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変わる時

普通の交通事故でお袋と連れ立って死んだ親父殿。


『お前は本当に何がやりたいんだ?どうせそんな物、今のお前には無いんだろ。だったら、とにかく動けよ。そうしてれば、そのうち見えてくるもんだ。お前は動かないから何もやりたい事が無いんだ。アルバイトを繰り返すだけでなくて世界旅行に出てみるとか、エベレストを制覇してみるとか、何か自分を試すようなことをしろよ』


親父が大学を出てフリーターになった俺に言っていた酒の席での決まり文句。親父の言っている事は分かる。だが、俺が一歩踏み出す事は無かった。両親が居なくなった後も。何かでかい事をやってみたい。そんな事を思いながらも過ごす小さな日々の繰り返し。


自分を変えたい。そんなことは、いつも望んでいた。でも、挑んでいなかった。挑め無いだろ。挑んでも俺は何が出来る訳じゃない。そんな葛藤の中の日常。


それが終わった。こいつらによってぶち壊された。


望まずして得た挑みへの片道切符。後戻りは死刑へ急行しかない。


枠だけの窓の外には、道幅の狭い名ばかりの県道。通る車の数は皆無に等しい。俺がこれから行こうとしている道を示しているように前にも、後ろにも人は居ない狭い道。


俺がこいつらについて行けば、俺のやりたい事やらは俺の前に出てくるのか?情けないことにいつも通り一歩が踏み込めない。


「ウエダさん。灰、落ちますよ?」


火を点けた煙草。煙は吸われることなく宙を泳ぐ。


それを指摘した青年。俺より若い奴。でも、こんな訳の分からない旅をしている。だから、聞いてみたくなった。


「なぁ、リセスは何でこんな旅してるんだ」


俺の質問はそんなに難しいことだったのか?真剣に考え込み始めたリセス。


「自分の世界を守りたいからだと思います」


大層な事をしている割には少し自信の無さそうな表情だな。


「目的とかはっきりしてねぇのか?」


「はい…。いろいろと考える事がありますが、どれが正しいのか」


何とも模範的な奴だ。照れるクレサイダに魔力補給を目的に引っ付こうとしているイルサを僅かに見たのがバレバレだぜ、シャイボーイ。

イルサに何やら想いがあるようで。


「フム、中々面白い話をしているね、悩める若人達。そんな君たちにおじさんが助言をしてあげよう」


俺の肩にひょっこり現れた栗鼠。まぁ、実は御年八百歳という栗鼠に、その助言とやらを聞くだけ聞いてみようか。


「何かを始めるのに目的なんて初めから決まっている必要は無いのさ。何かをやっている内に見付かることもあれば、無くなることもある。そんなものを追い求めていると何も出来なくなってしまうものだよ」


この栗鼠、まるで俺の事を見透かしているように言ってくれるもんだ。


「そんな幻想的なものについて考えるのはもっと後でも良いのでは無いかね?君はまだ若いのだからね。そうは思わないかい、ウエダ君?」


とにかく動けって言いたい訳か。このチャンスを生かして。


セルツに笑みで返す俺。笑えるな、栗鼠に諭されている俺は。


俺に何が出来るかは分からんがまぁ、やるだけの事はやってみますか。


そう思うと早いところヘブヘルとやらへ行ってみたくなってきた。こんなに何かを楽しみなのは久し振りだ。

俺は上手く乗せられたもんだな。

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