まぁ、うん、あれだ。良く知らない奴の相手するよりはマシか。
まだまだ続いちゃいます。この話。でも、一端切るのが天見酒の低クオリティ。
今日中に投稿しますので、もうちょい、お待ち下さい。