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日常の続きに

大学を出て二年が経つ。二年も経てば、就職時に会社に期待していた何かなど等に忘れちまった。

朝起きれば、ただ単に繰り返す日々。それは俺の天職から転職へ導く。

結局、不景気でフリーターとなってしまった。俺の夢って何だろうな。


いけない。酔っ払うとこういう負の感情が駄々漏れてしまう。歳を食ったなぁ。


自宅に帰るには、明るい表通りを歩いた方が早いが、俺は腕時計でまだ八時と言うことを確認して、わざわざ暗い裏通りに入る。人混みを一人で歩くのは嫌いだ。どっちみち、九時には家に着くだろう。何より、人目の無いところに入り込めば歩き煙草を咎める者は居まい。いつもの公園で一服して帰ろう。


この俺の習慣に従った行動が正しかったかは、結末を知っていても分からない。


公園には珍しく誰も居なかった。たまに見掛けるカップルや浮浪者も居ない。俺の貸し切りのようで良い気分だ。今だけ俺専用のベンチにだらしなく身を投げ出し、煙草に火を付ける。


気分は良かったが、俺の考え出したのは、明日の予定。バイトは入って無い。イコール予定無しだ。気分が滅入る。更に気が滅入ったのは、俺の公園に誰かが入って来た事だった。俺の目の前を横切る珍妙な集団。


「お腹空いたよー」

鈴のなるような間抜けな声。大学生ぐらいか?というかコスプレ?赤髪に染めて、瞳に赤いカラコン、レプリカだろう剣を帯び、背中には天使の翼付ける徹底ぶりだ。そして何故、肩に栗鼠を乗っけている?最近、アニメや漫画から足が遠退いてるから何の真似かは分からないが、連中に関わり合わない方が良いことは分かった。


「分かったから少し我慢しろ、イルサ。クレサイダ、これからどうする」


こちらの茶髪男子はチラッと鋭い黒眼で俺を見て、赤髪コスの女の子をなだめる。服装は黒いパーカーに黒いジーンズだが、銃刀法違反って知ってるか、僕。レプリカの帯刀が犯罪になるかは俺も知らないけどね。


「ここで一夜を明かすしか無いだろ。他に野宿に適してそうな場所は無いんだから」


おいおい揃いも揃って、無一文なのかよ。


「エェー、野宿ゥー!街の中なのに~。クレちゃん、何とかしてよ~」


無理難題を言うのは黒いローブを纏う魔女ルックの女の子。全く奇妙な連中だ。

俺はこんな連中と関わりたくは無かった。が、野宿という言葉に仏心が出してしまう。


「ここで野宿は止めとけよ。雨が降ったらどうする気なんだ。俺が帰り賃ぐらい貸してやるから家に帰れよ」


その連中の背中に有難き声を掛けてやる俺。振り返る珍妙な青年達。


「まだ家に帰れないだよ~」


魔女っ子が嘆く。おい、集団家出か。しかもそんな格好で…。

溜め息しかでない。しかし、こんな若者達をここに放置したまま帰るのも、僅かに心苦しい。

一晩、この良きお兄さんがこの青年達に社会の現実や服装について説教でも垂れてやるか。酒の肴にはなるだろう。どうせ、明日はフリーだ。

そんな軽い気持ちで出した言葉だった。


「今晩、俺の家に泊まるか?狭いけど」


「良いんですか!」


赤髪コスが喜面を表す。最近のコスプレの道具は凝ってるな。その翼が動くんだ。


「申し訳ないですが、お願い出来ますか?」


「あぁ、良いよ」


しっかりと礼儀正しく頭を下げる刀青年。

最近の若者も捨てたもんじゃないな。


「いやはや、この世界で貴公のような紳士にあえて光栄だよ」


うん?四人だけだよな?赤髪の子の方から爺臭い台詞が聞こえたぞ。


「地獄に仏とはこのことですよ。本当に助かるよ」


栗鼠が喋ってる?


「えーと、君たちは腹話術師なの?」


そうか、それでそんなおかしな格好しているんだな。


「フクワ術師ってのは何だい?」


長髪の男が真面目顔で俺に聞き返してくる。


これが俺の仏心が産み出した、とんでもない日常の続きの始まりになった。

次回はリセス主観に戻ります。この日本に似た異世界を、他世界の人が見たらどう見えるか。書いていてなかなか楽しい視点ですよ。


どうぞ、次回もお楽しみに!

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