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聖女の過ち

ニーセさんのウニロへの魔法の難から辛うじて逃げたカイムは言う。


「前回にしろ、今回にしろクーレ人は予想外に強いものだな。前代魔王が征服しそびれたのも納得がいく」


マスナーが水魔法でウニロだった炎を消す。いや、あれだけの魔法を受けてなお、ウニロは僅かになった身体で蠢いていた。


「やっぱり、一発じゃあ足りなかったかなー。もう一発、ご馳走してあげちゃうよー、クレサイダ君?」


ニーセさんがまた背筋を凍らせるような笑みを浮かべる。待て、クレサイダ?俺の隣に居るが…。


「嫌な奴と間違えないで欲しいものですね」


ウニロが悪あがきに氷柱を放つ。それを軽々と避けるニーセさん。


「マスナー!」


カイムがマスナーに呼び掛ける。マスナーを中心に地面に現れる魔方陣。その魔方陣もカイムが魔法で出した黒い霧に一瞬で隠された。


「逃がさないよ!」


「逃がすもんか!」


そのカイム達が居るだろう方向へクレサイダの放つ上級火魔法とニーセさんの魔法が重なる。黒い霧が晴れた後に残ったのは、大穴の空いた地面に燃える炎。


「また、異世界に逃げられたの?」


「いえ、あれは転移魔法です。まだこの世界に居るはずです」


クレサイダが苛立たしげにイルサの質問に答える。

一時の安堵に俺は気が抜けてしまっていた。


「君たちは一体何者かね?」


そう聞かれる教皇様に現状を思い出す。


「えっと、私はヘブヘルから来た…」


「姫、待って下さい」


クレサイダがイルサの正直な返答に待ったをかける。

正直に事情を言っても信じて貰える保障はなく、良い嘘も思い付かない。俺たちの周りを囲み始める聖騎士団にそのまま捕縛は勘弁願いたいところだ。


「教皇様、申し訳ありませんがこの者達の身柄を私にお預け下さいませんか?」

「しかし、それは聖女様と言えども」


ニーセさんから有り難い助け船が来た。渋る教皇様にニーセさんは優しい笑顔で諭すように話す。


「此方に居るのは私の娘。そして、そちらの青年は、あの天道の賢者ライシス・ネイストのご子息ですよ」


ニーセさんの言葉に周囲がどよめく。視線が俺へと集まる。そして、ニーセさんの止めの一言。


「もし、ここで彼への対応を間違えたとしたら、あの賢者は魔王さえも制した力を持ってルンバットを一夜で滅ぼすかもしれませんよ?」


如何に我が父が凄いのかが分かった。教皇様が俺たちの身柄をニーセさんに渡すことを即決するほど、父上の名は偉大なのだ。最も父上は歴史上最高の魔導師だが、この聖都を攻め滅ぼすような蛮行を行う筈は無い。父上は案外信心深いからな。


ニーセさんの付いて来なさいにより、無言でセレミス聖教会の中を歩く俺達。


いつの間にかセルツがイルサの肩に乗っていた。こいつもこの世界に来てしまったらしい。何故先程の戦闘に参加しなかったか問い詰めようと思ったが、その辛そうに息をする姿に責める気は失せ、ただ感謝の念が生まれる。こいつは巻き込まれただけだ。


それより、セルツ以上の不安要素がイルサの隣を歩いている。ニーセさん、カーヘルさんのかつての宿敵。争いが起こらないことを祈るしかない。


「どうぞ、入って下さい」


賓客室と書かれたドアを開けて、俺達の入室を促すニーセさん。どうやら、この教会で賓客として歓迎されていたらしい。この人に対しては当たり前の待遇だな。


一番最後に入ったカーヘルさんが扉を閉めた直後だった。


「ル~クちゃ~ん」


ニーセさんがルクに抱き着いた。それは親子の感動の再会ではなかった。


「私は、魔話器でリセ君や他の友達と遊びに遠くに行くだけだって聞いたんだけどなぁ~。だから、ジンが大袈裟に心配するのを説得してあげたんだよ~。リセ君が居れば大抵は大丈夫だしねぇ。…でも、これはどういうことなのかな?」


なるほど、ニーセさんはルクの嘘を信じて、ジンさんの親バカによるいつもの大袈裟な心配だと思っていたのか。


「え~とね、お母様。これはイルちゃん達と遠くに遊びに行った訳でも合ってね」


ニーセさんに至近距離でにっこりと見詰められるルクの言にいつもの調子が無い。


「へぇー、そうなのー。あの黒いうねうねで陰険なクレサイダと喧嘩するなんて、過激な遊びだね?」


ニーセさんの言う通り、クレサイダと喧嘩するのは少々過激になるかもしれないな。


「えっと、クレちゃんはあの喧嘩するけど、いい人だよ~」

それは判断が付かないな。


「ルクちゃんを殺そうとしたのに?」


ニーセさんの表情が氷付いた。ルクの顔は驚きを見せ、クレサイダを見る。


「クレサイダはそんなことはしません!クレサイダは確かに少し性格がひねくれてるけど、そんなことは絶体にしないよ!」


「ニーセさん、クレサイダはイルサの言ったように性格がひねてますが、俺も仲間を殺す奴じゃないと思います」


イルサが声をあげる。俺もここぞとフォローを入れておいてやろう。

クレサイダは相変わらず、壁に凭れかかり俺達を眺めている。


「えっ?仲間って?」


驚きの声をカーヘルさんが上げた。


「ちょっと待って?さっき中庭に居たシャプトは誰なの~?」


ニーセさんがルクを離して聞く。それに答えたのはクレサイダ。


「あれはウニロだよ。同じシャプトだからって、僕があんな奴と一緒にされたら溜まったもんじゃないね」


「此方がクレサイダ!」


カーヘルさんが取り乱すのを初めて見た。腰のサーベルに手が伸びている。


「あれれ~、そのイラつかせる喋り方は本当にクレサイダ君みたいだねぇ?私に殺られに来たのかなー」


「はぁ、僕は君の喋り方の方が苛つくよ。殺る気なら僕は手を抜かないよ?」


ニーセさんが杖をクレサイダに向ける。これは非常にまずい状況だ。


「クレサイダ、駄目だよ!お願いだからやめて下さい!」


「…姫。チッ、姫にここまでさせたんだ。僕は引くよ」


イルサがニーセさん、カーヘルさんに頭を下げている。


「クーレの淑女、紳士よ。この高潔なる話し合いの場を血で汚すような行為は止めようではないか?」


イルサの肩で語り出すセルツの制止効果は絶大だった。


「栗鼠が喋ったぁー!」


クーレ人にとっては驚きの生物だな。

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