風に舞った影
イルサ達に追い付いて、丘から広々と広がる草原を眺めて見る。
これは確かに絶景だな。俺にとってはあまり良い光景とは言い難いが…。
草原の辺り一面に敷かれた木屑。端が見えない。その上で羽根を休める生物の大群。この集団に襲われたら、堪ったものではない。
「何とも、攻略しやすそうな国だね。姫、今度征服でもしてみませんか?」
首を振り全面却下する魔王様。クレサイダの方が魔王に向いているのじゃ無かろうか?
「しかし、大群とは言え、こんな無防備なところに巣を作って大丈夫なのか?」
鳥が木の上など高いところに巣を作る安全性を怠って良いのだろうか。
「おじさんはわざわざ木の上に巣を作るクーレの鳥達に驚いたけどね。リセス坊、もう一度言うけどフィフレに外敵は居ないのだよ。異世界から以外はね」
安全の保障された世界か。やはり、俺みたいな人間には拍子抜けだ。
「おっと、向こうも気付いたようだよ」
一羽の鳥が此方に向かって翔んで来て、俺達の前に降り立つ。俺を見下ろす大きさの鷹。
「こんにちは!」
イルサ、お前は警戒心と言う物は無いのか。羽根を畳む大鳥は想像していたより高い声で返事を返した。
「はい、こんにちは。お嬢さん達は異世界者なのかしら?」
「そうです。ヘブヘルから来たイルサテカです!」
「あら、元気が良いのね。フィフレへようこそイルサテカちゃん」
俺に比べて、イルサはヘブヘルやクーレよりもこの世界の住民の気質に合っているようだ。部外者を平然と受け入れられる魔王とは如何に?
「久しぶりだね、エイアハク嬢」
「あら、セルツテイン。本当にお久しぶりね。彼女達をご案内してるの?」
「あぁ、そうなのさ。早速だけど彼女達の話を聞いて、君の知識を貸してやってくれないかね?」
大鷹に気安く話しかける栗鼠。これもまた、クーレでは見れない光景だろう。
「どうぞ、何でも聞いて下さい。お姉さんの知ってる事なら何でも教えてあげますよ」
「僕たちはこの世界の欠片を探している。何処に在るか知らないかい?」
気っ風の良い鷹のお姉さんにクレサイダが不躾に質問する。そのお姉さんは予想以上の情報を持っていた。
「あら、貴方達も世界の欠片とやらを探してるの?」
「他にもお姉さんに世界の欠片について聞きに来た人がいるの?」
悪いことを聞いた。ルクがすぐにその言葉の真偽を問う。焦りからか、いつもの口調が出てない。
「ええ、昨日異界から来た人達に教えたわよ。水の国のメーランスなら持っているかも知れないって。そう言えば、イルサテカちゃんに似ている男性が居たわね。ご知り合いなの?」
イルサは良く知っているだろうな。全くもって最悪だ。
カイム達に先を越されている。何としても追い付かなくては…。
「セルツさん!すぐに水の国に案内して!カイムを追わないと…。みんな早く行こう!」
イルサが目に見えて焦っている。落ち着けと言って落ち着ける場合でも無いな。確かに直ぐに水の国へ向かった方が良いな。
「イルサ嬢、ちょっと落ち着こうではないか?」
悠長なことを言うセルツ。お前はカイムの残虐さを知らないから落ち着けるんだ。あいつは水の国に対して武力制圧ぐらいはするぞ。フィフレの住人やイルサのように平和的性格破綻者じゃ無いんだ。最もイルサの方が、まだこの状況を理解してるがな。
「エイアハス嬢、我々を水の国へ運んでくれないかね?」
エイアハスはこの頼みを快諾し、他の仲間を呼びに行く。
セルツは平和ボケなどしていなかった。こいつは予想以上に頼りなる。人の良すぎるフィフレの住人にして、何処かしら強かなクーレ人らしさを感じる。
セルツはクーレで一体何を見てきたのだろうか?
もし、機会があればセルツとゆっくり話をしてみたくなった。
まったりパートからシリアスパートへ転換して行きます。
シリアス、シリアスなのだよ、天見酒。
こう言い聞かせて置かないと天見酒の遊び心が暴走し始めるのです。次話は本当にシリアスになるのでしょうか?ならないんだろうな、おそらく。
こんな駄目な天見酒に喝を入れてやって下さい。