科学世界のご馳走
「つまり、あんた達はその世界の欠片とか言うのを集める為に異世界からこの世界に、召喚魔法を使って来たって事?」
喋る栗鼠、セルツの活躍(?)により、俺たちがこの世界の人間じゃないことを信じ始めてくれたウエダさんに、クレサイダが俺たちの目的をカイム達の存在を意図的に抜いて説明した結果、ウエダさんはすんなり飲み込んでくれたようだ。
「そう言うことだよ。理解出来たかい?」
「理解出来そうで出来ねぇよ」
クレサイダにそう答えながら、住宅の並ぶ一軒の鉄柵を開くウエダさん。二階立て瓦葺き屋根の家屋。
ウエダさんが玄関を鍵を開けて俺たちを中へ率いれる。ウエダさんが暗闇の中を先に進んで壁を触る。すると、急に天井から光が満ちて、明るい廊下が現れる。
魔鉱石のシャンデリアより明るく、まるで昼間のようだ。
「此方がトイレで、此方が風呂な。どうした、遠慮なく上がれよ」
唖然としている俺たちに呼び掛けるウエダさん。ルクがその誘いに真っ先に誘われ、家に上がろうとする。
「あっおい!靴はそこで脱いでくれ」
シーベルエ育ちのルクには理解出来ない行為だろう。俺も母上にカイナに連れて行かれた時はこの習慣に驚いた。
どうやらアースはカイナの文化に近いらしいな。
ウエダさんが、靴を脱いだ俺たちをリビングに招待したところで、節操なく鳴いているイルサの腹に対して、カップメンなるものをご馳走してくれるらしい。
初めて聞く料理名に期待していたが、俺たちの前に出てきたのは、人数分の紙で出来た円柱の容器とポット。ウエダさんがポットに入ったお湯をその紙の容器に注ぐ。中には何やら固そうな物が入っていた。
「箸よりもフォークの方が良いか?」
イルサ達にカップメンという料理を置きながらウエダさんは尋ねる。ルクやイルサはこの家に溢れる奇怪な機械を眺めながら頷く。斯く言う俺も低い本棚の上に置かれた黒くて四角くガラスが全面に付いた箱や、壁に飾られた丸くて三本の棒で一つの棒が常に動いている機械などに興味は惹かれる。
俺やクレサイダが着いている木床の上のテーブルの後方に、イルサやルクは開け放たれた襖の奥の畳上の卓袱台に着いている。この世界はシーベルエ文化もあれば、カイナ文化でもあるのか。
俺に理解出来そうな事から理解していこう。早速、出された食事を食そうとしたイルサにサンプンカン待って、と指示を出したウエダさんも同じ考えのようだ。
「それで、世界の欠片とか言うのは見付かりそうか?」
「全くないね。僕たちはこの世界の知識、土地勘すら無いからね」
クレサイダがあからさまに言葉の裏に隠した言葉は俺にも読み取れる。この人に手を貸して欲しいのは皆同じだろう。唯一空いている俺やクレサイダの前の椅子に腰を下ろすウエダさん。
煙草を口に加えて、中で液体が揺れる緑に透き通る細長い小さな小道具を取り出す。上部を親指で撫でると火が生まれる。
その不思議な道具をテーブルに置き、黙って俺たちを監視し続けるウエダさん。クレサイダの遠回しなお願いの返事を考えているのだろう。
「あっ、そろそろ食って良いぞ」
俺の目の前のカップメンを煙草で指すウエダさん。サンプンカンは過ぎたらしい。お湯を入れて、このわずかな時間待つだけで食えるものなのか?
俺たちの後ろで紙を破る音が聞こえる。部屋の中になんとも良い匂いが満ちてくる。
だが、俺やクレサイダは手を付けない。今はウエダさんの返事を待つ。
「ウエダ殿。我々としては、貴公のお力添えをお願いしたいのだが、どうかね?」
テーブルの端に登っていた。セルツが今度は率直に協力を頼む。ここまで御世話になっておきながら図々しいとは思うが、今の俺たちにはこの世界で他に頼れる人物は居ない。
「俺は大したことは出来ないぞ」
念を押すように言うウエダさん。俺たちが各々に礼を言い出すと照れ隠しか、早く食えよと笑った。
カップメンは旨かった。でも、俺には少し味付けが濃いように思った。しかし、お湯だけで直ぐに出来上がるとは便利な料理だな。
やはりこの世界は凄いらしい。
カップメン!
それは貧乏学生だった天見酒が酒に金を消した時の救世主。
正に科学技術の結晶です。
大学生読者の皆様。くれぐれも不健康な食生活は止めましょう。