聖地と戦いと遺志を継ぐ者
眼を眩まし続けた光が止む。
「ここ、どこ?」
俺の頭にイルサの質問に直ぐに答える余裕はない。
俺の目の先に立つ老人。未だに頭では理解出来ていないがその老人の顔に見覚えがある。鍵を象ったクーレなら誰でも知っている聖章が大きく描かれた修道服。そして、新聞の写真で見たその顔。
何でこのお方が俺の前に居るんだ?
後ろを伺うと聳え立つ聖人セイン・セレミスの墓とその横にちんまりと立つ二十年前のルンバット争乱の慰霊碑。そして、この俺達の登場に、唖然としている老人を見守っていただろう大勢の信者達。何で俺はここに居るんだ?
「賊だ!教皇様を御守りして、この者達を直ちに捕らえよ!」
セレミス教シンボルマークを彫った鎧を装着している男が号令をかける。動き出す聖騎士団。
「厄介な所に出ちゃたねぇ。どうする?全員殺っちゃうかい?」
小声で物騒な相談をしてくるクレサイダ。その提案は却下だ!
「駄目だ、ここで聖騎士団を攻撃したら、セレミス教徒全員が敵に回る。ここは素直に従い、レッドラート総長やシーベルエ国王に釈明を頼もう」
自治領であるルンバット、しかもセレミス教大本山セレミス大教会に不法入国した俺たちは犯罪者だ。しかも、下手に暴れれば教皇暗殺未遂が濃厚になってしまう。セレミス教と戦争をやらかすのはまずい。
「僕は処刑されなきゃ別に良いけどね。カイム達は…」素直に捕まる奴等じゃないな。聖騎士団員達の悲鳴が上がり始める。シャプトという魔力構成体のウニロの無限とも思える魔力を用いた魔法によって降る氷柱の雨。それに翻弄された所にカイム、顔傷、ハシュカレが聖騎士へ斬り込む。
「カイム達を止めるぞ!」
俺の焦った号令に反応するカイム。
「ハシュカレ、そこの老いぼれがこの組織の頭なのだろ?首を取れ」
聖騎士団員の血に濡れた剣を片手に、簡単に言ってくれるカイム。ここで教皇様を殺られたら俺達の立場も益々無くなってしまう。
ハシュカレが魔鎗を教皇様に向ける。動かそうとした俺の足が止まる。教皇様を守らないといけない。魔鎗を通すことは出来ない。集中しろ、リセス!魔鎗は不規則に動くぞ。全部読んで、全部防げ。魔鎗が動めいた。
その人が俺の前に立ったのは分かった。その人の前では魔鎗の動きがとても遅く感じた。不規則に動く魔鎗を弾く、その手と剣の動きは全く見えない。それほどその人の用いるサーベルは速すぎた。クーレで唯一勇者に勝った人、魔鎗ごときに負ける人では無かった。
「お久しぶりです。ハシュカレ中尉。また、そいつと悪ふざけをしてるんですね。大人しくして頂けないでしょうか?」
ハシュカレが魔鎗による無意味な攻撃を止めたのを見計らって、その人は話し掛けた。
「久しぶりだな。ドーヌ曽長。いや、今はドーヌ自治領領主殿だったな。そこを退け、ドーヌ」
ハシュカレは話をする気は無いようだ。魔鎗が動き出す。
カーヘルさんがそれを受ける。
「聖騎士団、此方は攻撃しないで下さい!リセス君。ハシュカレ中尉は僕が抑えます。後を頼みます。ルクちゃんは大人しくしてて下さい!」
それだけ言うと颯爽とハシュカレの懐へ駆けるカーヘルさん。とても心強い味方が現れた。
「ウゥ、私も役に立つよぉー!」
「何かムカつくよね、あの小僧は」
クレサイダとルクのカーヘルさんへの不満はこの際関係無い。不謹慎ながら、俺はあの剣聖のカーヘル・ドーヌと共に戦える事に感激を覚える。しかも、あのカーヘルさんに後を任された。俺のやる気が上がるのは当然だ。
イルサとクレサイダが、カイムとウニロ、マスナーに向けて無数の光球と火の球を放つ。しかし、ウニロの魔術防壁は破れない。周りの聖騎士達が邪魔だ。側にそいつらが居ることでイルサが力を抑えている。
ならば、俺がカイムを斬ると行きたかったが、横から出る刃。ギリギリ避ける。顔傷の二の太刀はルクの放った殺傷力の無い風魔法に防がれる。ルクの神懸かった魔法コントロールは流石だ。怯んだ顔傷へ横に薙ぎ払うが顔傷が何とか刀を縦に持ち直し防がれる。
俺の横を氷の刃が通る。クレサイダが魔法防壁で防いだが、魔法合戦は不利だろう。相手は遠慮無く力を奮えるが、こちらは聖騎士達を気にしなくてはいけない。
聖騎士達も必死だろうが、邪魔で仕方が無い。
「聖騎士団全員、そのシャプトの周囲から待避して下さい!」
そんな俺達の思考を読んでか、ハシュカレを追い詰めるカーヘルさんが突然号令を駆ける。
「雑魚どもを引かせてくれるとは、ドーヌとやら有り難い。手間が省ける」
カイムがカーヘルさんに皮肉を言う。クレサイダ、あの馬鹿たれに最上級魔法をお見舞いしてやれ。
「流石はカー君!お姉さんの事をちゃんと分かってるじゃない~。正に以心伝心だねぇ~」
その必要は無かった。退いた聖騎士達の隙間から出てきた女性。杖の先から赤い光が走る。その弱々しい魔法はウニロの魔法防壁を貫く。
神のごとき一撃。ウニロの黒き身体は炎へと消えた。その女性の鮮烈な登場にまるで魔法に懸けられたように周囲から動作が消える。
「やっぱり、私は派手にいかないとね?それにしても、性懲りも無くまた現れたんだね~、貴方は。しかも、私のルクちゃんにちょっかい出して?」
燃え上がる炎にその人の独白は続く。
「知ってる~?今日は貴方とこの教会で遊んだ日から、ちょうど二十年目何だよぉ~?今度はしっかり焼いて上げるからねー」
その人は俺の知っている聖女様では無かった。いつもの笑みの中に威圧感を称えている。これが聖女ニーセ・P・レッドラートの存在感か!
「ある意味、カイムより厄介な女が出て来ちゃったよ」
クレサイダがぼやいた。
皆さん、長らく御待たせしました。おそらく冒険記シリーズで登場キャラ人気投票やったら、堂々の一位を果たすでしょうこのお方の登場です!
うん、勿論出しますよ。前作の主人公より目立ってるんだもんこの人は。
一つ言っておこう!カー君はこの人のおまけじゃないよ?この二人のコンビが素晴らしいのだよ。