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強い人

いつかの夜。シーベルエ城の一室のバルコニー。横に居る誰かと俺は興奮気味に話している。


「今日のアレンさんとカーヘルさんの試合凄かったね。僕も大きくなったら出たいな~」


「まぁ、リセスが大きくなったらな」


俺の頭を撫でる手のひら。

そうか、シーベルエ第一回剣術大会の夜。父上達とシーベルエ城に泊まったんだったな。


「ねぇ、何で父上は大会に出なかったの?父上なら優勝出来るのに」


「俺が出ても、絶対に勝ち残れないからな~。不様に散るだけだって」


我ながら子供は残酷だ。

父上の剣の腕前は見たことは無いが、流石の父上も魔法を禁止された上に剣術だけでは、世界二大剣士のアレンさんやカーヘルさんは倒せないだろう。

途中でアレンさんやカーヘルさんに当たらなければ、準決勝までは余裕で進めたとしても優勝は無理だと悟っていたのだろう。だが、そんなことを憧れの父親が勇敢に戦う姿を見たくてしょうがない息子の前では通用しない。


「父上、来年こそは出ようよ!きっと、父上なら優勝出来るよ」


まぁ、父上の顔が俺の期待に困惑するのは分かる。しかし、アレンさん、カーヘルさんに負けたと言って、この頃の俺は父上を格好悪いと思うのだろうか。今の俺ならば、アレンさんやカーヘルさんと同じ舞台に立てただけで尊敬に価するだろう。俺は第十一回大会で、予選で早くもカーヘルさんに当たってしまい涙を飲んだからな。


「あのな、俺は剣はからっきし駄目なんだって」


「でも、父上は強いんでしょ」


父上のどうしようも無いと言うような笑顔。


「あのな。リセス、お前の父ちゃんはお前が考えるほど強くはねえよ。皆が言うほど偉大な人間じゃねえし、凄い力も持ってない。賢者だ、英雄だなんて言われるより、今やってる高学院の教師の方が性に合ってる平凡な男なんだ」


俺は煙草に火を灯しながら、何かを思い深げに顔を緩めながら言う父上。


「いじけるなよ。リセス」


おそらくこの時の俺は、いつも通りそうやって自分を卑下して表現する父上に顔をしかめたのだろう。


「強さってなぁ、色々在るんだ。例えば、アレンやカーヘルみたいに剣が強い強さな。でも、それはあいつ等の強さの一つでしかない」


強さの一つ…。


「剣が強いだけなら、あいつらは強く無い。人の強さを継ぐ勇気。だから、あいつらは強い」


人の強さを継ぐ勇気。


「それだけじゃない。他にも強さはある。誰かを守ろうとする強さ。誰かの命を救う強さ。自分の仕事を果たそうとする強さ。自分の思いのままに生きようとする強さ」


「父上は一杯の強いんだね」



この時は分からなかった。今なら分かる。この時父上が仲間達の強さの話をしていた事が。


「違うな。俺はそんな強さは持って無い。弱虫で歴史馬鹿で微弱な男だ」


そう。今ならこの後父上に頭を擦られながら言われた事も分かる気がする。


「でもな、あいつらと旅して気付いたんだが、俺には誰にも負けない強さを持ってるんだぜ。これだけはこの世界で絶対に負けない強さだ」


俺の中で世界一強い父上の語る世界一の強さ。


「何でか知らないけど俺の周りには強い奴らが集まって来ちまう。アレンもユキもジンもエルもおっさんもニーセもカーヘルも。そんな奴らが俺の周りに居る。なっ、そんな強い奴らに囲まれて負ける気はしねぇだろ?だから、俺は強いんだ」


強い人を集める人の強さ。それがライシス・ネイストの持っている一番の強さ。


「僕も強い人が集めれば強くなれるの?僕も強い人を集められるかな?」


笑いを堪える父上は言う。


「そのうち勝手に集まって来るもんだぜ。お前はライシス・ネイストの息子だからな」


父上は煙草を加えながら、俺の肩を優しく二度叩く。この時の父上の言う勝手に集まって来る。今思えば、父上は俺がこいつらの中に居る事を予言していたのか。


「ライ、五才児にはまだ難し過ぎるぞ」


「ユキちゃん。お願いだから気配を消して背後に立たないでくれよ」


父上の隣に座っていた俺は後ろから、抱き抱えられ母上の膝に収められる。今思えば恥ずかしい事極まり無いが、まぁ、母上の抱擁は、心地は良い。逆らいようの無い眠気が沸き上がって来る。


「でもさぁ、ユキちゃん。ユキちゃんだってリセスに剣を教えてるじゃん。まだ、早くないか?」


「私は五才の時から竹刀を握ったぞ。忍びの道を極める為に」


「いや、リセスはニンジャにならなくて良いの。俺は優秀な歴史家になって欲しいから」


「とにかく、何をするにしても身体を鍛えておいて損は無い。誰かさんも体力が少なくて困った事が多々あるだろ?」


「俺はある程度必要な分はあるから良いの」


俺はそんな父上と母上の仲睦まじい会話を聞きながら母上の腕の中で、温もりを感じながら眠りに着く。


しかし、夜にしては明るい。

いや、そうか。これは夢だ。今は朝なんだ。起きなければな。この父上との過去の会話を忘れないように、夢の中で母上の温もりをもう少し味わいたいという十八にもなって恥ずべき感情を捨てて。


光りがぼんやりと映って来る。

おかしい。夢の中の母上の温かさがまだ抜けない。夢の母の温もりを忘れらないほど俺は甘ったれ坊主だったのか?


いや、違う。夢では握られていなかった俺の手が握られている。固い地面に横向きに寝ている俺は後ろからも抱きすくめられている。


焦点が定まって来た。目の前に映るルクの寝顔。俺の手を握って、気持ち良さそうに寝息を俺の顔に吹きかけている。こいつは眠ってる時が一番可愛らしいな。


首筋に当たる微風。その風が当たる度に俺の背中に密着して動く柔らかいもの。


回らない頭で、ルクを起こさないように首だけを回し後ろにある違和感を確かめる。


何だ。イルサが俺に引っ付いて寝てるだけか。


こいつらが俺にくっついて寝ているだけだ。


…だけだ?


急激に顔に血が昇ったせいで、回り始める頭。いや、頭が回り始めたから顔が沸騰し始めたのか?そんな事はどっちでも良い!


今の俺に重要な単語。クレサイダ、ジンさん、殺される。


その三単語が頭に飛来して、身体を勢い良く起こす。周囲にはガラスの無い窓から入る光、所々ひび割れが目立つものの滑らかな灰色の石の壁。生活用具の一つも無い建物内に人影も無し。よし、クレサイダは居ないな。しかし、甘かった。


「やぁ、リセス坊。若いって良いねえ~?おじさん、良いものを見せて貰ったよ」


クッ、今のうちにこの見物者を消して置くべきか。


「大丈夫だ。クレサイダとウエダ君は買い物と偵察に言ったよ。おじさんは口が固いしね」


断じて信用出来ん。


「リセス?起きたの!心配したよ~!」


「リセ君!起きたの~!良かったぁ!」


引っ付いていた俺の突然の動作につられて起きた二人。そのまま俺を強く挟み込む。心配するなら、今すぐ離れてくれ。


「なぁっ!リセス!何を!」


五月蝿い二人に掻き消された不吉な足音。


「…モテモテだな」


ウエダさん、そんな事より弁護を頼みます。


「ははは、姫をたぶらかしてるねぇ、リセス?しかも、姫をたぶらかすだけじゃもの足りないんだね、リセス?そこまで君が軟派者だとは思わなかったよ?ところで、人生の最後に姫に抱擁してもらえるなんて良い思い出が出来たねぇ、リセス?」


出来れば、こんな思い出を最後にしたく無い。


純粋に俺を心配して泣き付く魔王。


事態を把握してる癖に、面白半分で離れようとしない魔女。

魔王様が離れた瞬間に俺を消し炭に変えようとしている魔王従者。


ただ、状況を楽しみ、楽な傍観者になる栗鼠。


俺を助けるか少し悩んだ末に、買ってきたものを袋から出し、整理を始めるアース人。


父上、俺はこいつらが集まって、強くなれたのでしょうか。

ということで、天見酒の中では、この冒険シリーズの最強人物はやっぱりライシス・ネイストなんです。

そして、ネイストの血を引くリセスも最強になるかも。しかし、多大なる誤解と苦労を背負うのも、ネイストの呪われた宿命。


これからも天見酒からの呪いをバンバンと。


6月下旬に書き始めたこの物語も既に中盤に。


ここまでの物語は天見酒と読者様の提供でお送りしました。

ここからは天見酒と読者様の提供でお送りします。


になったら良いです。まだまだ続きますが皆さんに読み続けて頂けたら幸いです。


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