新たな異世界へ
まだ日が登ったばかりだと言うのに、日射しは強く俺たちを照りつける。熱の籠る聖人セレミスの墓前に集った人の顔を見て、クレサイダが問う。
「それで、君たちはついて来るのかい?」
「決まってるじゃない~。クレちゃんもルクちゃんが居ないと凄く寂しいでしょ~」
「おじさんもここまで来てしまったからね。最後まで付き合ってあげようではないか」
クレサイダは既に言及する気も無く、盛大な溜め息を漏らす。反対にイルサは大歓迎している。
「リセス君、ルクを宜しくお願いね~、色々な意味で。…クレサイダ、私の可愛い娘を苛めたら怒るよー」
クレサイダに未だに敵意を見せるニーセさん。俺にこの問題娘を任せられても。色々な意味で面倒事だ。
「それで君たちが行くアースはどういう世界なんだい?科学が発達しているとは聞いた事があるけど」
「僕だって初めて行くんだ。知ってる訳無いだろ」
カーヘルさんの質問にクレサイダが素っ気なく答える。フィフレ以上に異様な世界で無ければ良いが、ほぼ情報が無いと不安になるな。危険な世界かもしれない。気を引き締め無ければいかんな。
「とっても楽しみだねぇー!」
「うん!楽しみだね!」
俺が気を引き締めなくてはいけないらしい。
カーヘルさんの手が俺の肩にかかった。これは同情ですか?
「リセス君、もう少し気を抜きなよ。肩に力が入り過ぎて構えてると、予想外の事態が起こった時に柔軟な対応が出来ないものだよ」
「そういうものでしょうか?」
優秀な人達と旅をしたカーヘルさんに、俺にかかる心労を理解出来るのだろうか?このお気楽メンバーで、俺やクレサイダまで気を抜いたら、予想外の事態で全滅しそうだ。
「案外、いつも気を抜いていて頼りなさそうな人の方が、緊急事態に頼りになるものだよ。私はそれをライシスさんやニーセさんのような人達を見て学んだよ」
そう言うカーヘルさんの笑いながらの視線は、俺でもニーセさんでもなく、ルンバットの争乱の犠牲者達の慰霊碑に注がれている。
ケルック・ラベルグ、一体どんな人物だったのだろうか?
「リセス、そろそろ行くよ。アースの鍵を貸してくれ」
クレサイダの声で、俺の思考は中断され、クレサイダに指定されたセレミスキーの一つを渡す。
クレサイダがセレミスキーを手のひらに納めて、魔力を溜める。俺は二回目となるこの召喚門が現れるまでの間。
馴れる気がしない。クレサイダの込める魔力と比例して、俺の緊張感はどんどんと高まって行く。次なる世界はどんな世界か、どんな人に出会えるのか。
自分の中に楽観を見つけ、自嘲してしまう。これでは、イルサと同程度の能天気さじゃないか。気を引き締めなくてはな。
新たなる道は開かれる。クレサイダはその門へと何の迷い無しにくぐって行く。見送りに一礼だけをして、後を追うイルサ。俺もイルサの真似をさせてもらった。
「行ってきまぁ~す!」
俺の背を追って聞こえるルクの声。
俺たちは再び新たな世界へ。
大変更新が遅くなってる天見酒です。更に今回はいつもに増して短いです。
今回で大二部終了。次回からアース編に入っていきます。
頑張って更新していきます。御応援宜しくお願いします。