離れてた、離れていく
この世界に来て、三日目の日が暮れようとしていた。二日前にウエダさんの座っていた公園のベンチで休憩する。
長い柱に付いた時計は六時を示している。昨日一日を費やして、覚えたこの世界の数字や時計の読み方や僅かな知識。この世界の文字は複雑過ぎて覚えられた代物じゃなかったがセレミスキーに刻まれてるだろう言語変換魔法で言葉が通じれば問題無い。とは、いかなかった。
「欠片について、な~んにも分から無かったね」
俺の隣に座っているルク。ウエダさんから借りたこの世界のデザインの服、何か流線で文字の書かれたTシャツにジーンズを着ている。いつもローブを好んでいるルクのこの姿に、俺は何か可笑しく思える。ルクがルクじゃないように見える。そういえば、今日のルクは妙に大人しい。
「なっ、何かな~。私の事じっと見ちゃて~」
「いや、特には何も無い」
今日のお前、何か変だぞなんて、正直に言ってルクの報復を受けたくは無い。口は剣より強しと言うことだ。
そんな俺の厳選した言葉に眉をしかめたルク。失敗したらしい。どんな報復が来ることやら。
「リセ君と二人っきりって久しぶりだねー?」
「あっ、あぁ」
俺から視線を外して夕日に顔を向けるルクに、身構えた俺は肩透かしを喰らった。夕日を受けて、顔を赤く照らし出されたルク。本当にお前、今日はどうした?
ルクと二人っきりか…。昔はジンさん達が来た時に良く遊び相手をしていたものだったな。そういえば、今日のルクはあの頃の借りてきた猫のように大人しい。大人しい分には此方は大助かりだが…。
そういえば、ヘブヘルの姫は大人しくしているだろうか?イルサやクレサイダは翼が目立つということで、今はウエダさんの家で留守番。喋る栗鼠に到っては言わずもがなだ。
俺とルクだけで、情報収集をしに行くと言ったら、私も行くと駄々をこねて、泣き出す有り様。クレサイダに宥められ、鎮静したものの、家を出る時の捨てられた子犬のようなイルサの涙目には参った。ウエダさんにこの世界で金の代わりになると言う、1000とおじさんの顔の書かれただけの紙切れを貰った事だし、何か食べ物でも買って帰ってやるか。
「…リセ君、今イルちゃんの事考えてたでしょ?」
「あぁ、何か食べ物でも買って帰ってやるかと…」
「ヘ~ぇ、リセ君って優しいね~。イルちゃんには」
ルクの声のトーンが落ちてる。これはルクが不機嫌だということだ。俺はイルサの事を考えたらいけないのか?今のやりとりで、何でルクの言葉に棘が出てくるのかが分からん。
「リセ君って、イルちゃんが大事なんだね~」
「だから、どうした?」
別に良いだろ。イルサは仲間なんだ。大事にして何が悪い。少し、ルクの物言いは気に障る。だから、ルクに口では勝てない事は重々承知していたが、買い言葉になってしまった。ルクの眼が細まった事により、己の愚かさを知る。口技では、ネズミがドラゴンに立ち向かうような勝ち目の無い勝負だ。
「…来た」
目を元のサイズに戻したルクが突然呟く。
「この感じ、カイム達だよ~。この世界に来たよ~」
クソッ、せっかく三日前にこの世界に来たのに、欠片への差は埋まったか。
ルクと口喧嘩をしてる場合では無い。一端、休戦だ。
「あいつらの位置を探れるのか?」
「うん!カイム達の魔力は良く分かるよ~」
自信強く頷くルク。
「良し。イルサ達を迎えに行って、カイム達を捕捉するぞ!」
勢い良く立つ俺。反して、ベンチに座ったまま俯いているルク。
「おい、どうした?」
俺の声に顔をあげて、元気の無い笑みを浮かべるルク。
「私は先に、カイムを見つけてるから、イルちゃんを呼んで来なよ~」
そう言って勢い良く駆け出すルク。
「おい、一人で危ない!待て!」
俺の心配を置いて行くルク。さっきの些細な喧嘩を引き摺ってるのか。
クソッ、先にルクを追うべきか、先にイルサ達と合流するべきか?
迷いは直ぐに消えた。俺とルクだけでカイム達に太刀打ち出来る訳無いだろ!
俺はウエダさんの家を目掛けて走り出した。
ルクのバカ野郎が!
やぁやぁ、魔冒を読んでくださる読者様。お久しぶりだねぇ。
ごめんなさい。勝手に更新を休みました。少し魔冒でどう書いても、つまらないと言う状態が続きました。少なくとも作者が書いてつまらないと思う物を、読者が読んで面白いと思う筈が無い。俺の尊敬する直木賞受賞作家の御言葉です。
しかし、天見酒、パワーアップをして帰って来ましたよ。ドラクエ6の主人公がやっと転職出来るようになってパワーアップです。小説に関係あるのか?無いです。
怒らないで下さい。
これからも少しはパワーアップしたかもしれない天見酒のお送りする魔冒を宜しくお願いします。