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賢い僕と賢しい栗鼠の関係

先程まで、落ち着き無く家の中を徘徊して姫は、今はタタミと言う草を編んだ床に落ち着き、寝息を立てていらっしゃる。ヘブヘルの王たる姫をこのような床上に寝かせて置いて良いものか?しかし、下手に起こし兼ねない事はするべきでは無いだろうな。リセス達が帰って来るまではこのままにしておこう。それが良い。でも、このままでは風邪を患うかもしれない。


リセスが畳んだ閉まった薄いかけ布団を引っ張り出し姫にかける。身動ぐ姫が起きないかとびくびくしながら。自分で可笑しいと思ってる。魔王シールテカの左腕、冷酷無比の魔将クレサイダと呼ばれた僕がこんな小娘にビク付いているのだからね。


しかし、仕方が無いじゃないか。見たまえ、姫のこの凛々しい寝顔を!

こんな無邪気なお顔を見せられたら、どんな敵であっても戦意を根こそぎ奪われるでは無いか。その姿を見るだけで誰もが恐れおののいたシールテカ様のような高貴なオーラを、寝ながらにして体現してしまうとは、姫はなんて恐ろしい方なんだ。


「…まだ、食べられるよぉ」


姫が寝言を漏らす。あぁ、姫は寝ながらも己の欲を満たす事に熱心なのですね。シールテカ様に似て、なんて強欲なお方なんだ。いや、食欲に関してはシールテカ様以上の凶悪さ。姫はシールテカ様を超す偉大なる魔王に成られることだろう。二代に渡り偉大なる魔王様に仕えることが出来るなんて、僕はなんて幸せものなんだ!


気持ち良さそうに寝ていられる姫。硝子の代わりに網を張った窓から入ってくる涼しげな夕風に遊ばれる、夕映えする赤髪。魔王様を洗脳したあの忌々しいシルビーから受け継いだ髪色。あの嫌いだった髪。それが姫の頭を優しそうに覆い、姫と一緒に呼吸をしているように愛らしく揺れ動いている。


触りたい。その髪の手を降っているような動きに、僕にそんな衝動が出てくる。少しぐらいならば良い…駄目だろう!僕のごとき者が姫のお身体を汚す行為をするなんて、絶対に駄目に決まってるだろ!全くなんて事を考えるんだい。


でも、姫は寝てるし、誰も見ていないし。誰にもばれない。伸ばす震える人差し指を。僕は今、姫の髪を触れようとしている、もし、シールテカ様がいらっしゃったら…殺される。でも、今は居ないじゃないか。こっ、このぐらいどうってこと無いさ。

指で撫でるだけだ。一向に震えが止まらない僕の手。

急に指を開く。焦り、気付いた時には姫の顎の下に首を絞めようとするように。僕の意志じゃない。身体が動いたとしか言えない。


「クレサイダ!」


見られていた。そう言えばこいつが居たんだ。今だけはこいつに感謝しよう。ギリギリで止めた手。この身体は姫を殺そうとしているってのかい。


「クレサイダ君、イルサ嬢の寝姿に欲情してしまうのは、若い証拠ではあって良いことだと思うがね、寝込みを犯そうとする根性は、おじさん、関心しないね」


さっきの感謝は撤回しよう。今すぐ、火葬してやる。いや、こんな栗鼠公にむざむざと魔力を使って良い状況じゃない。


「セルツ、頼みがあるんだ」


「大丈夫さ。今、見たことはリセ坊やルク嬢、勿論イルサ嬢には黙っておくよ」

「少し真剣な頼みなんだけどね」


癪だがこいつを頼るしかない。


「君は僕のこの身体が本体じゃないことは良く分かってるよね」


「あぁ、嫌と言うほど分かってるよ」


それは確認するまでも無かったよね。君は僕の本性を良く知ってるのだから。

セルツに説明するためにも、僕自身が現状を整理して受け入れるためにも僕は口を動かす。


「この身体は今は僕が魔力で押さえ付けてる。でも、この世界に魔素は存在しない。君も辛いだろ?」


「あぁ、私たち魔力を糧に生きる生物にはね。それで、クレサイダ君が魔力が補給出来ないと言うことは…」


理解が早くて助かるよ。


「この身体の元々の主がコントロールを取り戻すってことさ」


クーレでしっかりと魔力を取り込んでから来るべきだった。魔法が無い世界という時点で魔素が存在しないことは予想出来たことだ。この世界へ来るために使った莫大な魔力は仕方なくても、責めてフィフレで消費した魔力を埋めてから来るべきだった。


「この身体の本来の持ち主は、姫にとってとても危険だ。だから、もし僕が抑えられなくなったら、迷わず殺してよ」


この身体を制御出来ない状態の僕は心中するしかないけどね。姫の危険には僕なんか変えられない。


「何でおじさんに頼むのかな」


愉快そうで哀しそうな声のセルツ。


「君が適役だからだよ」


リセス、あの甘ちゃんはきっと手遅れになるまで動けないからね。ルクなら出来そうだけど。


「それに僕を倒すのは、あいつらの中で生き残った君の役目じゃないのかい?」


僕の皮肉に笑いながら“考えておくよ”と言うセルツ。少々不安は残るが、手の打ちようが他には無い。


ふと、部屋が明るくなる。姫がその明るさを手で打ち払おうと動く。


「お前ら、明かりぐらい付けろよ。昨日教えただろ」


アルバイトなる仕事を終えて帰って来たウエダ。


「リセスやルクはまだ帰って来てないのか?」


今にも破けそうな白く薄い袋をテーブルに起きながらのウエダの質問に、既に日がほとんど落ちている事に気付く。


少し遅いんじゃないか。二人して迷ったのか?いや、僕や姫の所在を感じられるルクがいて、それは無い。全く、僕に余計な心配をさせるなよ。


その時だった。リセスだけが、飛び帰って来たのは。

クレサイダが色々と壊れちゃう話でした。


次回はルク視点に移ります。リセスの出番少なくない?と思う今日この頃。まぁ、良いか!


…良くないですよね。

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